札幌の母なる川として、市民に親しまれてきた豊平川。一方で、大雨などにより氾濫を起こす、暴れ川としての一面もあります。
そんな豊平川に架かる橋は、現在、40余りもあることをご存じでしょうか。もしかすると、あまりにも生活に密着しているため、日頃は顧みることが少ないかもしれません。
今回はそうした橋の中から、市街地に架かる主な橋をまとめてみました。普段よく通る橋も、改めて見ると新鮮に思えてくるものですよ。
豊平川の上流から下流へと架かる橋
01.五輪大橋
▼橋長150m、幅員18.0m、1970(昭和45)年架設
その名の通り、1972(昭和47)年に開催されたオリンピック冬季大会に合わせて建設された橋です。メイン会場であった真駒内と国道230号線を結び、総工費は2億7千万円(当時)とも言われています。
▼親柱上には「花束」と「飛翔」という名称の彫刻が
02.藻岩上の橋
▼橋長150m、幅員3.0m、1975(昭和50)年架設
五輪大橋のすぐ下流にある、人間と自転車しか通れない人道橋。もともと1881(明治14)年に明治天皇が行幸された際に真駒内から山鼻屯田に渡る仮橋として造られ、当時は美しい朱塗りだったそう。
▼読み方は「うえのはし」ではなく「かみのはし」
03.藻岩橋
▼橋長174m、幅員19.0m、1969(昭和44)年架設
この橋もまた、1972(昭和47)年のオリンピック開催に向けて造られたもの。それ以前は、現在の藻岩上の橋が「藻岩橋」と呼ばれていました。
▼名が示す通り、真駒内と藻岩下を結び、藻岩山を臨む橋
04.ミュンヘン大橋
▼橋長172m、幅員22.0m、1991(平成3)年架設
豊平川に架かる車道橋としては、初めてのハープ状の斜張橋。建設当時は構造的に特徴が多いため、橋梁技術者からも高い関心を集めました。
▼開通式には多くの市民が集まった
最初は南31条橋と呼ばれていましたが、工事に着手した1988(昭和63)年がミュンヘン市との姉妹都市提携15周年に当たることや、ドイツを中心に発展した斜張橋であることから、後にミュンヘン大橋と名付けられました。開通式にはミュンヘン市長のメッセージも披露されました。
▼バルコニーにはミュンヘン市の建物を描いたレリーフが
取り付け道路を含めた総事業費は約47億円にも上りましたが、見る角度によってケーブルの交差する模様が幾何学的に変化し、その構造美を含め、まさに国際都市札幌のシンボルとして相応しい橋といえるでしょう。世界にも例のない難条件下の架設工法だったこともあり、土木学会北海道支部から「技術賞」も贈られています。
▼国際都市札幌のシンボルに相応しい橋
05.南二十二條大橋
▼橋長230m、幅員15.8m、1961(昭和36)年架設
戦後初めて豊平川に建設された橋が、南二十二條大橋です。橋の下には無料のパークゴルフ場もあり、市民の憩いの場として親しまれています。
▼交通量も多い橋
またこの橋に限らず、周辺道路のガードレールなどにはさまざまな彫刻やオブジェがあり、それらを見て回るのも楽しいものです。
▼南二十二條大橋にはリアルなサケの姿が
06.南19条大橋
▼橋長236m、幅員30.5m、1971(昭和46)年架設
戦後、発展を続ける札幌市にあって、豊平川は新橋建設ラッシュでした。この南19条大橋もそんな最中に完成したもので、当時は豊平川に架かる橋の中でもっとも広い幅員を誇りました。
▼札幌オリンピック開催の前年に完成
この辺りから、札幌の中心街を流れる鴨々川が分流していきます。
▼ここにもサケのモチーフが
07.幌平橋
▼橋長161m、幅員36.5m、1995(平成7)年架設
