札幌山の手・宮の森エリアのこだわりと個性あふれる小さなパン屋3選

おいしいパンの激戦区と言われる札幌の「山の手・宮の森エリア」。個人店からチェーン店まで軒を連ねるなか、今回はパン職人の「こだわりと個性あふれる小さなパンの店」を突撃取材してきました。米粉パンに、天然酵母パンなどなど、パンもいろいろなら、店主も個性派。取材時に起きた実際のエピソードも交えて、この道20年のライターが「本音」でお届けします。

看板メニューは米ワッサン! 米粉パン専門店「コメデパン」

2016年7月にオープンした米粉パンの専門店です。一般的に米粉パンは小麦粉が70%、米粉が30%のものが多いといいます。同店の米粉パンは、米粉を85%も使用しているのが特長です。米粉パンのアイテムは、食パン、クロワッサン、おかず系からスイーツ系まで、全部で30種類以上が店頭に並んでいます。

▼店主・樫村満幸さん

店主・樫村満幸さんがこの店をはじめたのは55歳のとき。もともと、パン職人とは畑違いの土木技術の分野で働いていました。「いつか自分の店を持ちたい」と思っていた樫村さん。釧路で食べた「米粉ぱん工房COCO」の味に感動し、「自分も米粉パンで、お客様のおいしい笑顔がみたい」と、パンの世界に飛び込みました。

地元の新聞やテレビなどメディアも噂を聞きつけ、続々と取材に訪れる人気店ですが、ホームページやブログ、フェイスブックは開設しておらず、ひたすら、パン作りに情熱を注いでいます(取材時2017年11月時点)。

店舗の入り口に「コメデパン人気ベスト10」の張り紙。1位は米ワッサンのチョコ、2位は米ワッサンのプレーン、3位は食パン、4位は塩パン、5位はウィンナーロール、6位はおにぎりぱんのたまごみそ味、7位はラスクのガーリック味、8位はフィッシュフライ、9位はクリームパン、10位は落花生(らっかせい)のパンとなっています。

では、次にわたしのお気に入りベスト3をラインナップ。3位は「イナホ」(180円)。いわゆる「ベーコンエピ」の米粉版です。米粉で作ったコッペパンの生地にベーコンを巻いています。「エピとは麦の穂のこと。うちは米粉パンにつき『イナホ』にしました」と樫村さん。

2位はすでに山の手名物とも言われる「おにぎりぱん」(180円)。具材は「たくあんサラダ」、「たまごみそ」、「ごぼうサラダ」、「たかな」、「チーズおかか」、「ねぎチャーシュー」と全部で6種類あり、まるでコンビニのおにぎりコーナーのよう。おにぎりの形をしたユニークなパンは、お年寄りにも好評。「おにぎりパンって、パンの中に『おにぎり』が具と入っているのかい?」と珍問を受けることも。「いやぁ、一本とられました」。

1位は、コメデパンの看板メニューでもある、米粉のクロワッサン「米ワッサン」です。アイテムは全部で14種類あり、イチゴ・ミルク・ブルーベリー・キャラメル・コーヒー・チーズ・オレンジ・メイプルなどなど。紫芋・マロン・抹茶・レモンなど季節限定商品も人気です。もっちりとした食感がおいしく、かわいい袋入りでお土産にもぴったり。わたしのイチオシは紫芋ですが、ワインやビールなどお酒のおつまみにも喜ばれるというチーズ味がよく売れるのだとか。気になるお値段は3個入り240円〜、5個入り400円〜です。

おいしくて、ついあれもこれもと食べたくなってしまいます。気になるカロリーは100g換算で、一般の食パンが260キロカロリーに対し、米粉パンは180キロカロリーだとか。それならばと、スイーツにも手が伸びてしまいます。

スイーツ部門でおすすめは「しっとりシフォン」(700円)と「フワフワシフォン」(600円)が美味。いずれも、グルテンフリー(米粉100%)で、オリーブオイルを使った体にやさしいシフォンケーキ。なかでも「しっとりシフォン」は長沼産の自然栽培米「白米」と「黒米」をブレンドしたこだわりの一品です。

