自然豊かな中島公園の中にあって、不思議な存在感を放っている白亜の建物。2016年6月にリニューアルオープンした豊平館です。2012年より、実に4年もの歳月をかけた改修工事を経て生まれ変わり、現在は威風堂々たる姿で私たちの目を楽しませてくれています。
そんな豊平館の歴史を紐解いていくと、どうやら北海道開拓使の歴史と切っても切れない関係があるようです。気になるところを豊平館の館長に直接教えていただきました。
現存する国内唯一の木造洋館
中島公園の北西辺り、鴨々川沿いに建つ豊平館は、今や観光スポットとしても人気です。出入り口は、新装した建物の裏手にあります。いざ足を踏み入れると、日の光をたっぷり取り入れた開放的な空間が広がっていて、レトロモダンな外観からは少し意外な感じがするかもしれません。
「木造の洋館として現存しているのは、日本ではもうここだけなんですよ」と教えてくれるのは、豊平館館長である佐々木康文さん。明治初期、北海道開拓に尽力したことでも知られるアメリカ人、ホーレス・ケプロンに助言を仰ぎ、アメリカ風建築様式の影響を強く受けた木造洋風建築として豊平館は誕生しました。
「設計は安達喜幸、頭領は大川助右衛門と、設計から施工まで日本人の手によって行われた、初めての洋館でもあります。屋根は柾葺なんですが、日本の柾は薄くてペラペラだったので、柾を作る機械をわざわざアメリカから輸入したそうですよ」(佐々木館長)
白を基調としながら窓枠や軒にウルトラマリンブルーがあしらわれた印象的な外観も、建設当初の塗料を分析し、復元したものなのだとか。今なおその配色の鮮やかさに目を奪われるほどですから、当時、この豊平館がいかに最先端を行く建築物であったか、うかがい知ることができます。
▼建物の裏手に出入り口がある
▼お話を伺った館長の佐々木康文氏
▼建物の基礎は札幌硬石、煙突は軟石、屋根は柾葺(まさぶき)
ホテルや宴会場としてスタート、移築後は結婚式場に
そもそも、どうして明治時代にこのような建物が建てられたのでしょうか?
「明治政府が10年計画で北海道に開拓使を設けたことは、みなさんよくご存知だと思います。開拓が進むにつれ新たな宿泊施設の必要性が高まり、ホテルを建てましょうということになりました。つまり、豊平館はもともとホテルや宴会場としての役割を担っていたわけです。偶然にも、1881年(明治14年)の完成時期と明治天皇の北海道行幸の日程が重なり、第一号のお客さまが天皇になったそうですよ」と佐々木館長。
ホテルとして華々しいスタートを切った豊平館ですが、そこから希有な運命を辿っていきます。まず、1899年(明治32年)に北海道区政が敷かれると、地方自治の発足と共に公民館として利用されるようになりました。さらに大正時代には公会堂として、昭和に入って太平洋戦争が終了すると進駐軍の宿舎として、それぞれに役割を果たしていきます。
現在の中島公園に移築されたのは、1958年(昭和33年)のこと。移築後は、なんと結婚式場として開館したといいます。
「実は今回のリニューアルは、バリアフリー化、耐震工事、そして明治時代の復元が目的でした。結果、見た目も機能も9割ほどが復元されたのですが、わざと復元せず残した1割というのが、結婚式場なんです」
歴史を重ねて、現在の豊平館がある……それを伝え、未来に繋いでいくことが大切なのだと、佐々木館長は語ってくれました。
もともと豊平館が建てられていた場所は、現在の札幌市民ホール前(中央区北1西1)です。そこには豊平館の跡碑と、かつて庭園に植えられていたハルニレが残されています。開拓期の歴史を物語るシンボルとして、札幌景観資産にも登録されています。
▼豊平館が元あった場所(豊平館ゆかりの地に今も残るハルニレ)
建設当時のシャンデリアは必見!
リニューアルを終えた現在の豊平館には、私たち一般客も気軽に訪れることができます。開館時間は9時から17時、観覧料は300円。和洋折衷の館内は、歴史やインテリアなどに知識がなくても、自ずと興味を引かれるはずです。
たとえばシャンデリアの吊元にある天井飾りは、漆喰を盛り付けて立体的に仕上げられた「こて絵」というもの。当時の職人による洗練された伝統芸術で、部屋ごとに異なるモチーフで楽しませてくれます。また、8組あるシャンデリアのうち4組は建設当初からのもので、残り4組も当初の器具を修理したものだとか。他にもカーテンや絨毯など、建物のそこここから明治の息吹を感じ取ることができるはずです。
▼天井飾りはすべてデザインが違う
▼現存しているシャンデリア
1階には喫茶室があるので、歩き疲れたら少しひと休み。プロジェクターで豊平館の歴史を紹介しているコーナーもあるので、散策の合間に学んでみるのもよいかもしれません。
▼1階には喫茶室があってお茶を飲んだり軽食が食べられたり
▼プロジェクターで豊平館の歴史を見ることができる
また、豊平館では貸室も行っています。1時間500円から借りることができ、結婚式を行うことも可能なのだとか。タイムトリップしたような空間で、非日常の時間を過ごす……それはきっと、特別な体験となることでしょう。
▼こういった部屋が借りられる
街中にある馴染みの公園に、北海道の歴史がギュッと濃縮されたような建物が建っているとは、少し不思議な感じがします。豊平館のことは知っていても、そこにまつわる背景については、意外と知られていないのかもしれません。みなさんも中島公園を散歩する時など、一度立ち寄ってみてはいかがでしょうか。
豊平館
北海道札幌市中央区中島公園1番20号
電話:011-211-1951
観覧時間:午前9時~午後5時(観覧受付は午後4時30分まで)
休館日:毎月第2火曜日
観覧料:個人300円、中学生以下270円、年間パスポート500円