北海道を旅する

登別に道内唯一の宿坊!観音寺で都会の喧騒から離れ、穏やかな朝を。

登別温泉といえば道外の方にもよく知られる指折りの温泉地で、近年は外国人観光客も多く訪れています。北海道ナンバーワンの温泉地と感じている方も多いことでしょう。

その温泉街の中に、大きなホテルとは趣の異なる北海道唯一と言っても良い宿があることはあまり知られていません。今回はその宿に実際に宿泊し、お話を伺ってきました。

登別温泉街の歴史を見つめてきた北海道唯一の宿坊

登別に道内唯一の宿坊!観音寺で都会の喧騒から離れ、穏やかな朝を。

その宿とは写真のお寺です。以前から温泉好きの方に「観音寺」と呼ばれているこちらのお寺は「浄土宗観音山聖光院」が正式な名称となります(※本文中では「観音寺」と表記します)。

いただいた縁起によりますと、1895年(明治28年)8月に室蘭市の飯島住職が現在の登別観光協会の近くに説教所と寺子屋を開設したのがお寺としての歴史の始まりで、同時にそれが登別温泉での教育の始まりでもありました。

しかし、開設から10年ほどで建物が焼失、再建されるも無住となり一旦解体。飯島師の弟子である渋谷隆道師が新たに住職となり、1952年(昭和27年)に現在の場所に新寺が建立され今に至ります。

▼本堂
登別に道内唯一の宿坊!観音寺で都会の喧騒から離れ、穏やかな朝を。

日本の歴史を辿ると、人を癒す温泉の力は神仏への信仰と結びつき、多くの温泉地で温泉と寺社は密接な関係となっていきました。元々アイヌの人々によって利用されていた登別温泉も例外ではなく、滝本金蔵が宿を作り温泉地としての歴史を歩み始めてから最も多い時で5軒もの寺院があったそうです。

現在は3軒のお寺がありますが、そのうち1軒は無住。観音寺は温泉街の歴史を静かに見つめてきた貴重なお寺と言えるかもしれません。

▼玄関前にある温泉の手湯
登別に道内唯一の宿坊!観音寺で都会の喧騒から離れ、穏やかな朝を。

玄関前の温泉の手湯で訪れる人を迎えてくれるこちらのお寺は、北海道では非常に数少ない宿坊としての一面も持っています。

宿坊とは本来、僧侶や参拝者が宿泊するための施設ですが、こちらは1962年(昭和37年)にユースホステルとしての営業を始めており、1992年(平成4年)まで開かれたお寺として広く宿泊客を受け入れてきました。ピーク時は観音寺だけで全員を収容できず、他のお寺にお願いして受け入れてもらうほど宿泊客が訪れて賑やかだったということです。

ユースホステルを営んでいた住職ご夫婦が他界されたため宿泊施設としては一旦休業していましたが、このお寺で生まれ育った現在の住職、渋谷隆芳師が宿を再開させ宿坊としての歴史が再び続くことになりました。

登別温泉には過去に観音寺を含め2軒の宿坊がありましたが、現在は観音寺の1軒のみ。温泉街で唯一の存在であるだけでなく、宿坊でなおかつ温泉もあるお寺は北海道全体を探しても見当たらないため、北海道で唯一の宿と言って良いかもしれません。

都会の喧騒を忘れられる宿

登別温泉街は全体が硫黄の香りに包まれていますが、お寺に入るとその空気とお寺独特の匂いが混ざった、何とも不思議な香りを感じます。

建物は二階が本堂になっていて、客室は三階。お部屋は一般的な和室で、お茶セットなども用意されています。

▼シンプルな客室
登別に道内唯一の宿坊!観音寺で都会の喧騒から離れ、穏やかな朝を。

テレビがないため非常に静かで、布団を敷くのもセルフです。また、トイレと洗面台は廊下にあり共用となっています。

日常生活と変わらない、あるいはそれ以上にアメニティーグッズが沢山ある宿泊施設に慣れている方にとっては少々不便かもしれません。しかし、これが観音寺の良いところ。これほど静かな時間やシンプルな空間は日常生活ではほとんど経験できない環境ですので、普段の時間の使い方を見直すきっかけになるかもしれません。

