氷点下の海で素潜りに挑む!世界でも珍しい流氷フリーダイビング大会

【斜里町】流氷が押し寄せる知床ウトロ。氷点下になるその海で素潜りに挑む「流氷フリーダイビング大会」が、2013年から毎年開催されています。極寒の流氷下を潜るフリーダイビングは、世界的にも類がないとされます。今回で3年目を迎えた同大会について、実行委員会主催者の一人である高木唯さんに話を聞きました。

世界的に珍しい流氷フリーダイビング

フリーダイビングとは、タンクを背負わずに素潜りで深度や泳ぐ距離を競う競技。通常は夏から秋にかけて関東から沖縄までの比較的暖かい海やプールを中心に活動が行われています。

フリーダイビングは水中で呼吸を止めるため危険と隣り合わせでもあります。また、海水は真水と異なり0度でも凍らないため、水温は氷点下になります。こうした過酷な環境で潜水を行うのは、訓練を積んだフリーダイバーのみが可能だそう。凍った湖沼でのフリーダイビングは例があるものの、流氷フリーダイビング大会のように、極寒の海の流氷下でのフリーダイビングは世界的にも類を見ないといいます。

ウェットスーツと足ヒレだけ身に着けて、流氷下をひと呼吸で潜る

▼写真:祝・世界自然遺産登録10周年と掲げて記念撮影

▼写真:右端が主催者の一人・高木唯さん。世界遺産登録10周年について「単純にうれしい。世界に認められてまだ10年かという思い」と話す

高木さんは知床ウトロで生まれ育ち、潜水士で漁師でもある父親の手ほどきを受けて12歳からスキューバダイビングを始め、2011年にフリーダイビング日本代表になった経験を持つ実力者です(インタビュー記事はこちら)。2012年に故郷知床の海を泳いだ際、この海でフリーダイビングをやってみたいと思うようになり、2013年の冬、素潜り写真家・野口智弘さんとともに、ウトロ港沖で初めて大会を開催しました。

それ以来、水深15mほどあるウトロ港沖まで流氷の上を歩いていき、穴を掘って実施してきた同大会。3回目となった2015年3月7日の大会は、ウトロ港内で氷を係留して実施しました。行った種目は「ダイナミック・ウィズ・フィン」という、フィンを履いて水平に潜る競技。参加した国内外11名の選手は、ウェットスーツと足ヒレだけを身に着けて、水深3mほどある流氷の下、20m以上の距離を、ロープをつたって ひと呼吸で潜りました。


びっしり覆い尽くした流氷の下は冷たく、青く透き通った海。沖合で開催した前回大会までは、流氷が覆い尽くすため薄暗く、ライトも使ったのだとか。

高木さんはウトロ港のほかにも、2014年9月に「フレペの滝」下の海での潜水にも挑戦しました。滝の上から見ると青い海に見えますが、水深7~8mある海の中は昆布がいっぱいで、それほど青くないといった印象だったと振り返ります。

世界遺産10年―「流氷の海がこれからもずっと続くように」願い込めて

世界自然遺産知床の大自然を育む重要な役割を担っている流氷は、地球温暖化の影響で年々減少傾向にあるのも事実。そして今年は、世界自然遺産登録10周年の節目でもあります。そのようなこともあり、今大会参加した選手たちは「豊かな生態系を育むオホーツクの流氷の海がこれからもずっと続くように」と思いを込めて潜水を行いました。

流氷フリーダイビングを通して「感動したと言ってもらえると嬉しい」と話す高木さん。知床の海で行う世界的に珍しい流氷フリーダイビング大会は、今後も小規模ながら継続していきたいそうです。

※流氷フリーダイビング大会の幻想的な写真が見られる写真集「Water Being」(野口智弘撮影)は2015年3月20日に発売
※写真は流氷フリーダイビング実行委員会提供