最初の幌平橋が架けられたのは、1927(昭和2)年のこと。なんと、ひとりの地元民が私財を投じて建設したというから驚きです。というのも当時、豊平橋以南には藻岩橋まで橋がなく、中の島地区は豊平川によって札幌の市街地から分断されていました。そこで、事業家の河合才一郎が立ち上がったというわけです。
▼現在の幌平橋は、実に4代目となる
現在の幌平橋が建設される際「札幌が世界に向けて発信する橋」を目標に、下流側の歩道部に人工の滝、彫刻、展望空間などが計画されていたといいます。その歩道部には姉妹都市の米国ポートランド市から「ポートランド広場」と名が付けられました。開通時にはポートランド市長からのメッセージと共に、金属彫刻も寄贈されています。
▼米国ポーランド市から寄贈された金属彫刻「サーモン・リバー」
08.南大橋
▼橋長284m、幅員18.0m、1963(昭和38)年架設
すぐ下流に南七条大橋もあるように、本来なら「南九条大橋」と名付けられるところでした。しかし「九」は「苦」や「窮」を連想させることから、現在のこの名になったということです。
▼花火を見るには絶景のポイント
夏の花火大会の際は、幌平橋と並び、たくさんの人々で賑わいます。普段の交通量も多く、市民の生活には欠かせない橋です。
▼1985(昭和60)年に取り付けられたサケのレリーフ
09.南七条大橋
▼橋長286m、幅員19.0m、1971(昭和46)年架設
終戦直後、札幌市内中心部と米軍の真駒内キャンプを結ぶため、豊平川に造られたのがこの橋のはじまりとされています。当時は米軍専用道路でしたが、一般車両の走行も黙認されていました。
▼現在の橋が完成した渡橋式では花火も打ち上げられた
10.豊平橋
▼橋長132m、幅員28.5m、1966(昭和41)年架設
豊平川の歴史は治水の歴史と言われるほど、かつて暴れ川として人々を苦しめました。豊平橋は1871(明治4)年の初代丸木橋にはじまり、まさに豊平川と対峙し、架橋技術を向上させてきた橋なのです。度重なる落橋と流失、外国人技師の参画など、開拓時代から続く豊平橋の物語は、簡単に語り尽くせるものではありません。
▼豊平川に架かる橋の中でもっとも交通量が多い
特に1924(大正13)年に完成したタイドアーチ型式の先代豊平橋は、北海道の三大名橋とも呼ばれ、その美しさから「札幌市と豊平町とをつなぐ橋としては贅沢極まる」と批判を受けたほど。この橋の渡橋式に参加した吉井キクさんという一般市民が、現在の豊平橋の渡橋式にも参加したという珍しい例も残っています。
11.豊平川第一水管橋
▼橋長178.4m、1969(昭和44)年架設
橋は人や車が渡るだけのものではありません。豊平橋とでんでん橋の間に架かる豊平第一水管橋は、札幌市民に水を供給するための橋。大切なライフラインである一方、白いパイプアーチが軽快な雰囲気を醸し出しています。
▼水は白川浄水場から運ばれてくる
12.でんでん大橋
▼橋長200m、1980(昭和55)年架設
全国で初めての通信ケーブル洞道専用橋。大都会では地震などの災害にも強い洞道(地下道)を掘削し、電話局同士を大束の通信ケーブルで結びます。途中で河川がある場合は、こうした橋を架けて通信ケーブルを収容したシェルターを渡すのです。
▼すぐ近くの第一水管橋と併せた景観も評判
ちなみにでんでん大橋という印象的な名称は、当時のNTT職員から募集され、付けられたということです。
13.一条大橋
▼橋長176m、幅員25.0m、1969(昭和44)年架設
幌平橋と同じく、初代は私費で造られたのが一条大橋です。1920(大正9)年、地域住民が不便を解消すべく、寄付を募って造ったのがはじまりだとされています。1938(昭和13)年に架け替えられた際に、一条大橋と改称。1973(昭和48)年までは、この橋のすぐ側まで市電が通っていました。
▼豊平川に架かる橋の中でも古い歴史を持つ
14.水穂大橋
▼橋長150m、幅員20.0m、1986(昭和61)年架設