宿坊の中には精進料理を提供しているところもありますが、こちらは食事の提供はなく素泊まりのみ。しかし、宿泊者のために三階の廊下に共用の電子レンジや冷蔵庫が用意されていて、持ち込み可能です。あまり遅い時間まで出歩くことはできませんが、夜の温泉街に出かけて飲食店で食事をするのも楽しい経験になることでしょう。

▼シンプルな浴室
登別に道内唯一の宿坊!観音寺で都会の喧騒から離れ、穏やかな朝を。

楽しみのひとつである温泉は、内風呂のみでこれまたシンプルな造りです。

使用している温泉は観音寺だけの独自源泉でかけ流しで使われており、泉質は「含硫黄-ナトリウム・カルシウム-塩化物泉」。白い湯花が舞う乳白色のお湯で硫化水素臭があり、肌にしっかりと馴染む成分豊かな濃い温泉です。

最近の報道で硫化水素と聞くと気になる方がおられるかもしれませんが、安全に入浴できるようしっかり調整され、心配なく入ることができます。

源泉温度が高いため夏場は熱めのお湯になるようですが、入浴をしながら水を入れて温度調整が可能です。冬場はそのまま入れる温度でしたので、心頭滅却する必要はありませんでした。むしろ、一度浸かると出るのがもったいなくなるような良いお湯です。

なお、温泉は基本的に貸切で利用できます。大きなお風呂ではありませんが、観音寺だけの貴重な温泉をかけ流しで、しかも1人でも家族でも心置きなく楽しむことができ、質の面で贅沢な湯浴みができます。

▼浴室にある観音様のレリーフ
登別に道内唯一の宿坊!観音寺で都会の喧騒から離れ、穏やかな朝を。

観音様のレリーフに見守られながら入浴するところがお寺らしいですが、この内風呂のみのシンプルさと合わせて、入浴中は「お湯をありがたく頂いている」という気持ちにさせてくれるでしょう。

しかしながら、お寺に宿泊していることを最も感じるのは、二階の本堂に入った時です。観音寺では住職がおられる時は毎日18時と翌朝8時にお勤めがあり、宿泊者も参加することができます。

▼お勤めを行う渋谷住職
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▼お勤め参加者のために椅子が用意されている
登別に道内唯一の宿坊!観音寺で都会の喧騒から離れ、穏やかな朝を。

参加者に求められているのは時間通りに本堂に来ることだけで、その他に厳しいルールはありません。座布団に座っているのが難しい方のためにベンチまで用意されているほどで、修行のような印象はありませんでした。

少しひんやりとした空気の中、渋谷住職が優しい声で唱えるお経が本堂に響きます。特に朝はお勤めに参加することで心が落ち着き、爽やかな気持ちで1日を始めることができました。これこそ宿坊ならでは、他の宿ではできない特別な経験です。

一人旅でもお気軽に

観音寺では一人旅の旅行者も気軽に宿泊できます。予約サイトで比較してみると、大きな施設が多い登別温泉では1名で利用できない宿が複数あり、予約できても1名では旅行者の負担が大きかったり、2名以上の場合と同じプランで宿泊できないという状況も見受けられます。

そのような状況の中、「何もないところだけれど、旅行者が雨露をしのぐ場所になれば」という思いで1人でも気軽に利用できる宿を提供している渋谷住職ご夫婦と観音寺の存在が非常にありがたいと感じました。

宿泊料は3,400円で、その安さから湯治場としても利用することができるかもしれません。湯治と聞くと多くの方が「病気の療養」をイメージされると思いますが、実際はもっと積極的なものです。

恵まれた自然と歴史ある温泉街を散策し、良い温泉を楽しみ、静かな時間が持てて、さらにお勤めに参加することで気持ちを新たにすることができます。ここ観音寺でしか経験できない方法で、元気な方はより元気に、より朗らかに生きるための活力が得られるのではないでしょうか。

浄土宗観音山聖光院
所在地:登別市登別温泉町119−1
電話:0143-84-2359

筆者について

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髙野紀康

1974年生まれ、江差町出身。日帰り温泉の湯守をしながら、年間100軒以上の温泉を巡る。温泉ソムリエマスター・温泉入浴指導員ほか6つの温泉資格を持つ。「北海道は1つの大きな温泉郷」をモットーに、全道を走り回っている。