米粉の食パンのほかに、グルテンフリーの食パンも焼いており、健康志向の人や小麦が苦手な人にもおいしいと好評です。「米粉パンは日本にしかないパン。何しろ『ジャパン』ですから」と笑顔で話す樫村さん。パン作り同様、お客様との関係作りも楽しく、余念がありません。みなさまのベスト3も見つけてくださいね。

米粉パン専門店コメデパン
所在地:札幌市西区山の手3条6丁目1-1クインパーク1階
電話:011-215-8808
営業時間:9:30~18:30
定休日:毎週月曜日、日曜日は不定休

次はコメデパンからわずか700メートルのところにある「麦の香り」へ。

コストと手間はかかるけど……ホシノ天然酵母パン専門店「麦の香り」

2016年12月にオープンした、ホシノ天然酵母パンの専門店です。アイテムはコッペパン、揚げパン、塩パン(砂糖・卵・バターを不使用)など全部で14種類あり、すべてホシノ天然酵母を使用しています。最近よく見かける「天然酵母のパンの店」。しかし、「ホシノ天然酵母のパン」となると、なかなか見かけません。それもそのはず、ホシノ天然酵母はコストが高い上に「職人泣かせ」といわれるほど扱いも難しく、技術と労力が求められるのです。

▼ホシノ天然酵母菌

パンを紹介する前に、そもそも「ホシノ天然酵母って何?」という人のために説明を少々。ホシノ天然酵母とはパンに必要な酵母菌、植物性乳酸菌、麹菌の3種類を自然培養、日本古来の醸造技術を生かした米由来のパン種です。同店ではパン作りだけにととまらず、「酵母菌」も40時間以上かけて自家製しているのです。温度を30度以下に保たなければならず、24時間ねかせたあと、さらに24時間かけて熟成させます。甘酒のような香りの立つ酵母菌で独特の香ばしさが立つ、おいしいパンができますが、市販のイースト菌を使えば、わずか30分ですむ工程です。

▼藤澤ハナ子さん(写真左)と娘の工藤智美さん

同店は母娘で運営しており、パン職人はこの道20年以上、大ベテランの母・藤澤ハナ子さん(写真左)。娘の工藤智美さんが店長となり、販売を担当しています。藤澤ハナ子さんは、山の手に店をオープンする前は旭川でパンを焼いていました。70歳をすぎた藤澤さんを心配し、娘の智美さんが札幌へ引っ越すように勧めたことで転機を迎えました。それにしても、70歳を超えているとは思えない肌ツヤとパワーです。藤澤さんは「穀類も菌も生きていますし、イキイキとしたパンを作るためにも、私自身が健康でいなくては」と言います。お見それしました。

ホシノ天然酵母のパンは、一次発酵、二次発酵とパンが完成するまでに40時間ほどかかります。毎朝4時に起きて、パン作りに打ち込む藤澤さん。定休日も仕込みがあるため、休んだことはないのだとか。そうまでして、ホシノ天然酵母のパンを作ることにこだわるのは「本物のおいしいパンの味を子供たちに知ってもらいたいから」と言います。

▼「クコの実・クルミ・レーズン入り」(280円)や「クルミレーズン」(200円)

小麦はパン生地に適した高級小麦の穂先のみを使用しており、「クコの実・クルミ・レーズン入り」(280円)や「クルミレーズン」(200円)、「かぼちゃあん」(160円)が人気。「健康にも良いので、毎日食べてもらいたく、食パンを焼きたい」という藤澤さんですが、店舗契約に関する諸事情により、食パンを焼くことができません。

▼特大コッペパン(写真奥)と通常サイズのコッペパン

そこで、食パン感覚で食べられるよう、「特大コッペパン」(380円)を作りました。大きいので斜めにカットしてフレンチトーストにしたり、サンドイッチにしたり、アレンジしやすいと好評です。

