礼文町長が語る!礼文島の景色を彩る希少な高山植物の魅力とは

離島を応援しようと、北海道が主催して道内の離島の自治体、離島を有する自治体の首長が交代で島の紹介をする「島リレートーク」(ランチタイムセミナー)。第一回目は2020年9月18日(金)、北海道庁1階交流広場にて、礼文島(礼文町)の小野徹町長が「礼文島の山の宝―景色を彩る高山植物―」と題して礼文島の魅力を発信しました。

北海道庁1階で開催された第1回目の島リレートークは満員御礼

小野町長は冒頭で、「北海道には6つの離島、礼文島、利尻島、天売島、焼尻島、奥尻島、厚岸町には厚岸小島・大黒島があり、それぞれに離島の独自の特色を持っています。そういった離島の魅力は、まさに玉手箱に入った多彩な宝物であり、第一回目は私から礼文島の宝物を玉手箱の中から取り出して紹介したい」と話しました。

小野町長は礼文町出身で、2005年から礼文町長を務めており現在4期目。写真や自然散策を趣味とし、高山植物の写真撮影も楽しんでいるという町長自らが、礼文島の高山植物をはじめ美しい島の魅力を紹介します。

礼文島の魅力を自ら語る礼文町の小野町長

礼文島について

まず最初に礼文島について簡単にご紹介したいと思います。礼文島は最北の離島と呼ばれていて、その名前の通り日本のてっぺん、稚内から西へフェリーで約2時間、稚内の西方約60kmの日本海に浮かぶ離島です。島の名前の由来はアイヌ語の「レプンシリ」。「レプン」は沖にある、「シリ」は島で、「沖の島」という意味に由来しています。

礼文島は南北に29.8km(約30km)あり、東西に7.9km(約8km)あり、縦に細長い形をしています。周囲は72km、面積は81.6平方キロメートルということで、本当に小さな小さな島です。一島一郡一町ということで、島そのもの、島全体が礼文町ということになります。人口は2,448人です(2020年9月1日現在)。

花の浮島、礼文島

礼文島の3つの宝

礼文島にもたくさんの魅力、宝物があり、多くの皆さんに誇る3つの宝があると最近は話させていただいています。

1つ目は、礼文島でとれる利尻昆布、あるいは魚介類などの質の高い海産物があります。これらを礼文島の「海の宝」と呼んでいます。特に礼文島の利尻昆布は出汁をとっても濁らない、透明なままで出汁が取れるということで大変人気があります。昔から京都に運ばれ、料亭などで本当に大事に大事に使われてきたと伺っています。まさに京都の和食、日本の和食を支えてきたのが礼文島の利尻昆布だと言って間違いありません。

2つ目は、今回皆さんにお話する希少な高山植物です。「礼文島の魅力は足で楽しむんだ」と言われるように、初心者でも手軽に楽しむことができる7つのトレッキングコースで礼文島を十分にお楽しみいただきたいと思っています。これが礼文島の「山の宝」です。

3つ目は、時代をまたぐ学術的価値の高い遺跡、出土品です。すなわち、礼文島の地下に眠る「地の宝」です。小さな礼文島には現在55箇所に遺跡があります。特に礼文島の気候が冷涼で雨が少ないことから、遺跡や出土品の保存状態が極めて良好だと言われており、これが礼文島の遺跡の大きな特徴になっています。そのうちの一つ、船泊遺跡では土器や石器以外に、動物の骨や貝で作られた道具や装飾品が数多く出土していますし、お墓には人の骨が埋葬されたそのままの状態で発掘されたことから、学術的な価値が非常に高いと評価を受けており、国の重要文化財にも指定されました。

桃岩展望台コースと北のカナリアパーク

今日は2つ目の「山の宝」高山植物について話をさせていただきたいと思います。礼文島はゼロメートルから高山植物が咲く花の島として有名です。小さな島に300種を超す多種多様な花が咲きます。本州では2,000メートルを超す高いところでないと見られない高山植物が、礼文島では潮の香り漂う海辺から咲いているということで、大変珍しいところです。毎年多くの観光客が高山植物を楽しみに礼文島を訪れています。

