2019年7月26日、定山渓温泉にミレニアル世代をメインにした旅館「旅籠屋 定山渓商店」がオープンしました。情報番組で紹介されるやいなや、予想以上の問い合わせがあるなど、ユニークな宿の誕生に多くの人が注目しています。話題の「旅籠屋 定山渓商店」に宿泊してみました。
※定山渓商店という名称に従い、旅館・館内ではなく「商店・店内」に呼称を統一しています。
若い世代に旅の楽しさを知ってもらいたい!
「旅籠屋 定山渓商店」は、数々の宿泊施設を経営する「(株)第一寶亭留」の系列です。高級イメージが強い同社が、ミレニアル世代(1980年代から2000年代初頭までに生まれた世代)向けの宿泊施設をオープンさせた理由を、大島彩乃チーフが説明してくれました。
「ここ数年、北海道の観光は、外国人観光客に支えられていますが、今後の展望として内需拡大も必要です。若い世代に旅行の楽しさを知っていただくために、気軽に泊まれるミレニアル世代向けの宿泊施設をオープンしました。『旅籠屋 定山渓商店』に宿泊された方が旅の面白さを感じ、いずれ当グループの宿泊施設を選んでいただく流れができたら嬉しいですね」
随所に見られるリーズナブルな料金実現のための工夫
「旅籠屋 定山渓商店」は、2018年10月に営業を終了した札幌市の保養施設「渓流荘」をリノベーションしています。
「築47年を経過していたため、札幌市は取り壊しを計画していましたが、少し手を加えることで再利用可能と判断し、弊社で購入しました」と布村英俊常務取締役は言います。本来なら外注するデザインなどを社内チームの発案で進めるなど、手作り・手探りの状態で約1年間かけて準備が進められました。
歴史に新しい息吹をもたらす客室
お部屋は、ツインの洋室・8畳の和室、カプセル風ドミトリー「ハタゴノナカ」を用意。備品は渓流荘当時の物やグループ内で使っていたものを流用しており、ところどころに歴史を感じます。
「リノベーションなので、新しい宿ができたと宣伝したくないのですよ」と、布村常務取締役。渓流荘に敬意を払いつつ、新しい時代に合わせていることが伝わります。
従来のカプセルルームの多くは畳の数にして約1.6枚分なのに対し、「ハタゴノナカ」は畳2.18枚分あり、天井が高く、支度中に頭をぶつける心配はありません。セーフティボックスを設置しているので、盗難の心配も軽減されます。
アメニティなどを最小限に留める
「使い慣れたものや馴染んだものを持ち込んで使ってほしい」との考えから、アメニティのサービスを最小限に留めています。また、アメニティグッズ持参の方に、日帰り入浴券などが当たるガチャガチャを実施するなど、嬉しいサービスも用意されています。店内には、歯科医が開発したファッション性の高い歯ブラシや、キャラメルのようにかわいい「旅する石鹸」など、一般的なものから少し個性的なものまで取り揃えているので、旅の思い出に購入するのもよいでしょう。
酒屋定山渓商店は、ビール390円、日本酒250円~!
「旅籠屋 定山渓商店」という変わったネーミングは、店内に二つの商店を構えていることに由来しています。宿泊施設のお酒は高額な傾向にありますが、「金額を気にせず、お酒を楽しく飲んでもらいたい」との考えから、居酒屋並みの価格に設定しました。
大人の隠れ家「酒蔵疑似体験」
日本酒は100種類以上の銘柄をストック。酒屋定山渓商店で買ったお酒は、浴室以外どこでも飲むことができます。また、酒蔵をイメージした暗い倉庫で懐中電灯を照らしながら好きな日本酒を飲むという、謎めいた大人の遊びも体験できます。
肉のプロが店長を務める「定山渓精肉店」
もうひとつの商店は〝定山渓精肉店〝です。夕食は、つまみや選りすぐりの肉を6段の重箱に忍ばせた「六段」1種類のみ。一段目は「肉屋のつまみ」としてキムチやタコの酢の物など6品。二段目は7種類の野菜をミックスしたサラダ、三段目以降は牛肉のさまざまな部位が味わえる重が連なる豪華絢爛な内容です。
店主が考えたトリセツに従って、一番おいしい方法で焼き上げるのがポイント。白米、スープ、杏仁豆腐も用意されているほか、もっと食べたいという方のために、肉の量り売りも行っています。
朝食は「肉屋の雑炊」「肉屋のカレー」から選択
朝食は「肉屋の雑炊」か「肉屋のカレー」から一品選びます。そのほか2種類のレタスを使ったサラダと、生姜が効いたしじみの味噌汁、漬物、ジュースや牛乳が用意されています。私が食した桜どりを使った雑炊は目が覚めるおいしさ。絶妙な味加減に感激しました。
ドレッシングは、グレープフルーツドレッシング、イタリアンハニードレッシング、利尻昆布ドレッシングの3種類が用意されています。一つに決められない方は、すべて味わってみてください。
源泉100%。至福のかけ流し温泉
往年の面影を色濃く残す浴室は、渓流荘ファンにも喜ばれることでしょう。泉質はナトリウム塩化物泉です。入浴すると肌に塩分が付着し、汗の蒸発を防ぎ、体の芯からポカポカ温めてくれます。
効能は、貧血症、冷え性、神経痛、筋・関節痛、五十肩、切り傷、やけど、慢性婦人病、病後回復など。いつまでも浸かっていたい気分になりました。
宿が人と人との懸け橋に!
店内のいたるところにアートがあふれています。ラウンジに掲げられたTシャツは、道内を中心に活躍する若手アーティストが定山渓温泉や酒などをイメージしてデザインしました。店内で販売し、売り上げの一部を還元するなど、アーティストをサポートしています。また、定山渓精肉店には、札幌在住の画家cana.さんが、定山渓商店をイメージした壁画を描いています。工事が進む中でも、そこだけは違う空気感があったそうです。
付かず離れずフレンドリーなスタッフ、作品を提供するアーティスト、そしてお客さんや定山渓温泉に関わるたくさんの人たち。「旅籠屋 定山渓商店」の居心地の良さは、数々の人々が作り出す高揚感によって生み出されていると確信しました。
自由に時間を過ごしたい、自然体な旅をしたい、ちょっと変わった宿に泊まりたいという方に最適な空間です。みなさんも素敵な思い出を作りに行ってみませんか?
旅籠屋 定山渓商店
所在地:札幌市南区定山渓温泉西2-5
電話:011-598-2929
公式サイト