国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産委員会は2021年7月27日、北海道・青森県・岩手県・青森県の4道県にまたがる「北海道・北東北の縄文遺跡群」について、世界文化遺産への登録を決定しました。北海道では知床に続く2例目の世界遺産になります。
【速報】2021年7月27日(火)日本時間18:51、ユネスコ世界遺産委員会の審議の結果、 「北海道・北東北の縄文遺跡群」 が世界文化遺産に登録されました! これに伴い、ユネスコ諮問機関の勧告に関する5月26日付の記事と差し替えました。(2021年7月27日20:00追記)
鈴木直道北海道知事のコメント全文
本日、ユネスコ世界遺産委員会において、 「北海道・北東北の縄文遺跡群」 の世界文化遺産登録が決定されたことは、大変うれしく、また、「世界の宝」として認めていただいたことを誇りに思います。
平成19年8月の北海道・北東北知事サミットで共同提案の合意がなされて以来、長年にわたり、世界遺産登録を目指して、道民の皆様とともに歩んでまいりました。
この間の幾度の推薦見送りなどを経て、こうして、登録決定の瞬間を迎えられたことは、感慨無量であります。
これもひとえに、国や専門家の方々をはじめ、関係団体や道民の皆様方のお力添えと、関係市町の方々のご努力の賜であり、深く感謝申し上げます。
私としては、「北海道・北東北の縄文遺跡群」を確実に将来に引き継いでいくという大きな使命に、身の引き締まる思いであり、今後とも、国や関係自治体等と連携し、遺跡群の保存と活用に取り組み、地域の発展に繋がるよう努めてまいります。
北海道知事 鈴木 直道
世界遺産登録の経緯
「北海道・北東北の縄文遺跡群」は2009年1月、ユネスコ世界遺産センターにおいて世界遺産暫定一覧表に記載されました。
同年6月には、北海道・青森県・岩手県・秋田県の4道県知事などが協定書を締結して「縄文遺跡群世界遺産登録推進本部」を設置し、世界遺産登録に向けて取り組みを進めてきました。2018年7月、文化審議会世界文化遺産部会が世界文化遺産推薦候補に初選定しました(翌年度に引き継ぎ)。
日本政府は「Jomon Prehistoric Sites in Northern Japan」について2019年9月に暫定版推薦書、2020年1月に正式版推薦書をユネスコへ提出。ユネスコの諮問機関である国際記念物遺跡会議(イコモス)は9月の現地調査を経て「『世界遺産一覧表への記載』が適当」と評価し、2021年5月26日に世界遺産への登録を勧告しました。
ユネスコ世界遺産委員会拡大会合は2021年7月16日~31日に中国でオンライン開催され、7月27日(火)18時30分からの審議の中で世界遺産一覧表への記載が正式決定されました(決定時刻は18時51分)。10年以上にわたる世界遺産登録を目指す取り組みが結実したことになります。
これにより、日本国内の世界文化遺産は2019年の「百舌鳥・古市古墳群」(大阪府)に続いて20件目、自然遺産を含む国内の世界遺産は25件目(前日26日に登録された世界自然遺産「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」(鹿児島、沖縄)を含む)、先史時代の世界文化遺産としては国内初・最古となりました。
また、北海道が関係する世界遺産は、2005年に世界自然遺産に登録された知床に続き2例目で、世界文化遺産は初となりました。
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「北海道・北東北の縄文遺跡群」とは
今回、世界文化遺産登録が決まった「北海道・北東北の縄文遺跡群」は、北海道、青森県、岩手県、秋田県の4道県の17遺跡で構成する、縄文時代の遺跡群です。
日本最大規模の縄文集落遺跡である三内丸山遺跡(青森県)が筆頭にあがりますが、北海道内においては函館から千歳にかけての4市町6遺跡を含みます。
構成17遺跡
北海道(6)
- 垣ノ島遺跡(函館市(旧南茅部町))
- 大船遺跡(函館市(旧南茅部町))
- 入江貝塚(胆振管内洞爺湖町)
- 高砂貝塚(胆振管内洞爺湖町)
- 北黄金貝塚(伊達市)
- キウス周堤墓群(千歳市)
青森県(8)
- 大平山元遺跡(外ヶ浜町)
- 田小屋野貝塚(つがる市)
- 亀ヶ岡石器時代遺跡(つがる市)
- 二ツ森貝塚(七戸町)
- 三内丸山遺跡(青森市)
- 小牧野遺跡(青森市)
- 大森勝山遺跡(弘前市)
- 是川石器時代遺跡(八戸市)
岩手県(1)
- 御所野遺跡(一戸町)
秋田県(2)
- 伊勢堂岱遺跡(北秋田市)
- 大湯環状列石(鹿角市)
上記の他、関連遺産として2件あり、そのうちの一つとして「鷲ノ木遺跡」(渡島管内森町)があります。
遺跡群は約1万5千年~2300年前の縄文時代のもの。1万年以上もの長期にわたり農耕することなく、採集・漁労・狩猟によって定住した縄文文化の3つの時代区分(開始・発展・成熟)の過程・発達について、世界文化遺産にふさわしいと評価されたことになります。
