道内各地の特産品や地場産業の話題をお伝えする連載「北洋銀行この街紹介」。今回は平取町からお届けします。
アイヌ文化の伝統が色濃く残る、平取町二風谷(にぶたに)。2019年4月、この地区のアイヌ文化発信施設が様変わりしました。既存の二風谷アイヌ文化博物館や萱野茂二風谷アイヌ資料館、アイヌ文化情報センターに加えて、アイヌ工芸伝承館「ウレㇱパ」や伝統的なコタン(集落)を再現した二風谷コタンが整備されたのです。
そこで今回は、各施設を改めて紹介し、新しくなった二風谷地区の楽しみ方をご紹介します。
アイヌの伝統的集落を復元した「二風谷コタン」
▼伝統的な雰囲気が漂う二風谷コタン
平取町は、2016年度から2018年度にかけて二風谷アイヌ文化博物館周辺で工事を行い、アイヌの文化や歴史を学び、雄大な北海道の大地に住んだ人達の歴史、生活空間を感じる場所として「二風谷コタン」(約2万8千平方メートル)を整備しました。
これまでも博物館に付属して、チセ(家)、ポロチセ(大きな家)、プ(貯蔵用の倉)、ヘペㇾセッ(子熊のオリ)などのチセ群がありましたが、このたび博物館前の駐車場だった敷地の一部をせせらぎや池を配置した芝生広場として整備。チセは計9棟あり、チセ風のあずま屋やカフェ(休憩所)を新設しました。国道脇には新しいメインサインが完成し、トイレも場所を移して新築。遊歩道には昔の矢筒をイメージし、アイヌ文様を施した照明灯を設置しました。
▼伝統的なコタンを復元した二風谷コタン。ゆっくりと時を過ごしたい
▼カフェ(休憩所)
復元されたチセの内部も見学できます。イワンチセ(6号)、アㇻワンチセ(7号)の2棟は「工芸のチセ」として5~10月の10時~12時および13時~16時には、二風谷民芸組合の工芸家が日替わりで常駐し、刺繍や木彫りを実際に行っている様子を無料で見学することができます。トゥペサンチセ(8号)は8時30分~17時で「サラニプ製作体験」「ユカラと語り部」や各種儀式に活用されています。
▼チセの内部
▼工芸のチセ
工芸家の「こんにちは。どちらからいらしたの~?」という挨拶から会話が弾み、製作の流れや、最終的にどのような作品ができあがるのかを丁寧に説明してくれます。ついつい時間を忘れて、見入ってしまいます。
▼工芸のチセでは刺繍や木彫りの実演を見ることができる(平取町観光協会提供)
このように「二風谷コタン」では、アイヌ文化の伝統的なコタンの中に身を置くことができるだけでなく、アイヌ伝統工芸の世界に触れることができるのです。
▼平取町アイヌ文化情報センター(二風谷工芸館)
二風谷コタンに隣接する形で佇むのは、2010年5月に誕生した平取町アイヌ文化情報センターです。アイヌ文化振興の拠点施設との位置づけで、売店や地元工芸家の作品展示があります。売店では、経済産業省の伝統的工芸品に指定されている「二風谷イタ(盆)」や「二風谷アットゥㇱ」、名刺入れ、お守り、携帯ストラップ、アイヌ文様デザインマスキングテープなどを販売していて、おみやげを探すのにぴったりです。
▼売店コーナー
また、木彫りや刺繍などの体験ができるアイヌ文化体験学習講座もあります。木彫り体験では、有料(2名からの受付、2名~19名まで¥2000 20名~99名まで¥1500)でアイヌ文様の特徴の一つであるうろこ彫りの彫り方を学ぶことができます。
所在地:沙流郡平取町二風谷61-6
開館時間:9時~17時(年末年始休館)
入館料:無料
電話:01457-2-3299
アイヌ文化を深く学ぶなら「平取町立二風谷アイヌ文化博物館」「萱野茂二風谷アイヌ資料館」へ
二風谷地区には公立と私立の博物館・資料館があり、アイヌの民具・祭具などを見ることができます。
▼特徴的なデザインの二風谷アイヌ文化博物館
二風谷コタンエリアでひときわ目立つ建物が、二風谷アイヌ文化博物館です。貴重なアイヌ文化を正しく受け継ぎ、未来へ伝えていくことをコンセプトに、1992年に開館しました。特徴的なデザインの建物は、木の洞にアイヌの民具という宝が収まっているというイメージで建築されたそうです。
▼二風谷アイヌ文化博物館の大型ビジョンではアイヌの伝統文化について学べる
博物館が所蔵する資料のうち919点は重要有形民俗文化財(国指定)です。展示スペースは大きく4つに分けられます。「<アイヌ>人々の暮らし」ゾーンでは、育児、遊戯娯楽、木彫、衣類、食事など、日常生活に用いた民具類を展示しています。見どころの一つは「イタ(盆)」。約40年前に作られたイタからは、二風谷の特徴の一つであるうろこ彫りを間近に観察できます。
▼館内展示スペース
▼約40年前に作られたイタ(盆)
「<カムイ>神々のロマン」ゾーンでは、祈り、信仰、伝説、物語など精神文化を紹介。チセ(家)の内部を模したスペースがあり、ユカㇻ(英雄叙事詩)、カムイユカㇻ(神謡)、ウウェペケㇾ(昔話)の映像で珠玉の語りを鑑賞できます。見どころは、祭具の一つである「イナウ」。カムイ(神)によって異なるイナウを作っていて、その多様性を見ることができます。また、カムイ(神)や先祖に酒などを捧げる際に使う「イクパスイ」も、製作者によって多様なデザインであることがわかります。
▼ヌササン(祭壇)
▼多様性がわかるイクパスイ
