初開催の2014年に続いて、二度目の開催となる「札幌国際芸術祭2017(SIAF2017)」(開催期間:2017年8月6日~10月1日)。来年の開催に向けてすでに準備が進められていますから、名称だけでも聞いたことがあるのではないでしょうか?
でも、そもそも札幌国際芸術祭って何をするの? 芸術に全く興味のない人でも楽しめるの? 今回は、札幌国際芸術祭2017ゲストディレクター大友良英さんに、芸術祭に込めた思いや芸術祭の楽しみ方などを、初心者向けにわかりやすく解説していただきました。
1959年、神奈川県横浜市生まれ。音楽家。2013年、NHK連続テレビ小説『あまちゃん』の音楽を担当したことで知られ、レコード大賞作曲賞他数多くの賞を受賞。
まずは……大友良英さんってどんな人?
―― 札幌国際芸術祭のお話を伺う前に、ゲストディレクターを務める大友良英さんってどんな人? と思っている市民も多いかもしれません。今回、芸術祭と関わるようになった経緯を教えてください。
大友: そうですよね(笑)。札幌に来るようになった最初のきっかけは、1980年代に北海道でアバンギャルドなコンサートの企画を個人でやっていたピアノ調律師の沼山良明さん(1944年、由仁町生まれ、今回の芸術祭のエグゼクティブアドバイザー)と出会ったことです。このときの私はまだ20代で、高柳昌行という日本のフリージャズを始めた方のアシスタントとして北海道に来て沼山さんと出会ったんです。1990年以降は沼山さんの企画で音楽家として毎年のように札幌を訪れて様々な音楽企画に参加・出演してきました。
わたしは福島育ちで、震災後は福島で様々な活動をしてきているんですが、そんな中に会場に皆で縫い合わせた風呂敷を敷き詰めてやる新しい盆踊りを作るプロジェクトがあって、これを2014年の最初の札幌国際芸術祭でやることになったことも、札幌との縁がより深くなる大きなきっかけでした。震災をきっかけに福島から移住してきた「たべるとくらしの研究所」の安斎伸也さんの働きかけで、芸術祭で「フェスティバルFUKUSHIMA!北3条広場で盆踊り」を展開することになり、これが今も毎夏続く、札幌北3条広場の「さっぽろ八月祭」の誕生に繋がったんです。そこには沼山さんもスタッフとして深く関わってくださり、結果的には今回の芸術祭のディレクターにわたしが選ばれる直接の切っ掛けになったのではないかと思っています。あ、それだけじゃなく、これまでも世界中でノイズなんかの特殊な音楽をつくったり、一般の人たちと様々音楽や展示作品を作ってきたんで、そんなところも評価してくれたんだと思います。あまちゃんのヒットも大きかったかな(笑)。
正解がないのも面白い
―― 今回のテーマは「芸術祭ってなんだ?」。芸術祭そのものを問うという前代未聞のテーマです。なぜこのようなテーマを付けられたのでしょうか?
大友: 問いかければ、いろいろな答えが返ってくるでしょ。問いかけにしたのはそのためです。「芸術」が「祭り」になるってどういうことなのか……。自分一人でその答えを出すより、市民のみなさんと一緒に考えたほうが面白いと思ったんです。正解を知りたいのではなく、そこから出てくるいろんなもの、多様さのようなものを楽しみにしてます。
日本ではなんでも正解を求める教育が行われているので、答えがないと不安に思うのも無理はありません。でも、人生に正解なんてないように、芸術だって正解なんてないんです。あるのは、捉えきれないほどの多様さ。それこそが豊かさだと思うんです。
芸術の話だと難しくなっちゃうので、カレーを例にとりましょう。この世には、もう数え切れないくらいの多様なカレーがあって、世界最高峰のレストランの作るカレーとか、きっと芸術作品級にすごい味があるのかもしれません。でもね、そんな手のとどかないものよりお母さんのカレーが一番美味しかったりするでしょ。100人いたら100通りの美味しいがあっていい。アートも同じです。人によって感じ方、捉え方、答えは違ってよいと思います。まだ始まったばかりの芸術祭ですから、北海道の皆さんと一緒にどこの芸術祭にも似てない新しい芸術祭を作れたらいいなって思ってます。
ちょっとした「遊びの仕掛け」を作りたい
―― 今回の札幌国際芸術祭では何をするのでしょうか?
