札幌・ススキノを舞台にした映画『帰っておいで』が2015年8月8日以降、道内各地で上映される。北海道出身の小説家・喜多由布子さんの作品を映画化したもので、未経験者がほとんどという道内のスタッフ・キャストが結集し映画作りに挑んだ。実行委員会は「メイドイン北海道の映画を多くの道民に見ていただきたい」と呼び掛けている。
受賞から約10年―母の遺志を継ぎ、小説を映画化
映画『帰っておいで』は、八雲町出身・喜多由布子さんの同名小説を映画化したもの。2004年に第25回らいらっく文学賞を受賞したデビュー作だ。喜多さんは同作品の映画化を切望しながら、2013年5月に亡くなった。
生前に映画化の話を一緒にしていたという一人娘の荒木麻利江さんは、母の遺志を受け継ぎ、映画化実行委員会を設立。荒木さんは共通の知人を通じて、杉山りょうさんに監督・脚本を依頼した。杉山監督は、「作品に共感できる部分があり、一言でいうと面白そうと感じた」と当時を振り返る。
▼左から、監督・杉山りょうさん、作品映画化実行委員会代表・荒木麻利江さん、同事務局長・荒木俊和さん
同作は、札幌・ススキノのクラブでホステスとして働くアラサー晃子と、系列店で黒服として働く若者ユータとの交流を描くピュアなヒューマンドラマ。もともと帰る場所が欲しかった主人公・晃子を筆頭に、もともと帰る場所がない人、違う場所に帰ってしまった人などが交錯する人間模様を描く。
「最終的に帰る場所」の意味合いは様々で、晃子は最終的にその意味をどうとらえるかが作品の見所。杉山監督は、「誰でも帰る場所が欲しい。その『帰る場所』をもう一度考えてみようという作品。見る人も、自分に重ね合わせられる部分があるのでは」と解説する。
リアルなススキノが描かれる『帰っておいで』の舞台裏
撮影は2015年6月14日から7月にかけて行われた。グランドピアノを置く、札幌では数少ないクラブ「スカイラウンジ・ピュア」を中心に、ススキノ各所で撮影。歓楽街ススキノが舞台とはいえ、「やくざや拳銃は登場せず、爆破もしない、純粋に楽しんで観ていただける映画」。ススキノで撮影された映画は多くあるが、リアルなススキノが描かれるという点で、他とは一線を画す。
事務局スタッフ約40人のほとんどは、本業を持ちながら活動してきた。監督や一部出演者を除き8割が素人の演者で、照明や音声も未経験者が担当。ワークショップを開いてプロの役者が初めての役者にアドバイスするなど、ボランティアスタッフ、キャスト、エキストラ、皆が力を合わせて作品作りに励んだ。
キャスト陣では、ススキノのクラブで働くホステス・晃子役に奥かおるさん。「自分の思い描く晃子像とイメージがぴったりだったのが抜擢の理由」と杉山監督は話す。奥さんはラジオパーソナリティーの経験はあるが演技は初めて。「かねてから自分の作品に出演したいと言ってくれていて、いつかはお願いしたいと思っていた」という。
最後まで決まらなかったというユータ役には武知拓杜さんを起用。系列店で黒服を務める若者の役だ。武知さんも演技初挑戦だが、「勧められて流れで出演を決めた」。
「晃子が孤独を自らまとっている『陰』なら、ユータは『陽』。黒服のユータと、それを拒否している晃子との距離が縮んでいく様子が作品の醍醐味であり、作品タイトルに込められているメッセージ」と奥さん。「芯があり本当の強さを秘める晃子。正義感が強くも空回りするユータ。それぞれの役どころにも注目してほしい」と見所を語る。
一重メイクで撮影に臨んだ和美役の脇田唯さんは、「自分だったら友達になりたくない役を演じた。誰かのことが好き、奪いたい、自分のものにしたいという気持ちは誰しもあるもの。そこまで行ってしまった女の子・和美の気持ちを見てもらいたい」。
坂口役の綾小路諒真さんは黒服・黒髪で出演。くすりと笑える、スパイス的存在として登場する。「ススキノで働いているホステスにも見てほしい作品。一人でも多くの人に見てもらいたい」と綾小路さん。
「楽しい」を大切にした北海道産映画
「様々な方を巻き込んで作った道民映画、メイドイン北海道。賛同してくれた道民の力が結集して実現した作品。『楽しい』を前面に出すことを大切にしたので、見たあと『楽しかった』と思ってもらえたら」と杉山監督。荒木さんは、「映画を通じて喜多由布子という小説家が北海道にいたことを多くの人に知ってほしい」と呼びかける。
映画は、2015年8月8日の北見を皮切りに、11月まで道内主要10都市で順次上映される。上映スケジュールは『帰っておいで』公式サイトを参照。
※映画シーン・メイキング写真は実行委員会提供