岐路に立たされる札幌の夏の風物詩「とうきびワゴン」

 札幌市の夏といえばいろいろなものが思い浮かぶと思いますが、中央区・大通公園の夏の風景といえばトウモロコシ売りの「とうきびワゴン」を思い浮かべる人も多いのでは?しかし、そのとうきびワゴンが存続できるかどうかの岐路に立たされています。理由は簡単で、売り上げの低迷。今後どうなるのでしょうか。とうきびワゴンの歴史と現状に迫ります。(写真:札幌市)

 札幌市中央区の大通公園の「とうきびワゴン」。これが設置されると夏を感じさせてくれます。札幌市民が購入するというよりは、観光客が購入するものといえるでしょう。

 とうきびワゴンは、ゴールデンウィーク時期から10月中旬までの期間中、5台のワゴンを設置、「茹でとうきび」「焼きとうきび」「茹でた黒もちきび」を1本300円で販売しています。道内産を使っており、2011年の場合、前年度生産の冷凍とうきびは喜茂別町産のハニーバンタム、7月下旬以降提供される収穫されたばかりの生とうきびは道内産のピーターコーン、冷凍黒もちきびはニセコ町産を使用しています。

 さらにとうきびだけでなく、ジャガイモ(1皿250円)、ラムネやジュース(150円)、かき氷(200円)、アイスクリーム(250円)といった食べ物関係から、とうきびペーパーのポストカード3枚セット(120円)まで販売します。

とうきびワゴンの歴史

 とうきび、つまりトウモロコシがここで販売されるようになったのは明治時代後期ですから、道内ではかなりの歴史があります。そもそもの始まりは、市民が屋台を設置して農作物を販売しだしたことといわれています。その中にはトウキビが含まれており、焼いたり、茹でたりして提供していたそうです。

 明治後期の1907年に、あの石川啄木が札幌大通を訪れた際に詠んだ歌があります。「しんとして幅廣き街の 秋の夜の 玉蜀黍の焼くるにほひよ」。幅廣(ひろ)き街は札幌市・大通公園であり、その秋の夜にここからただよってくる焼き玉蜀黍(トウモロコシ)のにおいを詠んでいるわけです。この句碑は大通3丁目に設置されています。

 しかし、そのとうきび売りの屋台は市民が勝手に開いたもの。やがて、屋台が増加して道路にまで及ぶようになったため、札幌市は1965年に屋台を排除しました。これに対して、夏の風物詩であるとうきび売りがなくなってしまったことを嘆く市民がいたため、市は1967年に札幌観光協会に運営委託。「とうきびワゴン」が復活して現在に至っているというわけ。

 その後、大通公園におけるとうきびの売上本数は、1973年の約93万7千本がピーク。その後は年々減少し、2010年度は13万7千本で約170万円の赤字を出してしまいました。理由は(1)嗜好の多様化、(2)近隣におけるファーストフード店・コンビニ等の出店、が挙げられます。2011年6月には「とうきびワゴン」の実情が報じられ、大通公園からなくなるのでは?と話題になりました。

 しかし、二度目のとうきびワゴン撤退を阻止できるのでしょうか。札幌観光協会は2011年12月、大通とうきび販売事業の運営を民間委託するべく企画コンペを開催すると発表しました。事業委託は2012年度から3年間で、民間ノウハウを活用して存続を図ることにしています。

 大通公園の夏の風物詩「とうきびワゴン」は今後どのように変化していくのか……。民間委託でうまくいくことを願うのみです。