公益財団法人日本野鳥の会(事務局:東京都)は2020年10月1日、苫小牧市のウトナイ湖サンクチュアリで初めてタンチョウの親子を確認したと発表しました。同会によると、ウトナイ湖のある勇払原野一帯でタンチョウの繁殖が確認されたのは、約130年ぶりのこと。道東を中心としていたタンチョウの繁殖地が近年、むかわ町、長沼町など道央圏に拡大しているといいます。
勇払原野一帯で明治時代以来、約130年ぶりの繁殖確認
苫小牧市内では、弁天沼周辺で2013年以降毎年継続してタンチョウが観察されているほか、ウトナイ湖では2016年以降毎年確認されています。
ウトナイ湖周辺では2018~2019年にかけて、飛べるようになった幼鳥を連れた家族が観察されていました。また、同時に複数箇所で確認されることもあり、2020年には弁天沼でつがいと思われる2羽のタンチョウが確認されました。
勇払原野でのタンチョウ繁殖への期待が高まってきた2020年5月26日夕方、同会レンジャーがウトナイ湖サンクチュアリ内で成鳥1羽を確認。周辺を捜索したところヒナ1羽を連れた家族を確認しました。6月24日にはウトナイ湖の湿地帯でヒナを連れた家族を確認。9月5日にウトナイ湖周辺の農場で、同じ親子と思われる幼鳥1羽を連れた家族が確認されたこと(幼鳥が飛べるようになったこと)から、今回の公表に至りました。
勇払原野一帯でタンチョウの繁殖が確認されたのは、明治時代前半以来、約130年ぶりといいます。日本野鳥の会によると、「北大植物園の所蔵資料に、明治10年2月に胆振国植苗、明治11年2月に石狩国千歳で捕獲された『たんてう雛』の剥製がある」との北大在籍研究者のコメントがあるとのことで、1878年までは勇払原野一帯でタンチョウが繁殖していたと考えられています(不確実な資料としては、1881年に種不明のツル(タンチョウかマナヅル)の繁殖記録がある)。
むかわ町、長沼町でも。道央圏で拡大するタンチョウの繁殖地
1924年の再発見以来1960年代まで、タンチョウの繁殖地といえば釧路・根室エリアに限られていました。しかし、個体数増加に伴い繁殖地も徐々に拡大。1970年代に十勝地方で繁殖が確認され、1980年代に網走地方、2000年代に道北のサロベツ原野やクッチャロ湖でも繁殖が確認されるようになりました。
道央圏では、2012年に胆振管内むかわ町において、道央圏で初となるタンチョウの繁殖が確認されました。2020年5月24日には、空知管内長沼町の舞鶴遊水地でヒナ2羽が孵化していることが確認され、空知管内では明治20年代の記録以来100年以上ぶりの繁殖だと話題になったばかりです。
むかわ町のつがいは継続的に繁殖していると考えられており、今年2020年は長沼町、苫小牧市とあわせて、道央圏で少なくとも3つがいが繁殖したと言えるとのこと。
同会では今後、ウトナイ湖でタンチョウ繁殖地の保全のために調査を行い、行政機関等と協議しながら立ち入り制限を検討。また、タンチョウの移動経路になっている可能性がある美々川流域の保全活動も進めたい考えです。