絵の中に入れる『世界最大の油彩画』は圧巻!太陽の森ディマシオ美術館

【新冠町】 新冠町の内陸、豊かな自然と牧場の太陽地区にある「太陽の森 ディマシオ美術館」。ここに、世界最大の油彩画が展示されているのをご存じだろうか。それはとにかく大きく、体育館でないと収まりきらない。そんなディマシオ美術館は、普通の美術館とは一線を画す。地域の人たちとの交流を大切にする、まるで太陽のような温かさのある美術館でもあったのだ。今回は、新冠町のディマシオ美術館の魅力を余すところなくご紹介する。

小学校跡を活用した新感覚美術館

同美術館は、2008年に廃校となった太陽小学校校舎を活用。2009年6月にインターネットオークションで落札し、2010年8月7日にオープンした。小学校時代の部屋を改装し、フランス幻想絵画の第1人者であるジェラール・ディマシオ氏のデッサン、油彩画、自画像など作品200点以上を収蔵・展示する。

小学校時代に体育館として使われていたスペースには、1994年から1997年にかけて3年がかりで作り上げた、9m×27mの超大作を常設展示している。一人の画家によってキャンバスに描かれた油彩画としては世界最大とされ、同美術館の目玉展示の一つとなっている。それ以外の主な作品は、小学校時代に活用されていた各部屋や廊下に展示する。

ひらがなで書かれた案内板があるのは小学校だった証拠。木のぬくもりが感じられる館内では、教職員室や校長室だった場所や、給食スペースだった中央の吹き抜けスペースを、憩いのカフェ、また、地域の人たちが集まるコミュニティスペースとして活用している。

▼展示スペース。ディマシオ作品に関しては、体育館の2つを含め6つの展示室からなる。

世界最大の油彩画に入ってみよう

なんといっても世界最大の油彩画は見ておきたい。縦9m×横27m、18枚のキャンバスを使った巨大油彩画には、2013年7月、160枚の鏡を用いた奥行き3.5mの鏡張りを天地左右に施し、無限の世界を表現した。絵を見るだけではなく、鏡の中のアート空間に実際に入ることができ、より身近に作品を体感できるよう工夫がなされた。

「自分が絵の中に入って、絵を見ている人をみる」という、どこでも味わえない体験をすることができるのがこの作品の魅力。実際に鏡張りの上に乗って作品を見渡してみると、作品がどこまでも続いているように感じられる。よく絵を見ると、大きな顔と思っていた部分は、描かれた顔の半分が鏡に映し出されていたことがわかり、その『計算』に驚かされたりする。

窓から差し込む自然光によって見え方は変わるといい、同美術館の谷本晃一さんは『夕方に見る世界最大の油彩画もオススメだ』と教えてくれた。是非様々な時間帯に訪れ、それぞれの表情を楽しんでいただきたい。

▼写真には収まりきらない世界最大の油彩画は圧巻



そもそもなぜ新冠にディマシオ氏の美術館が?

ディマシオ氏の作品は、大きい絵が特徴。そして、絵にたいてい描かれているのが、壁や陶器のかけら。これらが浮き出て立体感を演出している。その絶妙な配置を含め、この技法はディマシオ氏ならでは。世界最大の油彩画を含め、題名を付けない(無題)のも理由があるという。

しかし、なぜ新冠の奥地に、これほどまで世界的に高い評価を得ているディマシオ氏の美術館があるのだろうか。そもそもの始まりは約35年前、パリのギャラリーでの出会いに遡る、と理事長の谷本勲さんは話す。それ以来、ディマシオ氏の作品を収集、1988年の東京・大阪・広島開催のディマシオ個展では65万人を動員し大成功をおさめた。

これを受けて1992年、谷本さんはディマシオ氏に世界最大の作品の制作を依頼、1997年に完成した。ところが、あまりに大きすぎるため展示場所がなく、国内で展示場所探しが始まった。そんなさなか、新冠町の旧小学校校舎オークションの話を知る。体育館のサイズを測ってみると、わずかな隙間を残してピッタリと収まった。こうして、運命かの如く、新冠町に完成した美術館で世界最大の絵が永久展示されることとなったのだ。

▼2013年8月に70代のディマシオ氏が描いた自画像は体育館入口に展示されている。

▼彼はデッサンにも定評があるという。

▼世界最大の油彩画が誕生する以前、ディマシオ作品の中で一番大きかった油彩画。3m×10.5m、1991年の作品。

大自然と文化の共生を生み出す美術館

ディマシオ美術館では、立地する太陽地区の地域住民との交流も大切にしている。現在の建物は、旧太陽小学校の3代目校舎。太陽地区はこの小学校から始まったという。小学校は残念ながら廃校になったものの、建物は美術館にスタイルを変え、地域の人たちが地元でとれた野菜を持ってきたり、ピザなどの料理を作ったり、結婚式をあげたりと、今も太陽地区のコミュニティーの場として活用されている。

「大都市と違ってここには何もないから、成長の可能性を感じる。100年先を考えて方向付け中」と話すのは谷本理事長。美術館の近くに北海道らしい木がなかったら白樺を植え、北海道らしいラベンダーも植え、秋の紅葉の木も植えた。自然が豊かでストレスが少ないし、食べ物もおいしい。そこに、絵に入って感動できる美術館という、ここにしかない新しい文化づくり。「心を豊かに」というモットーのもと、「大自然と文化の共生」がこの地で育まれている。

▼エントランスに誕生したカフェサロン。ライブラリースペースとして画集を閲覧できるほか、地域の人たちが集まってピザなど地産地消の料理を作ったりもする。

▼洋風レトロな家具やグラス、美しいシャンデリアの置かれた、光さしこむ吹き抜け空間は、かつて給食スペースだった。現在はカフェスペースとして自由に利用できる。


▼館内を歩くと3匹の猫を見かけることも。美術館で猫を飼っていて地元でも愛されている。

▼家族で楽しめる美術館づくり。そのために2階に絵本スペースも設けた。

▼二階には心象画家・河島真規子氏の作品群。目を引く大きな絵は「太陽の森」。ここの場所をイメージしたという絵には谷本勲理事長や飼っていた犬も描かれている。

▼屋外「彫刻庭園」にはオブジェや彫刻が。新聞を顔にかけて寝ている人は起こしてはいけない。

世界的に評価を得ている幻想画家の世界最大の油彩画は北海道にある。そしてそこは、厳格でおかたい美術館というよりは、どこか温かみを感じる、ホッとさせる美術館だった。北海道に住んでいる皆さんはもちろん、北海道・日高地方に来たら一度は立ち寄っていただきたい。

太陽の森 ディマシオ美術館
所在地:北海道新冠郡新冠町字太陽204-5 ※道道71号線 [地図]
TEL:0146-45-3312
開館日:4月1日から11月30日・無休(冬季12月から3月は土日・祝のみの営業)
9:30~18:00、最終入館受付17:30
入館料:1080円(高校生大学生860円、太陽地区在住者と中学生以下は無料)
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