「<モシㇼ>大地のめぐみ」ゾーンでは、農耕、狩猟、採集、葬送に関する資料が見られます。見どころは、カツラとヤナギの大木を使って作られた丸木舟です。「<モレウ>造形の伝統」ゾーンは、アイヌの技巧と造形美を紹介しています。
▼日本最大級のチプ(丸木舟)
▼仕掛け罠で遊べるコーナーは子どもたちに人気
所在地:沙流郡平取町二風谷55
開館時間:9時~16時30分
休館日:12月16日~1月15日、11月16日~12月15日と1月16日~4月15日は月曜休館、その他は無休
入館料:大人400円、小中学生150円(共通券あり)
電話:01457-2-2892
▼萱野茂二風谷アイヌ資料館
一方、私立の萱野茂二風谷アイヌ資料館は、アイヌ文化研究者・萱野茂氏(1926~2006)の個人コレクションを展示する資料館です。1972年に二風谷アイヌ文化資料館として開館し、1992年に現在の名称になりました。
▼本館1階の様子
本館1階には、萱野夫人が縫い上げたカパラミプ、アットゥㇱをはじめ、民具、遊具、楽器などアイヌ民族関係の所蔵品600点(うち202点が国指定重要有形民俗文化財)、本館2階には書斎(仕事場)の再現コーナー、世界の民具コーナーがあり、1953年頃から収集・記録を始めたとされる萱野茂氏の情熱をうかがい知ることができます。大ホールはアイヌのコンサートや講演会が行われることがあります。
▼賞状や写真が並ぶ大ホール(萱野茂の顕彰コーナー)
▼パワースポット「縁結び石」。右側は1975年沙流川上流幸太郎沢で発見、左側は翌年さらに10km上流にあったが、凹凸から模様までピッタリ
所在地:沙流郡平取町二風谷79-4
開館時間:9時~17時
休館日:特になし。11月16日~4月15日は事前連絡を
入館料:大人400円、小中学生150円(共通券あり)
電話:01457-2-3215
▼ゲストハウス二風谷 ヤントで宿泊も可能
所在地:沙流郡平取町二風谷79-3
宿泊費:ドミトリー 1泊3,000円+税(冬季3,500円+税)、個室(貸切)1泊12,000円+税(冬季14,000円+税)
電話:01457-2-2335
アイヌ文様をあしらったグッズを作ることができる平取町アイヌ工芸伝承館「ウレㇱパ」
▼平取町アイヌ工芸伝承館「ウレㇱパ」
2017年9月に着工し、2019年4月にグランドオープンしたのが、平取町アイヌ工芸伝承館「ウレㇱパ」です。アイヌ語で「育て合う」を意味する「ウレㇱパ」は、一般公募で決定。その名の通り、手仕事の担い手を育てる事と、アイヌ工芸の生産性向上、都市農村交流の促進を目的としています。
木造平屋建て約870平方メートルの建物は、老朽化した平取町民芸品共同作業所の代替施設として、体験交流を通じたアイヌ工芸の魅力発信、人材育成などの機能を加えて開設されました。木のぬくもりを感じる館内には、木彫りや刺しゅう、染色を行う為の手仕事スペース、オヒョウなどの樹皮を煮る釜、アットゥシ織りを行う為のアットゥシスペース、木工用の機械加工室などで構成されています。
▼機械加工室では、タイミングが良ければ製作の様子が見られるかも?
▼アットゥㇱ製作を考慮に入れて設計されたスペース。手前のポールに糸をかけて使うことができる
▼手仕事スペース
▼屋外にはオヒョウやシナノキの樹皮を煮る釜が2基ある
館内では、工芸家が製作する様子を見学できたり、体験ができたりします。職員によると、「アイヌ文化を題材にした漫画・アニメなどの影響もあってか、5~6年前に比べて二風谷に来る観光客が増えた。若い人も増えているので、さらに増やしたい」との想いから、認知度を高めるため体験プログラムを始めたと話します。
▼タイミングが合えば常駐している工芸家に会えるはず
体験プログラムで人気なのは、アイヌ文様をデザインしたペンダントづくりです。本物の二風谷イタ(盆)などに刻まれた沙流川流域のアイヌ文様をもとにデジタル化したアイヌ文様を、エゾマツ材の小さなペンダントトップに彫刻。11種類の大小、計22種類から好きなデザインを選び、30分程度で組み立てるというものです。小さいながら忠実に再現されたアイヌ文様のペンダントは、あなたもきっと欲しくなるはずです。
▼これは欲しくなる! アイヌ文様オリジナルペンダント組み立て体験(税込1,000円)
また、アイヌ文様のオリジナルタンブラー、マグボトルのレーザー加工体験も実施しています。アイヌ文様のパターンから好みのデザインを選び、レイアウトを決めてレーザー加工機にかけると、素材の側面に彫刻される仕組みです。いずれも北海道でここだけのオリジナル体験ですので、二風谷に来た思い出に体験してみてはいかがでしょうか。
▼レーザー加工機
▼アイヌ文様レーザー加工体験(マグボトル税込3,000円~、タンブラー税込2,500円)
所在地:沙流郡平取町二風谷77番地14
営業時間:9時~17時
休館日:月曜日(祝祭日の場合は翌日)、年末年始
電話:01457-3-7501
※体験の価格は、2019年8月時点。
これらの施設はすべて徒歩5分程度の圏内で、「匠の道」沿いに位置します。徒歩で移動しながら多様なアイヌ文化に様々な面から触れられる二風谷地区。近年注目が集まるアイヌ文化を学びに出かけてみませんか?
北洋銀行静内支店(しずないしてん)
所在地:日高郡新ひだか町静内御幸町1丁目1番1号
電話:0146-42-1001