崖の上の「小樽鰊御殿」は積丹から移築したものだった?! その歴史とは

おたる水族館のすぐ近く、崖の上に建つ鰊御殿(にしんごてん)をご存じでしょうか。かつて積丹半島を中心とした日本沿岸地域では、にしん漁で栄えた時代に数多くの豪勢なにしん漁舎が建築されました。

小樽にある鰊御殿は、積丹半島の泊村にあったものをこの地に移築したものです。現在は、誰もが有料で見学できるようになっています。華やかかりし頃のにしん漁場を偲んでみませんか。

全盛期には120人が寝泊まりした鰊御殿

▼中央の赤い屋根が鰊御殿

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現在おたる水族館の近くに建つ鰊御殿は、1891(明治24)年から7年の歳月をかけ、1897(明治30)年にようやく竣工しました。当主は泊村のにしん親方、田中福松です。青森県出身の福松は17歳の時に叔父を頼って漁夫として北海道へ来ましたが、程なくして独立。にしん刺網から次第に大規模な建網漁業(定置漁業)を営むようになり、成功を収めました。

▼泊村に建てられた頃の鰊御殿

全盛期には120人ほどの漁夫がこの鰊御殿に寝泊まりし、漁期外でも越年仕事のため30人は常住していたというから、その繁栄ぶりが偲ばれます。ちなみに福松の営む建網は15~18か統、漁夫は1か統につき35~40人ほどなので、漁期ともなれば地元の手間取りを含め、使用人は大変な数に上ったそうです。

▼移築完成間近の鰊御殿

そんな鰊御殿が小樽市にやって来たのは1958(昭和33)年のことです。北海道炭鉱汽船株式会社が泊村のにしん漁場建築物を解体、移築し、その後小樽市に寄贈しました。1960(昭和35)年5月には「北海道有形文化財・にしん漁場建築」に指定。民家で文化財に指定されるのは、初めてのことでした。そして現在もこの鰊御殿では、当時の人々の生活を垣間見ることができるようになっています。

当時の漁夫たちの暮らしに触れてみよう

▼いざ、鰊御殿見学へ!

断崖絶壁の上に建つ鰊御殿は、海の風をたっぷり感じることができます。総面積は611.9㎡(185.1坪)もあり、北陸・東北地方の切妻造という民家様式が採用されています。

また、とど松、たも、せんなどの道産原木や、東北地方から取り寄せたひのきなどが使われており、東北で生まれ、北海道で財を成した田中福松の思いが感じられます。ちなみに使われている材料は約3000石(540トン)に上り、仮に30坪の家を建てるとすると、20軒分も建てることが可能な量だというから驚きです。

▼見事な材木が使用された家屋

屋内に入ると、にしん漁やにしん加工に使われた道具類をはじめ、ここで暮らしていた人たちの生活用具などを展示してあります。

▼貴重な当時の道具の数々

写真や記録VTRで当時の様子を見ることができたり、貴重な資料も展示されていたりと、じっくり眺めていくと、なんだかタイムスリップしたような気持ちにすらなります。

▼せっかくだから記念撮影はいかが?

また、昔の衣装を着て記念写真を撮ることのできるコーナーも。衣装は無料で貸し出してくれるので、この雰囲気ある鰊御殿の中で、雰囲気のある写真を残してみませんか?

▼窓からは海も見える

ふすまを開け放った屋内に立つと、ここで全盛期には120人もの漁夫が寝泊まりしていたのかと、感慨深い気持ちになります。窓から吹き込む潮風だけは、今も昔も変わらないのかもしれません。かつてにしん漁が栄えたと聞いても、現代を生きる私たちにはピンと来ないものですが、現存する鰊御殿を訪れると確かにそういう時代もあったのだと、不思議な気持ちになるはずです。そこに生きた人々の息吹を、ぜひ感じてみてください。

小樽市鰊(にしん)御殿
所在地:北海道小樽市祝津3丁目228番地
電話:0134-22-1038
開館時間:4月7日(土)~11月25日(日) 9時~17時 (10月16日からは16時閉館)
入館料:一般 300円、高校生・市内に住む 70歳以上の方150円、小・中学生 無料
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