では次に、わたしのベスト3を紹介します。3位は5種類ある「揚げパン」です。業務用ではなく家庭用の油で揚げているうえ、同店のパン生地は油を吸収しにくい性質があるためヘルシー。「あんドーナツ砂糖まぶし」、「あんドーナツきなこまぶし」、「ツイストパンの砂糖まぶし」、「ツイストパンのきなこまぶし」、スパイスをたっぷり使用した「カレーパン」などなど。お値段は1個130円〜。

2位は「ウィンナーパン」(160円)。もっちりとしたパン生地に、パリッとしたジューシーな特級品のポークウィンナーが絶妙です。1口サイズに切ってチーズフォンデュにしてもおいしいパンです。

1位は「チーズパン」(280円)。コッペパンにナチュラルチーズがふんだんに入っています。チーズも「業務用」は使用しておりません。食べる直前にトースターで焼くと、溶け出すチーズの味わいが魅力です。

スイーツ部門は「幻のシュークリーム」(220円)。シュー生地からカスタードクリームまで、もちろんすべて手作り。甘さを控えめで、卵のコクを楽しめる昔ながらのカスタードクリームがトロリ。幻なのは、パンに手間がかかるため、シュークリームは時々しか作れません。運がよければ食べられますので、店頭でおたずねください。

ところで、コストも手間もかかっているのに、パンの値段は130円〜と、とてもお手頃。「おこづかいを握りしめて買いに来る、地域の子どもたちのために、値上げをしたくない」のだとか。また、ホシノ天然酵母のパンは成型しにくく、シンプルな形しかできません。そのため「品数が少ない」というご指摘を受けることも……。「できるだけ、ご要望にお応えできるよう努めたく、予約で承ることもできますので、ご相談ください」と藤澤さんは言います。70歳を過ぎても、様々なハードルをクリアにして、「本当によいものを提供する」という姿勢を貫きます。

▼かざりパン(食べられません)

また、発酵状態をみるときに出る「パンの切れ端」を再利用して作る「かざりパン」にも注目を。こちらはワークショップも行なっており、体験料は500円。本物のパンの生地を使うため、「犬や鳥が食べちゃった」というほほえましいエピソードも寄せられています。

ところで、昭和の香り漂うアットホームなお店、いつまでもパンを焼き続けて欲しいところですが、藤澤さんの年齢と店舗の契約事情により、営業は2019年10月までの予定となっています。

麦の香り
所在地:札幌市西区山の手1条5丁目1-1
TEL:090-8276-7057
営業時間:10:30〜なくなり次第終了
定休:毎週日曜、月曜、火曜
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山の手の「コメデパン」と「麦の香り」は、取材だけではなく、プライベートでも訪れるようになったお気に入りのお店です。最後は、宮の森の閑静な住宅街のなかで偶然見つけ、一度だけ食べたことのあるパンの店を思い出し取材することに。

「ブランジュリー ラ・フォンティヌ・ドゥ・ルルド」

大倉山ジャンプ競技場から600メートルのところにある、天然酵母ルヴァンを使用したフレンチスタイルのパンの店です。同店オーナーのパン職人は、洞爺ウィンザーホテル「オテル・ド・カイザー」に勤務後、2006年に同店をオープンしました。

小さな店内に、平日は約30種類、土日は約40種類ほどのパンが並びます。「パン・ドゥ・ミー」や「全粒粉のパン・ドゥ・ミー」、オリーブオイルを使った「チャパタ」、香りもよくチーズによく合う「ペイザン」も。

なお、読者のみなさまに、どんな人がどんな思いでパンを焼いているのかをお届けしたく掘り下げて取材したかったのですが、相談の余地なく、店主から名前も写真も掲載はNGときっぱり。寡黙なのは職人気質ゆえかもしれません。これまた個性ということで……。

ブランジュリー ラ・フォンティヌ・ドゥ・ルルド
所在地:札幌市中央区宮の森4条12丁目10-1
TEL:011-616-2320
営業時間:10:00~18:00(平日)、8:30~18:00(土日祝)
定休日:火曜、水曜

今回は、札幌市宮の森・山の手エリアでこだわりと個性あふれる小さなパン屋を3店舗ご紹介しました。是非おいしいパンを求めて宮の森・山の手エリアを訪ねてみてくださいね。

撮影:克(laufen)