北海道を味わう

石狩市浜益で愛される「ルッツ」って何?どうやって食べているの?

「ルッツ」と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、フィギュアスケートのルッツジャンプがありますが、スケート競技とは全く関係がないルッツと呼ばれる珍しい海産物が、石狩市浜益(はまます)周辺で食べられているのをご存知ですか?

秋から冬にかけて猛烈に海が荒れ狂い、波が防波堤を乗り越えるほど大シケの翌日。力尽きたように浜辺に打ち上げられる謎の生物ルッツは、浜益でも年に1~2度しかお目にかかれない貴重な海産物として知られています。

ひとたび浜に打ち上がれば、たちまちお祭り騒ぎになるほど地元民の心を掴んで離さないルッツとは、いったいどんなものなのか……? 春まだ遠い2月のオロロンラインを北上し、ルッツが待つ浜益に向かいました。

浜益でも貴重なルッツは幻の海産物

石狩市浜益で愛される「ルッツ」って何?どうやって食べているの?
(提供写真:石狩市浜益支所地域振興課)

札幌市内から車で約1時間。石狩市のなかでも北部に位置する浜益は、大型のヒラメやニシンが獲れる漁業が盛んなまち。前浜で水揚げされる魚や海産物はもちろん、サクランボ狩りができる果樹園もあって、夏のシーズンは海水浴を楽しむ人たちで賑わいます。

浜益でも、年に数回しか見ることができないルッツの捜索は、地元の情報が集まる石狩観光協会浜益事務所の三上正信所長を訪ねるところから始めました。

「ルッツはね、北海道のどこの海でもいるらしいけど、普通に食べているのは浜益くらいかな。小樽の銭函あたりでも時々寄る(打ち寄せる)みたいだけどね」と、三上さん。お隣の国、韓国でもルッツ(韓国ではケブル)料理があるそうですが、日本で郷土料理のように食べられているのは、浜益だけのようです。

ルッツの正体はムシだった?

石狩市浜益で愛される「ルッツ」って何?どうやって食べているの?
(提供写真:石狩市浜益支所地域振興課)

ルッツの正式名称はユムシ(ユムシ目ユムシ科)。ムシと聞いてギョッとしますが、普段は浅い海底の砂や泥の中に生息している無脊椎動物がその正体です。

体長は10~30㎝ほどで、浜益のルッツは15~20㎝くらいのものが多く、その大きさや色、艶ともに良質なものだそう。アイヌ語の「ルッチ(ミミズに似ている)」が呼び名の由来ですが、ミミズとはそう遠くない親戚のような生き物です。

※浜益からさらに北にある留萌管内増毛町では「ビチコ」と呼ばれているそうです。

石狩市浜益で愛される「ルッツ」って何?どうやって食べているの?
(提供写真:石狩市浜益支所地域振興課)

たとえ大シケになった日でも、海底の砂を巻き上げるようなうねりのある波がないと出てこないといいます。さまざまな天候条件がそろい、運よく打ちあがった日の浜は、地元の人たちが集まってルッツ拾いに大賑わい! 波に浮かぶウミネコたちも、嬉しそうに集まってくる待望の海の幸なのです。

石狩市浜益で愛される「ルッツ」って何?どうやって食べているの?
(提供写真:石狩市浜益支所地域振興課)

目にも鮮やかなオレンジ色と、ふっくらと弾力のあるタラコにも似た独特のフォルムですが、地元の人たちにとってもなかなかお目にかかれないルッツは、とっておきのごちそうになる食材です。海の中にこんなにいたのか!と思うほど、大量に打ち上げられる時もあるのだとか。

厳しい寒さも感じないほど楽しいルッツ拾い

▼ルッツ料理を提供している石狩市浜益の居酒屋「小銭」
石狩市浜益で愛される「ルッツ」って何?どうやって食べているの?

浜益漁港のすぐ側にある、ルッツの一品料理を提供している居酒屋「小銭(だらせん)」にお邪魔しました(だらせんとは、北海道弁で小銭のこと)。

▼ルッツのあがった日と「とったぜ るっつあるぜー」を記したユニークな張り紙
石狩市浜益で愛される「ルッツ」って何?どうやって食べているの?

