【美深町】 村上春樹さんの小説の舞台になったのでは?と噂されている町が道内にあり、ファンから注目されている。それが美深町。町では昨年、村上春樹文庫がオープン。村上春樹朗読会を開催したり、町に魅せられた写真家が風景を収めたポストカードを製作するなど、村上春樹さんをきっかけとして様々な動きがみられている。
※写真:旧美幸線終着の仁宇布駅跡地
美深町が村上春樹さんの小説の舞台?
村上春樹さんの長編小説『羊をめぐる冒険』の舞台ではないか―。そう言われているのが、美深町仁宇布地区 [地図]だ。小説は1982年の作品で、村上さんの三作目。男女が背中に星の模様を持つ羊を探し北海道を旅する物語だが、その中に、「十二滝町」と呼ばれる町が登場する。もちろん架空の町ではあるが、この地が作品の舞台ではないかといえる根拠が幾つもあるという。例えば下記の点がある。
(1) 鉄道
主人公が列車で向かったのは札幌から260kmの地で、旭川から塩狩峠を越えて、さらに日本で第3の赤字路線に乗り換えた。札幌から美深まで235.1km、美深からかつて存在した美幸線で終点仁宇布まで21.2km、合計256.3kmある。美幸線は日本屈指の赤字ローカル線だった。
(2) 産業
大規模稲作北限地で、林業と木材加工が盛んだと表現。確かに美深町は稲作の北限だったという記録があるし、林業も行われている。
(3) 自然環境
十二滝町の由来は12の滝があったことから。この地区には滝が多いことで知られる。16か所が確認されており、車で気軽に行ける場所だけでも「雨霧の滝」「女神の滝」「深緑の滝」「激流の滝」「高広の滝」がある。さらに東から西へ流れる川という表現もあり、天塩川に東から流れ込むニウプ川を指していると考えられる。また、のっぺりした広い台地とは松山湿原とされる。
作品に登場する同地区のめん羊牧場と宿は、約500頭の羊を放牧飼育する松山農場、同農場の民宿ファームイン・トントがモデルではないかとされる。
ハルキストの集う町
そのようなわけで、美深町は村上春樹さんのファン・ハルキストが集う町となった。舞台となったとされる松山農場に訪れるファンが多くなっており、同農場では毎年6月、村上春樹さんの作品『羊をめぐる冒険』の草原朗読会を開催、ファンの間で好評だ。
町も動いた。美深町観光協会は2013年10月、JR美深駅に著書約70冊を並べた「村上春樹文庫」をオープン。文庫を設置する観光ギャラリーでは、小説のロケーションではないかと思われるスポットを、小説の文章の抜粋とともに写真で展示している。今年秋には小説に登場した曲を演奏するコンサートも予定。同観光協会の小栗卓さんは「村上春樹さん関連の観光客は年に100名程度だが年々増えている」と話している。
▼JR美深駅の村上春樹文庫 (美深町観光協会提供)
写真家も美深に魅せられた
北海道出身の写真家・岡田敦さんも、めん羊飼育をする松山農場の柳生佳樹さんから美深町が小説の舞台になった場所ではないかという話を聞き、美深町に魅力を持ったひとり。動物の出産の写真を撮りたいと思い、2012年春に美深を初めて訪れたという。
「美深とは、どれほど美しく、深い町なのか。その響きに拮抗するような、美しく、深い写真を撮りたいと思った」と岡田さんは話す。岡田さんの撮った写真はポストカードとして2014年4月26日に発売、現在3種類(各200円)を、JR美深駅、ファームイン・トント、びふか温泉、トロッコ王国美深で販売している。今後10種類程度に増やす予定だ。
▼2014年4月に発売した美深の風景を写したポストカード3種。羊の写真も
「美深町に訪れた人がポストカードを買ってくれる、そのポストカードが誰かのもとに届き、その写真をみてまた美深町に訪れる人が増える、芸術と観光が融合したそんな巡回ができたらいい」と話している。