大友: 芸術祭というとどうしても堅苦しいイメージを持たれがちなのですが、もっと肩の力を抜いた、楽しいものでよいと思います。それで、今回の芸術祭ではちょっとした「遊びの仕掛け」をいっぱい作る予定です。
例えば、メインビジュアルやシンボルマーク。普通は「これだ」ってぼーんって出すでしょ。でも、今回は見るたびにデザインが違ったり、変化するように仕掛けてます。チラシのデザインだけでも現状32種類、ポスターデザインは8種類、これはもっともっと増えていきます。ホームページもアクセスするたびに変わるよう手の込んだ仕掛けを施しています。一枚一枚違うので印刷会社にあきれられるほどですが(笑)、みんな違っていいんです。違ったって困りませんから。そんなところから楽しんでもらえればうれしいなあ。
作品を展示する会場は、札幌芸術の森、モエレ沼公園、札幌市資料館、円山公園、すすきの、狸小路、JRタワープラニスホール、札幌大通地下ギャラリー500m美術館など。ちょっと変わった「芸術」としては、モエレ沼公園でコンピュータを搭載した気球を成層圏まで打ち上げて宇宙規模の即興演奏に挑む予定です。
モエレ沼公園
さらに、昭和雑貨コレクションを展示する私設博物館「レトロスペース坂会館」や昭和風のコラージュを店内に施した「大漁居酒屋てっちゃん」といった「札幌の至宝」も芸術祭に参加します。日常のアート、モノ、ロゴは時代とともになくなってしまうもの、滅びゆくものですが、収集した人の文脈が見られる貴重な歴史集積です。
レトロスペース坂会館 撮影:藤倉翼
大漁居酒屋てっちゃん 撮影:藤倉翼
参加型プロジェクトはすでに始まっていて、各地から集めた色とりどりの布地を縫い合わせて世界最大級の巨大な大風呂敷を作る「大風呂敷プロジェクト」や、中学生や高校生を中心メンバーとして公募する「さっぽろコレクティブ・オーケストラ」があります。また、道内の個人・団体を対象に公募したプロジェクト5事業も展開して、市民がつくり上げる芸術祭にしたいと考えています。
芸術に興味のない人の楽しみ方とは
―― 芸術やアートに興味のない人は、札幌国際芸術祭をどうやって楽しめばよいでしょうか?
大友: 芸術だからといって敷居が高いと感じなくて大丈夫です。「おもしろいことやってるなぁ!」ということで問題ありません。市内の会場の中で「おもしろそう!」と直感で感じるところでよいですから、まずは足を運んでみてください。
例えば、札幌芸術の森を札幌観光ルートの一つに加えて立ち寄ってみるのはどうでしょうか。また、札幌市街をたまたま歩いていてアートに出会うかもしれません。プロジェクトやワークショップに参加して自分の居場所を見つけるのもよいでしょう。芸術といってもジャンルは様々なので、「え? これも芸術なの?」とびっくりしてくれればよいと思っています。
札幌芸術の森
芸術祭への関わり方は人それぞれでかまいません。「アートってなんだ?」と一緒に考えてほしいですし、楽しんでもらって、深みにはまってくれたらと思っています(笑)。きっと、人生の生きる糧、おもしろいエッセンスが見つかると思いますよ。
大友良英さんのお話をまとめると、自由に芸術を感じてほしい、遊びの仕掛けを作るので驚いて楽しんでほしい、面白そうと思ったところに気楽に立ち寄ってみてほしい、ということでした。
今後、参加アーティストや展示作品も順次発表され、芸術祭の全貌が見えてきます。ワークショップやプレイベントはすでに始まっていますので、今から芸術祭を楽しんでみてはいかがでしょうか。
札幌国際芸術祭2017
開催期間:2017年8月6日~10月1日
公式サイト:http://siaf.jp