北海道の登録6遺跡と関連1遺跡
ここからは、北海道4市町の登録遺跡6カ所と、関連遺産1町1遺跡を詳しくご紹介します。6つの登録遺跡のうち5か所は太平洋に面する場所に位置します。竪穴式住居、墓地、貝塚のほか、北海道固有の周堤墓群(千歳市)、ストーン・サークル(森町)も極めて貴重な遺跡です。
垣ノ島遺跡(かきのしまいせき)
所在地 | 函館市臼尻町(旧南茅部町) |
ガイダンス施設 | 函館市縄文文化交流センター(函館市臼尻町551-1) |
国指定史跡 | 2011年2月7日 |
時代 | 紀元前5000年(定住開始期後半) |
太平洋岸に近い垣ノ島川流域の段丘上に広がる遺跡で、竪穴式による居住地と墓地とをはっきり区分する仕方で構成される集落跡です。また、漁業が活発であったことを示す用品、子どもの足形を押し付けた粘土版の副葬品が出土したほか、国内最大級のコの字型の大規模盛土遺構があります。
大船遺跡(おおふねいせき)
所在地 | 函館市大船町(旧南茅部町) |
ガイダンス施設 | 函館市縄文文化交流センター(函館市臼尻町551-1) |
国指定史跡 | 2001年8月13日 |
時代 | 紀元前2500~2000年(定住発展期後半) |
太平洋岸に近い大船川流域の段丘上に広がる遺跡で、100棟を超す竪穴式住居群、100以上の土坑群(貯蔵庫など)が確認されているほか、祭祀・儀礼が長期にわたって行われていたことを示す土器や石器などが発掘されています。漁業が盛んであったことを示す海獣類・魚介類の骨、森林資源を活用していたことを示す堅果類も出土しています。
入江貝塚(いりえかいづか)
所在地 | 胆振管内洞爺湖町入江 |
ガイダンス施設 | 入江・高砂貝塚館(虻田郡洞爺湖町高砂町44) |
国指定史跡 | 1988年5月13日 |
時代 | 紀元前1800年(定住成熟期前半) |
噴火湾に注ぐ板谷川河口域の段丘上に存在する集落跡で、噴火湾に面する3遺跡のうちの一つです。この集落跡は竪穴式住居地、墓地、貝塚の3つエリアに大別。貝塚から海獣類や魚介類の骨、漁業などに使われた骨角器が出土しています。墓地からは筋萎縮症の成人男性の人骨が発掘されています。
高砂貝塚(たかさごかいづか)
所在地 | 胆振管内洞爺湖町高砂 |
ガイダンス施設 | 入江・高砂貝塚館(虻田郡洞爺湖町高砂町44) |
国指定史跡 | 2002年3月19日 |
時代 | 紀元前1000年(定住成熟期後半) |
噴火湾に注ぐ赤川河口域の低地に広がる共同墓地の遺跡です。入江貝塚とは目と鼻の先です。貝塚と墓地で形成されており、貝塚からは海獣類・魚介類の骨が出土しています。墓地は土坑墓と配石遺構で構成されており、土器や石器などの副葬品、赤色の顔料(ベンガラ)も確認されています。抜歯された人骨や妊産婦の人骨も見つかっています。
北黄金貝塚(きたこがねかいづか)
所在地 | 伊達市北黄金町 |
ガイダンス施設 | 史跡北黄金貝塚公園内 北黄金貝塚情報センター(伊達市北黄金町75) |
国指定史跡 | 1987年12月25日 |
時代 | 紀元前5000~紀元前3500年(定住発展期前半) |
噴火湾に注ぐ気仙川河口域の丘陵地に広がる拠点集落跡です。竪穴式住居、墓地、貝塚、水場遺構など様々な施設が見つかっています。貝塚からは海獣類・魚介類の骨、水場遺構からは木の実をすりつぶす礫石器が破損された状態で大量に出土しています。また、祭祀場は貝塚と墓地が一体化していたこと、海岸線の変化に伴って住居や貝塚が移動していることもわかっています。
キウス周堤墓群(きうすしゅうていぼぐん)
所在地 | 千歳市中央 |
ガイダンス施設 | 千歳市埋蔵文化財センター(千歳市長都42-1) |
国指定史跡 | 1979年10月23日 |
時代 | 紀元前1200年(定住成熟期後半) |
千歳市郊外の馬追丘陵から石狩低地帯(湿地帯)に向かって流れる小さな河川沿いで、かつて存在したマオイトー(馬追沼)オサツトー(長都沼)近くに位置した大規模共同墓地です。ドーナツ型の北海道固有の集団墓で、9基あるうち8基は外形30メートル以上あります。サケやマスが遡上する内陸の河川沿いにあった点で、他の5遺跡と異なります。
【関連遺跡】鷲ノ木遺跡(わしのきいせき)
所在地 | 渡島管内森町字鷲ノ木町 |
ガイダンス施設 | 森町遺跡発掘調査事務所(茅部郡森町字森川町292-24) |
国指定史跡 | 2006年1月26日 |
時代 | 紀元前2000年(定住成熟期前半) |
噴火湾沿岸から約1キロメートル内陸、桂川に近い河岸段丘上に位置します。北海道最大級の二重環状列石(ストーン・サークル)が特長の祭祀遺跡で、直径約37メートル、石の数は602を数えます。すぐそばでは竪穴墓域も発掘。江戸時代に駒ヶ岳が噴火した際に火山灰で覆われ、保存状態は極めて良好でした。道央自動車道建設ルート上で発見され、真下に高速道路を通す形で開通しました。