温泉豆腐や洞窟風呂が好評!十勝ぬかびら源泉郷「山の旅館 山湖荘」

北海道を台風が襲い、大きな被害を受けました。幹線道路、鉄路も寸断され、観光地へのアクセスにも多大な影響が出ました。
通行止めになっていた十勝・上士幌町と旭川方面を結ぶ三国峠も10月になって通行できるようになり、野山が色づくこの時期、紅葉を楽しむことができます。

国立公園の中では最大の面積を誇る大雪山国立公園の深い森と糠平湖に抱かれた天然かけ流しの温泉地「ぬかびら源泉郷」。いくつもある宿では、訪れる人に周囲の自然、温泉はもちろん、滞在する時間をたっぷり楽しんでもらおうと様々な取り組みが行われています。

今回は、「ぬかびら源泉郷」の魅力をユニークな方法で楽しませてくれる2つの宿をご紹介しましょう。自然の中で本当にゆっくりしたい方、心の洗濯をしたい方、そして自然をアクティブに楽しみたい方も必見です。

「山の旅館 山湖荘」の名物「温泉豆腐」は15年経った現在も人気

「山の旅館 山湖荘」は、ご家族を中心に営まれているアットホームな雰囲気の宿です。お部屋は8室で、その全てに囲炉裏が設置されています。「初めてお泊まりになったお客様からも、囲炉裏を囲んでいろんな話ができました、とご家族、お友達と特別な時間を過ごしていただけるようです」と嬉しそうに話すのはオーナーの蟹谷吉弘さん。

宿の中に入ると古民家を思わせる作りに、心が和みます。「山湖荘」では、食事処や日帰り入浴の方も利用できる休憩スペースにも囲炉裏があり、顔を合わせたお客様同士が仲良くなることも多いと言います。

▼各部屋には囲炉裏があり、まったり時間を過ごせると人気。普段会話の少ない家族、友人とも語り合える不思議な宿です

▼囲炉裏では鹿肉、十勝産野菜など、さまざまな地元の味を炙ったり焼いたりで楽しめます。火のある食卓は、人の心も温かくしてくれます

「山湖荘」の食事のテーマは地産地消。山菜、川魚など糠平が多くの自然の美味しさの宝庫であるとともに、農業王国とも言われる十勝には、野菜、豆、肉など、多彩な食材が揃っています。それらを囲炉裏焼き、石焼き、天ぷらなど素材を活かした料理で味わえるのも魅力。中でも「温泉豆腐」は名物で、それを楽しむために毎年訪れ、連泊するお客様もいるほど。

▼山湖荘名物「温泉豆腐」。豆腐のほのかな甘さも感じられ、十勝の豆がもつ栄養をたっぷり味わえます

「温泉豆腐は、ひょんなことから生まれた料理です(笑)。うちの温泉は飲用許可を取っているので、料理でも使えるんですね。十勝の食材と温泉とを組み合わせた料理ができないかと色々試作している中で、十勝は豆の産地ですから豆腐も美味しいし、湯豆腐でもしてみる?という話しになったんです。ぐつぐつした鍋のフタを開けてみると、お湯が真っ白、温泉成分(重曹)で豆腐が溶けてしまって……。ありゃ~失敗だ! でもせっかくだから一口食べてみよう……と。ところがなんと! 豆腐が溶けて濃い豆乳のような感じに、しかもまろやかで美味い!! これはお客様にもぜひ味わってもらいたいと思いましたね」と蟹谷さん。

調べてみると、全国に数カ所、同じような料理があると知りました。十勝産の豆で作った豆腐をどんなタレで食べるとより美味しいか……、今度はタレの開発です。「かつおと昆布でしっかりダシを取り、自家製の味噌でまとめたオリジナルのタレです。味噌はもちろん上士幌産の豆で作っていますから、相性もぴったり」。

しめは、温泉粥です。ご飯と温泉水をプラスしてじっくりお粥が出来るのを待ちます。自家製の味噌を入れて、素朴で優しい温泉粥が出来上がります。あつあつをいただいて、心もお腹も満足感に浸る至福のひとときです。

この「温泉豆腐」が生まれたのは15年程前。それ以来ファンを増やし続けている宿の名物料理なのです。

何故か落ち着く「洞窟風呂」

「山湖荘」の浴場は地下にあります。三代目・蟹谷さんは、「開業当時、地下を掘ってお風呂にしたんでしょうね。だったら、その場所をうまく利用したお風呂が作れないだろうか」と模索しました。

