さよなら十鉄(じゅってつ)、廃止された「十勝鉄道」とは?

2012年6月1日、十勝最後の私鉄が廃止されました。その私鉄列車は「十勝鉄道」で、貨物専用線ですが、約5.4km区間の路線で運行していました。その十勝鉄道の歴史を紐解きます。(画像は1924年頃の十勝鉄道北海道製糖帯広工場)

あまり知られていなかったことですが、十勝鉄道は十勝地方で運行する最後の私鉄列車でした。その運行区間は、芽室町の国内最大級の国産砂糖製糖工場である日本甜菜製糖芽室製糖所とJR貨物帯広貨物駅間を結ぶ約5.4km区間です。地図を見るとお分かりのように、JR根室本線に沿った直線区間です。

地元で「十鉄(じゅってつ)」と呼ばれることもあるこの鉄道は日本甜菜製糖の子会社・十勝鉄道株式会社が経営しており、芽室製糖所で生産された砂糖をコンテナで年間2~3万トン、一日3往復程度時速約25kmで、JR貨物帯広ターミナルまで運んでいました。また、この日本甜菜製糖所有の専用線のほか、JR貨物帯広貨物駅から分岐する帯広市産業開発公社専用線(日本甜菜製糖専用線までの第二線および日本オイルターミナル帯広営業所へ接続する第二工業団地線)も1970年以来十勝鉄道が運行管理受託していましたので石油貨物列車も運行しました。

しかし、日本オイルターミナル帯広営業所の2012年5月末廃止・路線利用廃止が決定すると、十勝鉄道単独運用ではコスト増が予想されることから、2012年5月末をもって運行廃止となりました。2012年6月1日には最後の運行と記念式典が行われ、十勝鉄道の鉄道としては約90年、帯広市産業開発公社専用線としては約40年の歴史に幕を下ろしました。日本甜菜製糖専用線は撤去されます。

最後の十勝鉄道の映像

十勝鉄道90年に及ぶヒストリー

十勝鉄道はもともと製糖会社の運搬鉄路として運行を開始したのが始まりです。廃止時には貨物扱いのみでしたが、1959年までは旅客運営も行っていました。また、清水町の河西鉄道株式会社を合併したことから、一時は清水部線と帯広部線の二路線を保有・運行していました。これは当時私鉄としては北海道最大規模の鉄道網でした。1977年までに帯広貨物駅~芽室製糖所間を除く全路線が廃止されて以来、細々と鉄路運営がなされてきました。

十勝鉄道略史

1920年9月10日 日本甜菜製糖前身「北海道製糖」専用線(帯広駅~帯広製糖工場)開業
1921年11月12日 日本甜菜製糖清水工場操業、専用線開業
1923年4月7日 十勝鉄道株式会社を設立
1924年2月8日 十勝鉄道へ北海道製糖専用線を移管
1946年1月30日 河西鉄道株式会社を吸収し清水部線運行開始
1959年11月15日 旅客営業廃止、貨物扱いのみに
1977年3月1日 工場閉鎖に伴い、帯広貨物駅分岐の専用線を除き鉄道事業を終了
2012年6月1日 十勝鉄道の鉄道事業を全廃

鉄道省発行「鉄道停車場一覧」大正15年より十勝鉄道の駅リスト
国立国会図書館近代デジタルライブラリー

十勝鉄道の駅リスト(帯広部線)
国鉄譲渡線=帯広駅・新帯広駅
戸蔦線=帯広大通駅・新帯広駅・女学校前駅・工場前駅・農学校前駅・十勝稲田駅・川西駅・農西駅・藤駅・美栄駅・十勝清川駅・上清川駅・南太平駅・戸蔦駅
戸蔦線太平支線=南太平駅・太平駅
美生線=藤駅・基松駅・常盤駅・坂上駅・美生駅・新嵐山駅・上美生駅
八千代線=常盤駅・上帯広駅・広野駅・上広野駅・八千代駅

十勝鉄道の駅リスト(清水部線)(旧河西鉄道)
本線=清水駅・下清水駅・人舞駅・熊牛駅・下美蔓駅・中美蔓駅・上美蔓駅・下幌内駅・上然別駅・鹿追駅・万代橋貨物駅
北熊牛支線=熊牛駅・北熊牛駅
南熊牛支線=熊牛駅・本村駅・南熊牛駅・関山貨物駅
上幌内支線=下幌内駅・上幌内駅

中心となるのが1924年に地方鉄道として開業した路線(帯広部線)でした。帯広駅から分岐し戸蔦・太平まで旧国鉄広尾線と並行する戸蔦線(29.9+1.8+0.5=32.2km)、藤から分岐し美生・上美生までの美生線(20.7km)、常盤から分岐し上帯広・八千代までの八千代線(12.1km)、約65kmが帯広南部に線路を張り巡らし運行していました。1959年までに帯広駅~工場前駅間を残し全廃、1977年に全廃しました。

もう一つは、河西鉄道から吸収した路線(清水部線)です。1921年に操業開始した日本甜菜製糖清水工場専用線を後に設立した河西鉄道が運行、1925年に地方鉄道として清水駅近くの下清水~鹿追間(27.3km)、熊牛から分岐して南北に北熊牛(2.8km)・南熊牛(4.7km)まで、下幌内から分岐して上幌内間(5.2km)を開業しました。後に清水駅とも接続しました。これらの路線が1946年に十勝鉄道に吸収合併されたといういきさつです。吸収後は長くは続かず、1949年に下清水~熊牛までを除いて旅客営業終了、1951年までに清水部線は全廃されました。


十勝鉄道第四号蒸気機関車・コハ23号客車(帯広市) by 100yen

かつて、十勝平野に鉄路を張り巡らしていた十勝鉄道は、製糖業が盛んだった十勝だからこそ生まれた鉄路でした。現在往時の面影は見られなくなりましたが、帯広駅南側に線路跡地を利用した緑地「とてっぽ通り」、南20丁目に蒸気機関車と客車が保存されています。