私も礼文に咲く高山植物が大好きな者の一人で、休みの日にはカメラを抱えて島のあちこちに行って花の写真を撮って楽しんでいます。花を楽しむならここという観光スポットをこれから紹介したいと思います。

利尻富士を望む礼文島南部

礼文島には、高山植物を楽しむことのできる合計50kmにわたる、変化に富んだ7つのトレッキングコースがあります。気軽に歩くことのできる久種湖畔コースから、距離が長く非常にハードな8時間コースまであります。そんな7つのコースのうち、花を見るならここというのが、島の南側にある桃岩展望台コースと呼ばれるところです。観光客にも大変人気のあるコースで、季節ごとに多種多様の花が咲き、まさにお花畑という言葉がピッタリの場所です。

トレッキングコースと聞いて、体力に自信がないから行くのが大変だなと思われるかもしれません。でも、私も今年70歳になりました。この私でも気軽に行けるところがたくさんありますので、心配なさらずにお越しいただきたいと思います。

礼文島の魅力的な花を語る小野町長

このコースの最後に北のカナリアパークという公園があります。2013年に吉永小百合さんが主演された映画『北のカナリアたち』の撮影に使われた小学校校舎を保存して公園にさせていただいたものです。

今年春(2020年6月)に「カナリアカフェ」をここにオープンさせていただきました。例年4万人ほどがここを訪れるんですが、今年はコロナ禍の影響で8,000人ほどしか訪れていません。そのうち4,000人ほどの方がカフェに立ち寄っていただいています。景色も良いし、美味しいコーヒー、あんバターパン、コーヒーゼリーソフト、小豆白玉サンデーなどおいしいメニューがたくさんありますので、皆さんもぜひお立ち寄りいただきたいと思います。私も、桃岩展望台から降りてきて、最後このカフェでコーヒーを飲んで家に帰るというのが最近の楽しみの一つとなっています。

町長がおすすめする花の美しい観光スポット

桃岩展望台コースの人気スポット

5月上旬、桃岩展望台コースの中にある、眼下に猫岩を望める人気スポットです。春と言ってもまだまだ寒く、まさに早春という言葉がピッタリの頃、エゾエンゴサクが咲き始めます。この時期になるとエゾノリュウキンカという黄色い花が咲き、春を感じさせてくれます。5月下旬になると、白いエゾノハクサンイチゲが咲き始め、花の数がどんどん増えていく季節になります。桃岩展望台コース、晴れた日には向かいに利尻富士がきれいに見える場所です。

6月に咲くレブンキンバイソウ

さらに季節が進み6月中旬になると、レブンキンバイソウという黄色い花が盛りを迎えます。透き通った海の青さをバックに花が咲く様子は、まさに礼文島ならではの醍醐味です。同時に緑が格段に増えてきます。レブンキンバイソウは礼文島でなければ見ることができない固有の花です。

一ヶ月後には、レブンキンバイソウに変わって、ピンク色の猫じゃらしのような花が咲きます。これはエゾイブキトラノオという花で、あたり一面に咲き、レブンキンバイソウが咲く景色とはすっかり雰囲気が変わった景色へと変化していきます。

礼文島の固有種レブンソウ

またこの時期は礼文の固有種であるレブンソウ、利尻の名を冠するリシリソウが私達の目を楽しませてくれます。咲く花によってまったく雰囲気の異なる景色を楽しめることや、珍しい花が身近に咲いていることも、礼文島ならではの魅力となっています。

