夕張市石炭博物館が2018年4月28日(土)13:00、全面改修工事を経て3シーズンぶりに完全公開(リニューアルオープン)となります。30年以上変化のなかった本館展示を一新し、最新技術を取り入れた展示内容に生まれ変わるという同博物館。いったいどのような博物館になったのでしょうか。オープンに先立ち、報道陣向けに内覧会が実施されましたので、その全貌を一足早くお伝えいたします。
時計の針が止まったままの展示を一新
▼夕張市石炭博物館の外観
夕張市石炭博物館は1980(昭和55)年7月に開館。関連施設を含め「石炭の歴史村」として全村オープンしたのが、3年後の1983(昭和58)年6月でした。従来の展示内容はほとんど開館時のままであり、30年以上にわたり再生できずにいました。1990(平成2)年に三菱南大夕張炭鉱閉山を迎え、炭都としての夕張の歴史に幕を下ろしたにもかかわらず、「時計の針が止まったままの展示」(鈴木直道市長)となっていたのです。
そこで市は、同博物館が観光施設から文化施設へ転換したこともあり、2年かけて全面リニューアルすることを決断。2016年度に炭鉱模擬坑道の改修工事、2017年度に本館の大規模改修工事を行い、展示内容を一新しました。また、市の直営からNPO法人炭鉱の記憶推進事業団(岩見沢市)の運営へと変更しました。
▼内覧会で博物館の特徴を解説する鈴木直道夕張市長
コンセプトは「生きるに向き合う博物館」。来館者が町の変遷や歴史を学んで炭都夕張で生きてきた人々の人生に触れ、自分自身の”生きる”について見直すきっかけとして、未来へ目を向けてほしいというのがその狙いです。これまでに収集した資料に加え、失われつつある人々の記憶に焦点を当てた展示が目を見張ります。
さらに、地域で支え、関りを持ってほしいとの願いから、拡張した1階エントランスを誰でも自由に入れるホールとし、市民に開放。エレベーターをエントランス中央に移設し、圧迫感のないガラス張りとしました。メタセコイヤの巨木を展示していた吹き抜けのスペースは、最大150席の大会議室(イベントホール)へと生まれ変わりました。
▼エレベーターをエントランス中央に移設
▼1階に大会議室が誕生
時系列でまちの変遷を学べる、2階展示スペース
2階の有料展示スペースも大きく様変わりしました。まず最初に目に入るのは、夕張の目次のスペース。夕張市の概要説明と時代のキーワードを展示し、展示物への期待を高めます。
▼夕張の目次(2階有料展示スペース)
▼人感センサーで映像が流れる(2階吹き抜けスペース)
2階のメインスペースは、夕張の年表に基づいた時系列の展示が特徴です。壁面には、赤と黒のラインが長く引かれています。これは、夕張市の人口と石炭生産量を折れ線グラフで示したもの。ピーク時には11万人を数えるまでに成長し、その後衰退した人口と、1990年に最後の炭鉱が閉山するまでの出炭量との関係性を直感的に理解できます。
▼折れ線グラフ。赤は人口を、黒は出炭量を示している
▼展示スペース中央には、石炭をイメージしたランウェイ
▼時系列でパネル展示が並ぶ
さらに進むと、昭和30~40年頃の夕張市の航空写真が地面に大きく展示されていて、石炭業で栄えていた頃の夕張の街を俯瞰することができます。あえて場所が記されていないのは、発見の楽しさを感じてもらいたいからだとか。
▼夕張市の航空写真でまずは現在地を見つけよう
そのほか、夕張市民の生活道具、炭鉱で使った道具、夕張鉄道の資料、財政再建団体表明(2006年)に関する広報誌展示なども展示されています。また、リニューアルにより、炭坑内の様子を確認できるタッチパネルや、黒電話の受話器を使って映像を視聴できるコーナーが加わりました。
▼夕張の炭鉱と鉄道の歴史
▼夕張市民の生活道具の展示
▼タッチパネル
▼黒電話の受話器を使って映像を楽しむ(映像はサンプル)
▼財政再建団体表明を示す広報誌
日本唯一の炭鉱模擬坑道は必見
本館より一足先に改修された炭鉱模擬坑道は、実際の採炭現場である旧北炭夕張炭鉱天竜坑跡を利用した展示で、日本唯一という貴重なもの。1900(明治33)年に北海道炭礦鉄道株式会社が開坑した第三斜坑(後に天竜坑に改称)の一部に作られたもので、北炭の中心的な炭鉱としてその役割を担っていました。全長は約180m、深度は坑口面から垂直に20m。過去には皇族が訪れた歴史があり、そのたびに改修工事が行われ、現在に至っています。
ここでは、大正時代の煉瓦巻きを確認できる入口と出口、上添坑道、堀進・採炭作業現場、ガス抜きボーリング、ゲート坑道、ポンプ座、斜坑などを、順路に従って約20分で見学できます。安全上の理由から飾り矢木で坑道内を覆っていますが、一部では本物の石炭層や掘削機械類を見ることができ、働いている人の身になって見学できるのが特徴です。
▼夕張炭鉱の模擬坑道入口
▼石炭を掘る最前線はここ、切羽(きりは)
順路は前後しますが、この炭鉱模擬坑道へは、本館2階から地下へと続くエレベーターで通じています。炭鉱模擬坑道の前に、地下坑道展示室が続いており、明治時代から昭和時代までの探鉱作業の様子を等身大マネキンで解説しています。順路を進むと、炭鉱機械館・採炭作動館を経て、国登録有形文化財「旧北炭夕張炭鉱模擬坑道」に至ります。
▼本館2階から地下坑道へ通じるエレベーター
▼エレベーターを降りると……
▼炭鉱機械館・採炭作動館
炭鉱模擬坑道の出口を出ると、1888年に発見された北海道指定天然記念物である「石炭の大露頭」(10尺層+8尺層+6尺層歴青炭=計24尺=約7m)が待ち構えています。実際に訪れてみると、炭鉱模擬坑道の頭上にこれがあったことがわかると思います。
▼炭鉱模擬坑道の出口
▼炭鉱模擬坑道の出口の横には実際に使われていた坑道(天龍坑)の坑口も
▼北海道指定天然記念物「石炭の大露頭」。この発見が夕張のまちの形成へとつながる
変化し続ける博物館として
1888年、元ライマン調査隊隊員の坂市太郎(ばんいちたろう)により「石炭の大露頭」が発見され、夕張のまちがスタートしてから130年の節目、そして北海道命名150年という節目にリニューアルオープンした夕張市石炭博物館。
しかし時代の変遷とともに、町の様相や人々の考え方は常に変わり続けており、博物館も求められる価値や表現が変化します。それで、「汎用性の高い博物館、未完の博物館として、短いスパンで展示品を変えて飽きさせない展示にしたい」と鈴木市長は話します。
今回のリニューアルでその土台ができたので、今後さらに磨きをかけて、魅力的な博物館になっていくことでしょう。夕張の歴史を含め、街を学びに出かけてみませんか?
(撮影:ラウフェン克)
所在地:北海道夕張市高松7-1
開館期間:4月28日(土)~11月4日(日)(2018年)
休館日:原則として火曜日
開館時間:10時~17時(10月は16時まで)※最終入場は閉館30分前まで
入館料:大人1,080円、小学生650円(夕張市民は当面無料)
公式サイト