「この冬は、なんと3回も来たんだよ」と、ルッツ拾いが楽しくてたまらないという女将の安保美佐子さん。店のあちらこちらに、楽しそうな字でルッツのあがった日が書かれていました。

冬の日本海は風も強く、極寒といってもいいほどシバレる波打ち際で、たったひとりで夜通しルッツ拾いに没頭する時もあるそうです。

浜益の冬の風物詩とされるルッツですが、ある年の夏の終わり。大きな台風の後にも一度あがったそうで、「その時はもうびっくりして、夢中で腰まで海に浸かりながらザルでルッツを拾いました」と、安保さん。

「ルッツの話になると興奮しちゃって!」と、笑顔の花が咲き、お話を伺っているうちに、浜益の人たちにこんなにも愛されるルッツの味を、じっくりと確かめたくなりました。

一度食べたらヤミツキになる? ルッツのおいしい食べ方とは

▼まずはルッツのお刺身をいただきたい
石狩市浜益で愛される「ルッツ」って何?どうやって食べているの?

ルッツのおいしさをダイレクトに味わいたいなら、やっぱりお刺身。赤色に近い鮮やかなオレンジ色の身から内臓などを取り除き、丁寧に下処理して細く切ってあります。生臭みもなく、上品な赤貝を食べているような食感と風味。ほんのりと潮の香りを感じ、噛むほどに甘さが増して本当においしい! いくらでも食べられそうです。

▼ルッツの三升漬け「ピリ辛ルッツ」
石狩市浜益で愛される「ルッツ」って何?どうやって食べているの?

こちらは「ピリ辛ルッツ」。醤油と青唐辛子が利いた「ルッツの三升漬け」といったところ。三升漬けとは、醤油や糀、青唐辛子を同じ割合で漬け込んで作る、北海道ではおなじみの保存食。イカの塩辛よりも歯ごたえがあり、角が取れたまろやかな辛さで、日本酒に合いそうです。

▼まるでホルモン焼き? 「フライパンルッツ」
石狩市浜益で愛される「ルッツ」って何?どうやって食べているの?

これぞルッツ!という筒状の原型を留めた「フライパンルッツ」は、内臓を取り除いて素焼きにしたもの。ルッツ本体からにじみ出る塩気と旨みは味わい深く、シコシコした歯ごたえが、まるでホルモン焼きのよう。地元の皆さんは、ジンギスカンや焼き肉の時に一緒に焼きながら、好みの味付けで食べているそうです。

そのほかにも、安保さん考案の「ルッツしゃぶしゃぶ」も好評。インパクトあるフォルムからは想像できないほどクセがなく、各家庭によって、バラエティー豊かな食べ方ができるのもルッツの魅力です。

浜益でしか食べられない幻のルッツで町おこし

「ここに来てくれた人には、とにかくおいしく食べてもらいたいし、ルッツでまちが元気になってくれたらいいなと思ってね。獲れる時はできるだけたくさん拾って、いつでも食べられるように冷凍保存しています」と、安保さん。在庫がある限りですが、夏でもルッツのお刺身が味わえるそう。

ほかの地域では見向きもされない海の生き物ですが、浜益の人たちにとって、”猛烈なシケのあとにやって来る海からのプレゼント”、それがルッツなのです。

一度食べたらヤミツキになるおいしさはもちろん、地元の人が熱く語るルッツ愛を聞きに、ぜひとも浜益まで足を伸ばして確かめてみてください。

居酒屋 小銭(だらせん)
所在地:石狩市浜益区浜益69番地 (浜益漁港からすぐ)
電話:0133-79-3739
営業時間:午後7時~12時まで、不定休

筆者について

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上坂由香

北海道札幌市出身。ぶらりひとり旅が大好きなエッセイスト。主に競走馬や旅先で見つけた素敵な風景を文字の中に綴っています。赤提灯を見つけると、自動的に入店してしまうクセが治りません。