地域のザラッとした未完成なところが関わりしろとなって関係人口を増やす。

これまで、北海道の各地域で魅力的な関わり方や働き方を実践している人をゲストスピーカーに迎えてきた「ひみつキッチン」。オンラインで開催された今回のトークイベントでは、北海道のみならず日本各地で活動している指出一正さんが登場! 司会を担当したのは、今年度2回目となる山岸奈津子さん。終始なごやかなムードで、予定の時間を延長するほどの盛り上がりを見せていました。

16時30分からZoomでスタート。まずは司会の山岸奈津子さんが登場され、フリーランスの広報・PRプランナーであるご自身について説明されました。そして、ゲストスピーカーである指出一正さんを呼び込みます。指出さんは未来をつくるSDGsマガジン『ソトコト』の編集長であり、「関係人口」という言葉の提唱者のひとりでもあります。

指出一正さん

指出さんの自己紹介が終わると、さっそくZoomの参加者に対し、司会の山岸さんからアンケートが……「みなさん、どちらから参加されてますか?」。回答は、札幌市内からが50%、札幌以外の道内からが32%、道外からが18%と、通常より参加地域に広がりのある結果に。

今回のテーマは「関係人口のつくり方~わたしたちはローカルで幸せを見つける~」ということで、そもそも「関係人口」とは何なのか、指出さんから改めて語られます。

「比較的新しい日本語です。簡単に言うと、観光以上・移住未満の人たち。第3の人口とも言われていています。2012年くらいから使われてきた言葉ですが、特にこの5年間くらいは国の政策にもなってきています」(指出さん)

ソトコトでの「関係人口」特集

観光ではなく、その地域に足繁く通う人というのは、もともと若い人に多かったのだという指出さん。そうした関係人口が増えるきっかけのひとつとなったのが東日本大震災。若い人たちがボランティアで陸前高田市などの三陸のまちを頻繁に訪れるようになり、そうすると「また来たのね」と地元の人々から迎え入れられ、次第に自分の居場所のように感じられていったと言います。さらにはこうした心の変化も、「関係人口」を考える上で大切なのだ、と。

ここで司会の山岸さんから「今、指出さんが注目されている北海道の関係人口の事例を紹介していただけますか?」と言われ、指出さんが真っ先に挙げたのが「クスろ」でした。今年度の「ひみつキッチン」第2回オンラインイベントのゲストスピーカーとして登場した、名塚ちひろさんもメンバーに加わっている団体です。

紹介された「クスろ」の誌面

「とてもダジャレが上手い団体です。釧路のユーモアやお茶目な一面を編集という視点から日本全国に発信したところがすごい。このようなみなさんのことを「関係案内人」と言います。人と人との関係を紡いでくれる「関係案内人」が町にいると、関係人口はつくられていきやすいんです」(指出さん)

もうひとつ、下川町の取り組みも紹介してくれました。どちらの事例も未来志向で、自分たちの町を面白がる視点を持っている、とのことでした。

 さらに指出さんによれば、この2年間ほどで「関係人口」が3つのタイプに分化してきたといいます。1つは「地域内関係人口」。同じ地域で関わりを持っていく、いわば関係人口の距離が縮まったタイプです。そして2つめが「流域関係人口」。大きな川沿いのコミュニティ同士が関係性を持っていくというもので、指出さんによれば北海道に適しているのでは、とのこと。

オンラインでトークを交わす山岸さんと指出さん

最後、3つめに挙げられたのが「オンライン関係人口」。オンライン上で関係人口がつくられていくタイプで、このコロナ禍で爆発的に増えたのだそう。

 さらに司会の山岸さんが、参加者からの質問として「関係人口に興味を持った時、情報をどこで入手すればいいですか?」と投げかけます。

「内閣官房と内閣府が素敵なプラットフォームを持っています。『かかわりラボ』というもので、関係人口に関する施策に取り組んでいる市町村やNPOがたくさん参加しています。かかわりラボのフェイスブックを見ると広く情報を知ることができるんじゃないでしょうか。あとはソトコトのホームページなどを見ていただいても情報が出てきますよ」(指出さん)

 そして話題は「関わりしろ」という言葉について、進んでいきます。

「関わりしろというのは造語なんですが、ツルツルピカピカではなく、ザラッとした感じ。自分が関わってみたくなる余白とも言えます。僕は車で北海道を一周したことがあるんですが、どの町に行っても関わりしろがあるんですね。この町の人たちと町づくりをやってみたいなぁと思わせる、いい風が吹いているんです」(指出さん)

 「関わりしろは戦略的につくるものなのでしょうか?」と山岸さんが質問すると、指出さんから奈良県での事例が紹介されました。

MIND TRAILのポスター

昨年、奈良県で開催された「MIND TRAIL」という芸術祭にてキュレーターを務めたという指出さん。エリアを繋ぐ取り組みとして、なんとスナックを3店舗オープンしたというのです。 「スナックじゃないと現れない人がいます。そしてアートイベントだと現れる人がいます。その両方が関わるような斜めの関係性をつくれたらいいなぁ、と。そうした時に、スナックという場は非常に重要なんですね。地域の関係人口を増やすという時に、自分たちが楽しんでいるかどうか、その空気を見せられるかどうかが大切なんです」(指出さん)

スナックミルキーの看板(写真提供 Mao Yamamoto)

 トークイベントも終盤に差し掛かり、YouTubeのチャット欄に投稿された質問も取り上げていきます。予定の時間は過ぎてしまいましたが、それでも「まだ大丈夫ですよね?」と、指出さんはすべての質問に丁寧に答えてくれました。

 最後に、恒例となっている「今日のレシピ」を発表してもらいます。指出さんのレシピは「“関わりしろ”をちりばめたら、まちはますますおいしくなる」。

「先ほどのスナックの話も、関わりしろのひとつの例です。その地域のザラッとしたところとか未完成な部分とかを、恥ずかしがらずに、来てくれる若い人たちに見せてください。そうした関わりしろのある町に関わると、面白さ満点、おいしさ満点だと思います」(指出さん)

「関係人口」の提唱者だからこそ、その流れや現状まで、さまざまな情報を話してくださった指出さん。参加者の質問も熱を帯び、指出さんが「いい質問ですねぇ!」と頬を緩める瞬間が何度もありました。毎回のように大好評をいただいている「ひみつキッチン」アーカイブでも配信されているようですので、興味を持った人はぜひ視聴してみてくださいね。

今回の指出さんのトークや、過去のイベントのアーカイブ配信はこちら