鮮やかなミントグリーンが目を引く水穂大橋。札幌市の中心部と厚別副都心を結ぶ橋とあって、厚別区民にとって特になじみ深いものかもしれません。
▼遠くからでも存在感のある橋
15.東橋
▼橋長136m、幅員17.8m、2013(平成25)年架設
初代の東橋は1899(明治32)年に完成したとされ、豊平川に架かる橋の中でも5本の指に入る歴史の古さを誇ります。交通量の増加に伴い、2001(平成13)年から架け替えと拡幅のための工事が開始されていましたが、2013(平成25)年に完了しました。
▼1969(昭和44)年に4車線に
16.平和大橋
▼橋長184m、幅員21.5m、2004(平成16)年架設
豊平川に架かる橋で2番目に新しいのが、この平和大橋です。札幌市は、1992(平成4)年に核兵器廃絶平和都市であることを宣言しており、その理念から「平和への願いを込めた未来の架け橋」として、平和大橋と名付けられました。
▼広島市にも同様の名称の橋がある
17.上白石橋
▼橋長264m、幅員8.0m、1971(昭和46)年架設(車道)
JRの鉄道橋と仲良く並ぶように架かっているのが、上白石橋です。1965(昭和40)年頃までは橋の上を馬車が闊歩していたそう。現在では、函館本線と千歳線が運行する鉄道橋をひっきりなしに列車が行き交うため、車と列車が併走することもしばしばです。
▼初代は札幌で最初の吊り橋として誕生
18.北十三条大橋
▼橋長202m、幅員17.5m、1976(昭和51)年架設
豊平川に架かる橋の中では、比較的新しい橋です。この辺りは見晴らしも良く、橋を渡っている際にも悠々とした気分になれそうです。
▼徒歩で橋の上からの眺めを楽しむのも良し
19.豊平川第二水管橋
▼橋長234m、1983(昭和58)年架設
上水道専用の橋として、1970(昭和45)年の第一水管橋に引き続き、1983(昭和58)年に建設されました。平岸配水池から東区、北区へと、主に飲料水を供給するライフラインです。
▼ライトグリーンの2つのアーチが特徴的
20.環状北大橋
▼橋長240m、幅員25.5m、1975(昭和50)年架設
その名の通り、札幌の環状線に架かる橋です。交通量が多く、環状北大橋が渋滞になることも度々あるため、その対策のために(仮称)北24条大橋の事業計画が立てられました。
▼車線は多いが慢性的な渋滞が
21.(仮称)北24条大橋
▼橋長319m、幅員22.8m、2022(平成34)年架設予定
環状北大橋と豊水大橋の慢性的な渋滞を解消するため、今まさに建設中の(仮称)北24条大橋。現在は、ようやく橋台と橋脚が完成したところ。ここからどう橋が出来上がっていくのか、楽しみに待ちたいものです。
▼橋が完成する様を経過観察するのも面白いかも
22.豊水大橋
▼橋長548m、幅員20.0m、1979(昭和54)年架設
国道274号線に架けられた豊水大橋は、高速道路を挟んで上りと下りがあるという、2本構造のユニークな橋です。交通量が多く、環状北大橋同様よく渋滞します。
▼高速道路が斜め上を走っている
23.雁来大橋
▼橋長638m、幅員24.0m、1980(昭和55)年架設
豊平川の最下流に架かるのが、雁来橋です。男性的な鉄骨組みの橋ですが、初代の橋は戦時中の鉄不足のため、脚橋ができた1937(昭和12)年から実に22年もの年月を要して完成しました。
▼札幌市と江別方面を結ぶ交通の要
こうして見ていくと、豊平川に架かる橋はそれぞれに時代を反映し、それぞれに誕生の物語を持っていることが分かります。人々に求められ、生活を豊かにしてきた橋の数々。橋を渡る時には、そんな背景も少し思い出してみてください。
取材協力
札幌市教育委員会編『札幌の橋 さっぽろ文庫8』、北海道新聞社、1979年