北海道苫小牧市にはかつて北海道三大原野に数えられた勇払湿原があり、そこには数多くの湖沼があります。
有名なのはこの湿原で一番大きな面積のウトナイ湖。一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
野生鳥獣の生息地の保全を目的とした、野鳥保護区バードサンクチュアリや、
湿地の生態系を守る国際条約、ラムサール条約に登録された湖です。
その勇払湿原の中に、ウトナイ湖の次に大きな面積をもつ湖沼「弁天沼」(34ha)があるのですが、あまり知られていません。
地図を見ると、かなり大きな沼ですので必ずと言っていいほど目に付きます。
しかし、地図では弁天沼の名前こそあれ、周辺には何もなく、アクセスできる道路も見当たりません。
知られていない理由はアクセスが困難だからでしょうか?
しかし都市の間近で陸の孤島状態なワケはないはずです。
実際に行ってみることにしました。
地図とGPSナビを使って道を探す
よくよく地図を見ると、近くまで行けそうな道があるようです。
しかし、林道もしくは農道のような作業道のような感じです。
そこで、地図はもとより、車のナビゲーション、スマートフォンのアプリも用意し、さらに車が無理なら徒歩で進もうと、地形図にコンパス携帯食などなど、まさに探検の準備をして行くことにしました。
道道781号線から海沿いを進み、途中から左折して砂利道へと入っていきます。
当然の事ですが、弁天沼は観光地というわけではないので、案内看板などは全くありません。
枝分かれする道の奥には畑があったり行き止まりだったりするので、ゆっくりと地図を確認しながら進むのですが、既に使われていない道であったり、地図には載っていない道があったりするので、引き返しては確認という事を繰り返しながら、どんどん奥へと進んでいきます。
▼ひたすら林道を進みます
▼途中、弁天沼からひかれている用水路があります
感覚としては、沼の周りを巻き込むように進んでいるはずなのですが、深い木々に囲まれ、沼が全く見えず確認できていないため、かなり不安になってきます。
何本目になるでしょうか、砂利道へ入ってからかなり奥へ進んだ場所の分岐へ入ったとき、雰囲気が変わります。
今まで両側に欝蒼と茂っていた草木がなくなっていき、見通しが良くなってきます。
前方に草に覆われたゲートが見え、その奥には水が見えて来ます。
弁天沼、到着です。
▼分岐も何本目になるでしょう、左の道へ進んでみます
▼周りが開けてきました、もしかして…
▼赤いゲートの奥に沼らしきものが見えます
▼弁天沼到着です。奥には厚真火力発電所が見えます
自然そのままの姿が残る湿原
弁天沼はウトナイ湖と同じ勇払湿原内にあり、アカモズ、オオジシギ、絶滅危惧種のチュウヒやシマアオジの繁殖地になっていたり、マガン、オオワシやオジロワシ等の渡り鳥も飛来するため、野鳥観察にはもってこいの場所です。
▼ヒドリガモでしょうか、遠くて判別できませんが、まったりとしています
そのため、弁天沼一帯を鳥獣保護区にという検討がなされていますが、実は沼一帯がエゾシカの一大生息地。鳥獣保護区に設定した場合、狩猟が禁止となるため、エゾシカが大繁殖して一帯の森林や農業にさらなる食害をもたらす恐れがあることなどから、設定が見送られているようです。
たしかに今回の取材中、何度も目の前にエゾシカが出てきましたし、鹿対策の網や電気柵が張られているのを見かけました。
▼沼の周りにも鹿の足跡が多く残されています
問題は多々あれど、このような自然が残っていることは嬉しく思います。
しかし、なぜ観光地化もされず現在まで自然の姿のまま残っているのでしょう。
調べてみると、それなりの理由がありました。
もともとはウトナイ湖を含め、樽前山山麓での大湿地帯を形成していましたが、20世紀初頭からの開拓による耕作地への転用などによって、その面積を縮小させてきました。
1960年代には、苫小牧東部開発計画において工業都市の敷地内となりましたが、1973年(昭和48年)のオイルショック等の影響で開発が頓挫し、そのまま残ることとなったようです。
皮肉にも当時の開発計画の土地に含まれたため、他からの干渉もなく残された貴重な自然ということです。
実は誰でも立ち入る事ができるのです
調べたところ、弁天沼自体は国有財産ですが、その周りは株式会社苫東が所有する土地のため一般には立ち入ることができないとの事。
なるほど、弁天沼が知られていない理由がわかりました。
株式会社苫東へ確認すると、「ゴミ不法投棄対策の為に車両の進入を禁止している」との事で、弁天沼へアクセスできる北側と南側の道路にはゲートがあり、普段は施錠しているようです。
問い合わせも結構あるようで、ウェブページにも記載がありました。
しかし、「散策や自然観察のためなら立ち入り自由」とも書いてあるように、事前に立ち入る理由を伝える事でゲートの鍵を借りることができるようですので、手順を踏めば誰でも立ち入ることは可能です。
誰かが畑などの作業でゲートを開けたままにした際にたまたま入ってしまい、帰りにゲートが閉められていて出れなくなる方が結構いるようです。ご注意ください。
今回の取材で、事前に手続きをすれば鍵を借りて楽に弁天沼までいく事ができるということがわかりました。
やはり陸の孤島などではなかった(笑)。
ただし案内看板などはありませんから、地図を見ながらちょっとした探検気分を楽しむのもいいかもしれませんね。