2000年の春、たまたま東京ディズニーランドなどのテーマパークのアトラクションなどを手がけた業者さんと知り合い、何気なく相談してみたところ、地下のこもり感を活かして洞窟風にしてはどうだろうという提案があり、蟹谷さんも描いていたイメージがぐっと現実へと動きました。

「他の施設に比べたら天上も低く、狭い感じがありますが、洞窟のようなお風呂は、何故か落ち着くと意外と好評なんです(笑)。包まれている、守られているような感じがするのでしょうね」と蟹谷さん。滞在中に何度も湯あみを楽しむ方もいれば、日帰り入浴で足を運ぶ人も。洞窟のこもり感を体験してはいかがでしょう。

▼洞窟風呂。源泉かけ流しのぜいたくな湯、広すぎない洞窟が何故かほっと落ち着く空間。古い皮膚や老廃物を落として元々持っているお肌に戻す効果がある美肌の湯。男性はもとより幅広い年代に女性の温泉ファンが多い

▼時間によっては陽光が入り込んでより洞窟感を感じられることも。日帰り入浴も可。温泉水は飲用できるので、宿の玄関前の「紅葉の湯」を利用してください

型破り三代目の挑戦

現在54歳の蟹谷さんが三代目として宿を継いだのは正式には20代後半。二代目のお父様が体調を崩され、21歳の時に実家を手伝うために帰郷。そのまま家業を継ぐことに。

▼山湖荘のご主人、三代目となる蟹谷吉弘さん。
年に一度、視察をかねて家族で道外の温泉旅館に出かけるのが趣味と笑う

「親の仕事は見てきたけれど、温泉宿はこうあるべきという固定観念がなかった。それが良かったのだと今は思えます。小さい旅館ですから、色々なことにチャレンジできる。違う土地で暮らした経験が糠平の自然の豊かさや素晴らしさを再認識させてくれたことも大きいですね」と当時を振り返ります。

糠平は大雪山系に登山をする人も多く訪れる場所。そういう人たちに山登りの疲れを癒やして、我が家のようにくつろいでもらいたいと思ったのだそう。「山湖荘」のもっている要素を活かし登山客に特化してみようと、山好きの方に向けて情報を発信し続けた結果、多くの登山客、トレッキングなどの愛好家が利用してくれるようになりました。山岳ガイド指定の宿でもあります。

「飾り気はないけれど、山菜料理や鹿肉等のご飯が食べられるアットホームな宿……そんな口コミで2000年当時はお客様の8割が登山の方でした。翌年に囲炉裏を設置したのを機に、登山の方からの口コミもあって一般のお客様も増えてきたのです。こんな小さい宿でも……小さい宿だからできることを心を込めてやっていけば、感じて下さるお客様がいる。ありがたいですね」

もうひとつ、「山湖荘」の特徴は一年を通じて宿泊料金が変わらないこと。お正月もお盆、観光シーズンを言われる時期も、「同じような料理、同じサービスなのに季節で料金が変わるのは何故?というのが私の疑問でもあったんです。だから、うちは一年中同じ料金。ただ、申し訳ないのですが、古い施設で音が響くので、小学生以下のお子様のご宿泊はお断りしているんです。十勝のおこもり的な場所として、お客様にはとにかくのんびりしてもらいたい、ただそれだけです(笑)」。

宿に入ると、好きな浴衣を自分で選び、滞在中の食事に使う箸も自分で好きなものを選びます。そこから「山湖荘」での時間が始まります。一泊では足りず、連泊の方も多いのが、この宿の特徴かも知れません。

「まだまだやりたいことやお客様に喜んでもらうには……と考えていることがあります。お客様との会話、そして自分たちの暮らしの中でも、サービスに役立つヒントは色々なところにあります。それをすくいあげ、山湖荘のスタイルに加えていければ……これからが楽しみですね」

十勝のおこもり宿の挑戦は、これからも続きます。深まる秋の紅葉、氷雪に包まれる白い冬。どんな時間をすごそうか……そんな自分の時間探しに訪れてみませんか?

山の旅籠 山湖荘
所在地:上士幌町字ぬかびら源泉郷北区14番地
TEL:01564-4-2336
FAX:01564-4-2337
ウェブサイト

日帰り入浴:15:00~21:00(OUT)
大人 500円/小学生 200円/小学生以下100円
温泉:
泉質 ナトリウム・塩化物-炭酸水素塩泉