なんこ、がたたん、がんがん鍋―炭鉱マンが愛した空知の郷土料理とは

北海道内にはかつていくつかの炭鉱があり、炭鉱によって栄えていた町がありました。炭鉱の閉山と共に活気を失う町も多かったものの、鉱夫とその家族がその地に築いた文化は、今も地元に残っています。

中でも体が資本の鉱夫たちが大切にしていたのが、食。そこで今回は、空知の産炭地で育まれた食文化を3つご紹介します。

File.1「なんこ鍋」(歌志内市)

今も歌志内に残るなんこ鍋は、もともと秋田の阿仁(あに)という地の郷土料理でした。阿仁の鉱夫が北海道に渡り、伝えたものだとされています。

江戸時代、過酷な阿仁の炭鉱現場で塵肺に冒され、働けなくなった鉱夫たちが食べていたのが馬肉。馬肉の味噌煮込みを食べた鉱夫たちは元気になって現場復帰しましたが、当時は馬を食べるのは御法度でした。そこで隠語を使い、馬のことをナンコと呼ぶようにしたのです。

▼歌志内に残るなんこ鍋

もともと馬肉の味噌煮込みだったなんこは、歌志内に伝わり、馬の腸を使う料理へと変化しました。また、20年ほど前の鍋ブームを境に、なんこ鍋と呼ばれるようになりました。

▼うたしないチロルの湯

現在、なんこ鍋を食べられる店が、温泉施設の中にあります。「うたしないチロルの湯」のレストランです。

▼なんこ鍋定食

なんこ鍋にサラダや小鉢が付いたお得な定食。なんこ鍋に明確な定義はなく、この店では野菜と一緒に味噌で煮込んだ状態で提供されます。臭みもまったくなく、温泉でポカポカしている体をさらに内側から温めてくれますよ。

うたしないチロルの湯レストラン
所在地:北海道歌志内市字中村78番地3
電話:0125-42-5588
営業時間: 11時30分~14時、17時00分~20時(L.O.19時30分)

File.2「がんがん鍋」(赤平市)

赤平市に残る炭鉱グルメが「がんがん鍋」です。炭鉱での過酷な仕事が終わると、鉱夫たちはキャッチボールをするなどして楽しみました。また、その後はみんなで七輪や石炭ストーブを囲み、鍋をつつくことも。

命がけの仕事だからこそ、こうしたコミュニケーションが必要だったのでしょう。鍋の中身は、豚のホルモン。ホルモン鍋と呼ばれ、地元民にも親しまれてきました。

▼赤平に残るがんがん鍋

やがて炭鉱は閉山しますが、再び町に活気を呼び戻そうと立ち上がった地元民が、ホルモン鍋に白羽の矢を立てます。「炭鉱の町でストーブをガンガン焚いて、ガンガン煮込み、ガンガン食べる」といいった当時の炭鉱長屋の生活から、がんがん鍋と命名されました。

▼焼き肉のたきもと

がんがん鍋を提供する店は数店舗ありますが、ここでは「赤平がんがん鍋協議会」会長が経営する「焼き肉のたきもと」をピックアップ。

▼がんがん鍋

ひとりでも注文しやすいように、小ぶりなサイズで提供されるのが特徴的。プリプリのホルモンと、たくさんの野菜が煮込まれています。味噌ベースなので食べやすく、ひと口ごとにエネルギーが湧いてくるようです。

焼肉の「たきもと」
所在地:赤平市茂尻中央町南1-7
電話:0125-32-2265
定休日:火曜日
営業時間:10時~22時

File.3「ガタタン」(芦別市)

芦別市の「ガタタン」は、先の2つとは少し異なります。鉱夫が食べていた味というわけではなく、戦後、満州から芦別に引き揚げてきた村井豊後之亮(むらいぶんごのすけ)さんが、満州の家庭料理をヒントに創作したのがはじまりだとされています。

村井さんが開いた中華料理店「幸楽」で提供されるガタタンは、熱々で栄養満点とあって当時の鉱夫たちや地元民から大人気に。芦別市内の他の飲食店にも広まっていきました。

▼芦別に残るガタタン

とろみがついた塩味のスープに、肉や野菜がふんだんに入っているガタタン。そのユニークな名前は、村井さんがヒントにした満州の家庭料理「疙瘩汤(または疙瘩湯、読みはガータタン)」が由来です。

▼きんたろう

ガタタンは店によってそれぞれ個性的です。ここでは2店舗紹介していきましょう。まずはガタタンの有名店「きんたろう」です。

▼ガタタン(税込500円)

油少なめで和風だしを使っているのが、きんたろうの特徴。風邪を引いた家族のために、鍋持参で買いにくるお客さんもいるのだとか。ガタタンうどん、ガタタンスープカレーといったアレンジメニューもあり、とにかくメニュー豊富で驚かされます。

▼ラ・フルール

次にご紹介するのは「ラ・フルール」。芦別市観光物産センターの2階にあるレストランです。

▼ガタタンラーメン(税込970円)

ガタタンをラーメンにしたアレンジメニューです。たくさんの野菜はもちろん、エビやホタテなども入った豪華さです。ガタタン炒飯というメニューもあり、ガタタンという料理の懐の深さを感じさせます。

きんたろう
所在地:北海道芦別市北四条西1-3-19
電話:0124-22-8205
営業時間:11時~14時半、17時~20時半
定休日:不定休(主に月曜日)
ラ・フルール
所在地:北海道芦別市北4条東1丁目1 観光物産センター内
電話:0124-23-1437
5月~9月
午前11時~午後7時(L.O.18時半)※午後3時~午後4時までclose(5/3~5/7)

11月~3月
午前10~午後5時(L.O.16時半)※午前10時~午前11時までは軽食のみ

4月と10月
午前11時から午後6時まで(L.O.午後5時半)

定休日:12月31日~1月1日

炭鉱で栄えた町には、独自の食文化が根付き、今に伝えられていることがよく分かります。共通して言えるのは、栄養豊富で、体が温まり、すぐエネルギーになりそうな料理だということ。そんな炭鉱グルメは、きっと他にも存在しているはず。

見つけた時にはぜひ食べてみて、かつての鉱夫たちの日々に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

(2023年6月28日追記:営業時間・価格を変更しました。)