美唄市に本店を構える「すぎうらベーカリー」は、白を基調とした清潔感漂うお店です。地元の米や小麦などを生かした商品が人気で、土日ともなると人の出入りが絶えません。新千歳空港やサービスエリアでも取り扱われるなど販路を拡大していますが、「最初から順調な経営だったわけではない」と言います。これまでの足跡や、美唄へのこだわりを杉浦忍社長に伺いました。
すぎうらベーカリー創業
▼美唄本店
すぎうらベーカリーは、1996年にパン職人だった杉浦社長の父親が創業しました。「不器用だから職人には向いていない」と言われていた杉浦社長は、店を継ぐことなど考えていなかったと言います。
しかしオープンからしばらくして父親が亡くなり、母親が2代目社長に就任。従業員だった職人と店を続けるものの、客足が伸びず苦しい状況が続きます。
杉浦社長は「経営のビジョンがないため、いずれ潰れるのは明確だった」と、当時を振り返ります。そんな状況を見かねて10年間務めた会社を退職し、2006年に3代目社長に就任しました。
▼オーナーとなった今も店先に立つ2代目社長
▼3代目となる杉浦忍社長
自分が経営に携わり、パン作りは職人が行うという分業を予定していたものの、実際に店を継いでみると、さまざまな問題に直面しました。
もっとも深刻なのは集客力です。1日の平均は10人程度。売り上げは5,000円程度という状況にありながら、人件費や設備の支払いを行わなくてはなりません。
「なぜ、うちのパンは売れないのだろうか」と考えた社長は、さまざまな店舗や工房に出向いて自分の店に足りないものを探り、ひとつの結論を導き出しました。
お米のシフォンケーキ誕生
▼地産地消の美唄に根付いたパン屋さん
「自分の店には、お客様が欲しい商品がない。いや、自分すら欲しいと思う商品がない」。これまでのパン作りは既存の材料を使っていましたが、どこでも買えるものをわざわざ遠くまで買いに来る人はいません。「そこでしか買えないものでなくては活路がない」と気づいた杉浦社長は、パン職人となるべく修業をスタートさせました。
▼「お米のシフォンケーキ」は、すぎうらベーカリーの看板商品
専門書を読み漁り、評判のいい工房を訪ね、昼夜問わずパン作りに没頭しました。
この頃、「地元の米を使った特産品を作れないだろうか」と、美唄市から相談を受けて開発したのがシフォンケーキです。カボチャや抹茶、イチゴマーブルなどバリエーションを増やし、今では1日数千個も売れる看板商品ですが、「パン屋なのになぜケーキを作るの?」、「米を使ったケーキは美味しいの?」と言った声が寄せられていました。
一進一退のようでありながら、チャンスは1年後に形になります。イトーヨーカドーの関係者と知り合い、土日だけアリオ札幌で販売するチャンスを得ました。しかし順調な滑り出しとはいかず、配送費の方が高くつくことも少なくありませんでした。
しばらくして、「まるい 道産食品セレクトショップ きたキッチン」での販売も決定。最初はパンだけの予定でしたが、お米のシフォンケーキも置くことを頼み込んで販売。少しずつ売り上げを伸ばし、人気商品に成長していきました。
▼クルミの香ばしさがたまらない「お米のくるみあんパン」
商品が売れ始めると、今度は設備不足から量産体制が取れない問題が発生します。必要な機械を導入しようにも、会社に余力がありません。そこで社長はプライベートなお金で機械を購入。それを機に量産体制が整い、次のステップに進んでいきました。
美唄から全国へ
▼チーズクリームパン
機械増設に伴う電力供給の問題などから、2012年に国道12号沿いに新店舗をオープン。翌年2013年には札幌大丸店(※2022年現在は閉店)に支店を出すまでに躍進します。近年は札幌市中央区円山地区に3号店をオープンしました。
▼「美唄産」を「ブランド」に昇華
「田舎だからと言って可能性を狭める必要はない」と杉浦社長は言います。大量生産・大量消費時代から、こだわりの製法や生産者の顔が見える商品を求める現在において、「美唄産」であることが一つのブランドとして確立しつつあります。「まだ公表できる段階ではない」としながら、1年後には首都圏の大規模施設への出店も予定しているとのこと。すぎうらベーカリーは、今後も美唄から全国へおいしさを届けてくれることでしょう。
所在地:美唄市癸巳町2区
電話:0126-64-2089
営業時間:9時~18時
定休日:不定休