礼文島で最も人気のレブンアツモリソウ群生地

礼文といえばこの花、レブンアツモリソウ

別の観光スポットをご紹介します。礼文島で最も人気ある花がなにかご存知でしょうか。それが、レブンアツモリソウという花です。淡いクリーム色で卵のような袋状の形が特徴的な花です。なんともいえないかわいらしさがあり、長い時間見ていても飽きないと言われています。私もこの花が大好きでして、毎年この花が咲き始める5月下旬~6月初め、まだ花が咲かないかな、いつ頃見頃になるんだろうかなと考えるとワクワクしてきます。

レブンアツモリソウも礼文島固有の花です。ただ近年、環境の変化によって生育数が減少しているということで、特定の場所でしか見ることができない希少な花になっています。そんなレブンアツモリソウが間近で見ることができるのが、島の北部にあるレブンアツモリソウ群生地です。毎年レブンアツモリソウが咲き始める5月下旬から約3週間一般開放していますが、そのわずかな期間にも1万人を超える多くの方が来られることからも、この花の人気の高さがおわかりいただけるかなと思っています。皆さんもこの場所を直に訪れて、レブンアツモリソウを見ていただきたいと思っています。

またこの時期は最も花がにぎやかな、華やかな季節を迎えます。例えば、ヨツバシオガマ、センダイハギ、トチナイソウといった色鮮やかな高山植物がたくさん目にすることができるわけです。

夜空の星のようなレブンウスユキソウ群生地

もう一つご紹介したいのは、レブンウスユキソウ群生地です。ヨーロッパのアルプスに咲く有名な花、エーデルワイスの仲間です。葉っぱに生えている細かい毛が、あたかも雪が積もっているように見える可憐な花です。レブンウスユキソウが満開になる7月にこの場所を訪れると、独特な形をした花が斜面一面に咲き乱れる様は、夜空に星が輝いているように見えて、とても情緒ある風景になっています。

礼文島を代表する花の一つ、レブンウスユキソウ

まだまだある礼文島の魅力的な花

4月はミズバショウ群生地も

ここまで私のおすすめ観光スポットをご紹介してきましたが、礼文島にはまだまだ魅力的な花、雄大な景色があります。まずは、4月下旬の水芭蕉群落です。島の北側の久種湖畔では水芭蕉が咲き、春の訪れを感じさせてくれます。水芭蕉が成長すると熱帯のジャングルを感じるほど大きく成長します。

5月下旬に咲くレブンコザクラ

5月下旬になると、島の南側の桃岩展望台近辺ではきれいなピンク色のレブンコザクラが目につくようになります。本当に小さな花が集まってマリのような形が大変かわいい花です。

8月はゴロタ岬の花々がおすすめ

8月まで季節を進めたいと思います。8月中旬をすぎると、礼文島では徐々に涼しくというよりは肌寒く感じるようになります。花の季節も徐々に終盤に向かってまいります。島の北部のゴロタ岬では、黄色い花のトウゲブキ、青い花のツリガネニンジンが咲きます。足元に目をやると、背丈が低く花が小さいものの紫色のチシマリンドウという花が咲きます。こういった花が満開になると、礼文島も夏の終わりを感じるわけです。

9月はリシリブシがきれい

9月中旬の桃岩展望台コースでは、黄色が美しいリシリブシがきれいに咲き誇ります。利尻島でも咲きますが、利尻島では利尻山の8合目よりも上、高いところでなければ見ることができない、一般的な高山植物というイメージの花ですが、礼文島では身近に、簡単に見ることができます。季節ごとにいろいろな花が咲き、賑わいを見せる礼文島の観光も、この花が咲き終わる頃にはいよいよ花のシーズンも終わりとなります。

海をバックに高山植物の花を撮影できるのが礼文島の特徴

やはり写真で見るよりも直に礼文島の花や景色を見ていただければ、その感動の違いがおわかりいただけると思っています。また、海をバックにした高山植物の写真が撮れるというのも礼文島の魅力の一つです。礼文町では一人でも多くの方に、素晴らしい礼文の花と景色を直に体験していただき、その感動を味わっていただきたいと思っています。

