知床は2010年で、2005年7月17日の知床世界自然遺産登録から丸5年を迎えました。5周年というわけですが、この5年間でいろいろなことがありました。その5年間の変遷を振り返ります。
世界遺産知床情報拠点センター新設
世界自然遺産登録を受けて、世界遺産センターや知床自然センターが計3棟、新設・移転新設の形で建築されました。1つ目は、従来からあった、羅臼町の「知床国立公園羅臼ビジターセンター」。建物は古いものでしたが、500mほど知床峠寄りに、平屋建ての建物として新築移転しました。
(写真)移転前の羅臼ビジターセンター
羅臼町にはもう一つ、羅臼町側の世界遺産拠点施設である「知床世界遺産ルサフィールドハウス」が2009年6月7日に新築オープンしました。木造建築物で、羅臼町の道道87号線沿いに建築されました。
斜里町ウトロ側の世界遺産拠点施設は「知床世界遺産センター」で、ウトロ市街地にできた道の駅うとろ・シリエトクに隣接して、2009年4月19日に新築オープンしました。木造平屋建てで、知床の自然に関するリアルタイムで豊富な情報提供を行います。
これにより、2010年までに知床地区には自然情報拠点として、ウトロ側に2ヶ所、羅臼側に2ヶ所設置されたことになります。ウトロ側には「知床自然センター」および道の駅隣接の「知床世界遺産センター」。羅臼町側には「知床世界遺産ルサフィールドハウス」および「知床国立公園羅臼ビジターセンター」です。
ウトロ市街地再開発で広くなりました
上述の通り、ウトロ市街地には「道の駅うとろ・シリエトク」が2007年4月25日にオープンしました。それまでは知床の道の駅としては、羅臼町側の「道の駅知床らうす」しかありませんでした。
ウトロ市街地では、国道334号線のゴジラ岩付近から斜里町側にかけての区間でペレケ湾ウトロ新港地区埋め立て工事が行われ、ルート変更及び道路が広くなり快適になりました。5周年の2010年現在も一部造成中ですが、ほぼ完成。
その一環として、道の駅が建設されたというわけです。それに加え、メインの国道334号線のゴジラ岩前の交差点はY字路から十字路に変わり、周辺にセイコーマートなどコンビニエンスストアが誕生しました。
(写真)再開発前の国道334号線ゴジラ岩前。Y字路は十字路に変わった
(写真)再開発で建設された道の駅うとろ・シリエトク
観光スポットでは何が変わったか
斜里町ウトロ側の観光スポットでは、観光名所に設置されていた看板が変更になり立派になりました。これには、フレペの滝、夕陽台などが含まれます。
知床五湖は、スポットの中で一番変わったといってもよいでしょう。一湖へ通じる木道がルート変更され、延長されました。従来の木道は直線で200mほどしかなかったものの、2008年に着工し2010年3月に完成した木道は、終点展望台を含む3か所の展望台を途中に配置した全長799mの木道となり、一湖の湖畔まで行くことができるようになりました。ヒグマ対策で電気柵があります。
(写真)知床五湖に2010年に全面完成した高架木道
(写真)知床五湖の新・高架木道の電気柵
また、知床五湖では、2011年からですが、一湖木道以外の湖で有料・入場規制が行われます。5月~7月はヒグマ対処法習得者同伴に限り3~5湖を散策可能で、8~10月中旬までは有料レクチャー受講者が散策可能、それ以降冬季前まではだれでも散策可能、というふうになります。注意を。
知床五湖のレストハウスは三角屋根の建物が取り壊され、2010年6月現在プレハブでの営業になっています。カムイワッカ湯の滝については、2006年度から最も下流の一の滝だけ利用できるように規制されました。
さらに、落石危険のため、2005年以降、知床五湖分岐からカムイワッカ湯の滝に行くことが大幅に規制されるようになり、7~9月の70日間・昼間に有料シャトルバスで行くことしかできなくなりました。さらにカムイワッカ湯の滝~知床大橋間は危険防止のためシャトルバスさえも運行停止になっています。
カムイワッカ湯の滝までの落石対策工事は2010年度中に終了しますが、知床大橋までは工事がされておらず、工事には莫大な費用がかかるため、半永久的に通行止めです。また、知床五湖以遠は工事完了後もシャトルバス運行限定です。ちなみに、湯の滝4km手前に展望台を設けて、そこまでをシャトルバス区間とし、以遠のカムイワッカ湯の滝・知床大橋まで5km区間を廃道にして、登山道の一部にする案もあります。
(写真)クジラの見える丘が新設された
羅臼町では、2007年9月15日にクジラの見える丘公園が羅臼灯台横にオープンしました。クジラやイルカを見ることができる展望台です。
羅臼温泉にある羅臼間歇泉では、2009年度には噴出が確認されませんでした。今後も噴出があるかどうかは分かりません。マッカウス洞窟では、奇しくも世界遺産登録の月日といえる2008年7月17日に岩盤剥離の恐れがあるため閉鎖され、同年10月に一部解放されたものの、いまだにすべてを見学できなくなっています。これらは知床の観光スポットの損失といえるでしょう。
世界遺産登録後の宿題はダム撤去
さて、2005年の世界遺産登録に当たっては、IUCNから将来的に河川の構築物(ダム)を撤去をするように求められていました。これは鮭の自由な遡上を阻止しないようにするための対策です。
協議の結果、土砂災害への不安から、とりあえずダム撤去ではなく「改良」となり、世界遺産区域内全44河川の中でも、河川構築物のある14河川123基のダムのうち、5河川13基が対象となりました。内訳は、ルシャ川2基、岩尾別川6基(以上斜里町側)、羅臼川1基、サシルイ川2基、チエンベツ川2基です。
改良工事は、主にダムの水の通り道に切れ込みを入れて、サケが遡上できるようにする措置を講じました。2011年度中に対象ダムの改良工事が完了します。知床の一部河川でサケの遡上ができるようになったのです。
その他、世界遺産登録後の観光客増加に伴い、目撃例が増えるヒグマ対策では、2010年6月20日に「ヒグマ保護管理方針検討会議」が発足、斜里町・羅臼町に加え標津町も参加し、ヒグマ管理のルール作りを急いでいます。
自然食い荒らしのエゾシカ対策も急務となりました。環境省が2007年度から知床岬で駆除を行い、3年間実施で推定越冬数はほぼ半減したと発表しました。しかし、さらに減らす努力が行われることになっており、今後2011年秋までに知床岬に延長3kmの暫定仕切り柵を設置して囲い込み作戦が進められるようです。これは国内初の試みです。
その他の出来事
2007年5月には日本の地質百選選定委員会による「日本の地質百選」第一次選定分83件の一つとして選ばれました。文字の通り、地質学的に貴重な自然ということで改めて評価されました。