大通公園で見かけるとうきびワゴンは、もはや札幌名物と言って過言ではないでしょう。
とうもろこしのことを北海道では「とうきび」と呼ぶのは、言わずもがな。晴れた公園で甘いとうきびにかぶりつく瞬間、地元民も観光客も北海道に今いる幸せを味わうことができるのです。
そんなとうきびワゴンの発祥は、ひとりの女性が家計の足しに始めたことでした。物語は明治時代にまで遡ります。
あの歌人をも魅了した焼きとうきびの香り
▼かつてはワゴンがこんなに連なっていたことも(写真提供:札幌観光協会)
1884(明治17)年に夫と共に愛媛県から移住してきた重延テイは、開墾のかたわら、春はわらび、ぜんまいなどの野草を、9月には焼きとうきびを売っていました。少しでも家計の足しになればと、自宅の平岸村(現在の豊平区平岸)から大通まで、重い荷物を背負って毎日のように通っていたのです。
▼テイの焼きとうきびは大人気に
とうきびは特に人気で、好評を呼びました。そこで、少しずつテイの真似をして売り始める人が増え、札幌の風物詩となっていきました。そんな明治時代に、札幌を訪れたとある歌人がこんな歌を詠んでいます。
玉蜀黍の焼くるにほひよ
この歌が収められているのは1910(明治43)に初版が発行された歌集『一握の砂』。そう、とある歌人とは、石川啄木です。
▼1981(昭和56)年、大通公園西三丁目に建てられた啄木の全身像と歌碑
札幌に滞在したのはたった2週間ということですが、啄木も大通公園を訪れてとうきびの焼ける香ばしい匂いをかいだのかと思うと、移りゆく時の妙を感じずにはいられません。
▼歌碑には「しんとして……」の歌が刻まれている
現在、とうきびワゴンで売られているのは?
▼現在のとうきびワゴン
明治時代から人気だったとうきびワゴン、では現在はどうなっているのでしょうか。
まず、4月~7月下旬と雪まつり期間中は、ニセコ・喜茂別町のハニーバンタムという種類の冷凍とうきび、7月下旬~10月8日は地物・露地ものの生とうきびを使用しています。
▼袋に入った状態で販売
販売しているとうきびは3種類。焼きとうきび、茹でとうきび、黒もちとうきびです。朝1番のとうきび以外、調理はすべてワゴンで行っています。
▼焼きとうきび(税込300円)
とうきびの甘さと醤油の香ばしさは、相性抜群。石川啄木も食べたかもしれない、昔ながらの人気の味です。
▼茹でとうきび(税込300円)
とうきび本来の味をダイレクトに楽しみたいなら、これ。自然の甘さが口いっぱいに広がります。焼きも茹でも両方味わいたい人は、それぞれ半分ずつのセット「ハーフ&ハーフ」(税込350円)もあります。
▼黒もちとうきび(税込300円)
ちょっと珍しいビジュアルなのが、黒もちとうきびです。その名の通りもちもちとした食感で、これまたおいしい。
▼じゃがバター(税込250円)
また、とうきびワゴンではじゃがバターも販売していて、こちらも北海道らしい味わいで人気を博しています。とうきび半分とじゃがバター1個の「とうきびセット」(税込300円)もあるので、いろいろ試したい欲張りさんはぜひ。
▼地元札幌市民も大好物の味!
明治時代にひとりの女性がはじめたことが、21世紀になってもまだまだ人気を呼んでいるなんて、誰が想像できたでしょう。時代を越えて愛されるというのは、それだけ北海道のとうきびがおいしいということの証なのかもしれません。
【動画】大通公園でとうきびを食べてみた!(出演:たにぐちあいり)