礼文町長に聞く礼文島のこと

町長が個人的に好きな花は何でしょうか。

やはりレブンアツモリソウが大好きですし、レブンウスユキソウも町の花になっていますのでこれも好きです。どちらかというと白い花が私は好きなんですが、黄色い花も赤い花もたくさんありますので、どれがというのも難しいのですが、あえていえば白い花のレブンアツモリソウとレブンウスユキソウが礼文島を代表する花かなと思っています。

レブンアツモリソウは見た目には増えてきているように思いますが、現状と保護について取り組みをお聞かせください。

全体としては減少傾向にあります。ただ咲く場所によっては増えていることもあります。レブンアツモリソウ群生地の反対側の斜面では、ここ3年ほど前からバスからでも見えるくらいの花が咲き始めていました。現在は国有地で禁止区域になっていますが、土地を購入して、来年はレブンアツモリソウが見られるように群生地の一部に加えていきたいと計画しています。いま、旭川でいろいろな手続きをしていて、なんとか礼文町の土地にしたいと考えています。来年には新しいレブンアツモリソウ群生地になっているかと思いますので、ぜひ楽しみにしていただきたいと思います。

礼文島の高山植物の数が減少しているとのことでしたが、どのような保護活動をしているかお聞かせください。

高山植物は守るものだとわたしたちは思っています。ただ身近に咲いていますから、ついついそれを忘れてしまうんですね。胸のバッヂを作って10年になります。毎年レブンアツモリソウ、レブンウスユキソウなどいろんな花のバッヂを作らせていただいていて、今年は黒いゆりのバッヂを作らせていただきました。これで10種類になります。このバッヂは1個1,000円で販売していて、それを自然保護に役立てようとしています。毎年400~500万円を皆さんからいただけまして、現在3,000万円くらい貯まりました。こうした活動を10年ほど前から行ってきて、1年間に500万円くらい自然保護に生かしています。

胸のバッヂを示す小野町長

移住希望者にアピールできる所はありますか。

移住していただくことが私達の夢で、いろいろな政策を進めています。ひとつは、礼文島は漁業の町ということで、漁業者が減っているので若い漁業者をたくさん地元にほしいなと思っていますが、なかなかいっぺんには増えないです。ですから島外からいらっしゃって、島で漁師をやりたいという方には町で家を建てて、10年間月1万5000円でお貸しして、10年後にその家を買ってもらうことをしています。12棟ほど建ちまして、来年までに家を建てていきます。また、漁業者になりたいと思っても、なかなか水揚げができないという方には、月10~15万円を支援して漁師になっていただくこともしています。さらに、移住体験住宅を作らせていただいていて、10日、1週間、1ヶ月と過ごしていただく体験も行っています。福祉関係の人たちに対しては、支度金100万円を用意してお渡ししています。礼文島への移住は勇気のいることですので、すぐに移住ではなくちょこっと移住をやりながら、最終的には住んでいただければありがたいと思っています。

初めての人が高山植物を楽しむのに一番おすすめの時期を教えてください。

昔の礼文島は、7~9月が花のきれいな観光シーズンだったんですが、30年ほど前から温暖化の影響で雪解けが早まり、5月末~6月から咲き始めています。6~8月の1ヶ月前倒しになってきているんですね。一番ボリュームあるのは6月で、7月もあります。本当は8月もあるんですが、8月は草丈が伸びるので、花が草に隠れて見えなくなってしまうんです。でも、草を分けると花がちゃんとあります。そして9月でも花は咲いています。ぱっと行ってきれいに見えるのは6~8月ですが、それ以外の季節でも雪解けから雪が降るまで花はちゃんと咲いているのを感じていただければと思います。


次回は2020年11月下旬頃に、利尻島の利尻富士町、田村祥三町長がトークをする予定です。その後、来年の6月にかけて、天売島・焼尻島を有する羽幌町長、利尻島の利尻町長、奥尻島の奥尻町長のトークが続く予定です。