札幌市民に夏の訪れを知らせてくれる一大イベントPMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル)。2018年はPMFの創設者レナード・バーンスタインの生誕100年にあたるメモリアルイヤー。例年以上に盛り上がること間違いなしのPMFについて、その28年にわたる歴史を改めて振り返ってみましょう。
奇跡が起きたPMF開幕
第1回目のPMFが開催されたのは、1990年夏のこと。その開会式の前日、当時バーンスタインと共に芸術監督を務めたロンドン交響楽団首席指揮者のマイケル・ティルソン・トーマスは「日本人は奇跡を起こす」と言ったといいます。なぜなら、PMFの開催地が札幌に正式決定したのは前年の1989年10月、オープニング・コンサートの会場となる札幌芸術の森・野外ステージは突貫工事で建設が進められ、完成したのは実にPMF開幕前日だったからです。
▼1990年当時の芸術の森・野外ステージ
急ピッチで準備を進めることになったのは、野外ステージだけではありませんでした。すでに末期のがんを患っていたバーンスタインは、宿泊先として環境の良い場所を望んでいました。
そこで白羽の矢を立てられたのが、苫小牧の自然の森に囲まれたリゾートホテル「ザ・ニドム」です。しかし当のホテルはまだ建設途中でオープン予定日はPMF開催後……。オープン前に泊まることはできません。しかし、正式オープン前のスタッフの『研修』というオーナーの特別な計らいの元、バーンスタインの滞在が可能となったのです。
▼ザ・ニドムのピアノにはバーンスタインのサインが
そうして開催された第1回PMFは大成功のうちに幕を閉じ、翌年以降も夏の風物詩として札幌市に根づいていったのです。
札幌コンサートホールKitaraもPMFの舞台に
札幌芸術の森・野外ステージと並んでPMFに欠かせない舞台となっているのが、中島公園内にある札幌コンサートホールKitaraです。1997年に完成したクラシック専用ホールで、その音響は「世界有数」と演奏家たちから絶賛されるほど。中でも特に絶賛したのが、現在PMFの芸術監督であるワレリー・ゲルリエフ。はじめてKitaraで指揮をした2002年にその音響の素晴らしさに感動し、2006年ロシアのサンクトペテルブルグに、Kitaraをモデルにしたマリインスキー劇場大ホールを完成させたのです。
1ヵ月に及ぶPMFの期間、大小ホールで開催されるさまざまな演奏会はもちろん、練習場所としても使用されるKitaraは、PMFを環境面から支えてくれる大切な存在なのです。
▼コンサートホールとして世界からも評価の高いKitara
生まれ変わった野外ステージ
また、2004年には札幌芸術の森・野外ステージが改修工事を終え、新たに「バーンスタイン・メモリアル・ステージ」として生まれ変わりました。PMFの開催がクラシックを楽しむための環境を充実させ、札幌市民と共にひとつの誇るべき文化を育てていったと言っても過言ではないのかもしれません。
▼現在の芸術の森・野外ステージ
これまで28年という歴史を歩んできたPMF。2018年はバーンスタイン生誕100年、2019年はPMF30周年と記念すべきメモリアルイヤーが続くこともあり、きっとまた新たな輝かしい歴史を紡いでいくことでしょう。