「登別温泉」開湯160年!その始まりは一人の男の妻への愛だった?!

道内各地の特産品や地場産業の話題をお伝えする連載「北洋銀行のこの街紹介」。今回は、登別市登別温泉町からお届けします。

北海道内各地に数多ある温泉ですが、中でも登別温泉は道外からの観光客にも人気のスポット。実は登別温泉を世に知らしめたのは、ある男の妻に対する愛がきっかけだったことをご存じでしょうか。一体どういうことなのか、物語は江戸時代にまで遡ります。

皮膚病で悩む妻のために

▼鬼は登別温泉のシンボル的存在

1858(安政5)年、江戸で大工職人として腕を振るっていた滝本金蔵は、妻の佐多と共に32歳で長万部へと移住します。

その頃、佐多はひどい皮膚病に悩んでいました。登別温泉の噂を聞きつけた金蔵は山道を分け入り、そこに治療のためのささやかな湯小屋を建てます。湯治の甲斐あって、佐多の皮膚病はみるみる快癒。金蔵は温泉への感謝を込めて、湯守の許可を取ることに。そうして湯宿経営を始めたのが、現在の登別温泉のルーツとなっているのです。

▼在りし日の滝本金蔵(写真提供:第一滝本館)

1885(明治18)年ともなると湯宿は徐々に軌道に乗り、やがて「湯もとの滝本」と呼ばれるようになりました。登別温泉は、社交場としてもにぎわっていったのです。湯治客の増加に伴って客馬車の運行が必要になったため、金蔵は自費を投じて湯宿までの道路を改修します。

こうして登別温泉湯守として名を馳せ、馬車運行の功績によって「藍綬勲章」も授けられた金蔵は、1899(明治32)年に73歳で逝去します。翌年、その息子である金之助が初めて「滝本館」という看板を立てました。

▼1932(昭和7)年の温泉の様子(写真提供:第一滝本館)

大正時代に入ると温泉の経営を他人に引き継がれるなど、滝本館は幾多の変遷の後に1953(昭和28)年、第一滝本館と、現在の名に改称されました。

▼昭和初期頃の第一滝本館(写真提供:第一滝本館)

ひとりの大工職人が妻のために開湯した登別温泉。今では年間280万人もの観光客が訪れる、全国的にも指折りの人気温泉地になりました。

▼昭和時代の豪奢な第一滝本館大浴場(写真提供:第一滝本館)

もともとはアイヌの人々が利用し、やがて硫黄山の労働者、そして白老の仙台藩陣屋や南部藩出張陣屋の武士などが訪れるようになり、どんどんと評判が広がっていったのは、やはり温泉開発に全力を投じた金蔵の情熱があったからこそだったのです。

9つもの泉質を持つ、まさに温泉のデパート

▼現在の第一滝本館

登別を訪れたことのある人なら分かると思いますが、かすかに硫黄のかおりが漂っていて、いかにも温泉街だという雰囲気を高めてくれます。さらに温泉を身近に感じたいなら、温泉街の奥にある地獄谷まで足を運んでみていはいかがでしょう。

▼登別温泉の源泉、地獄谷

山肌のあちこちから吹き出す蒸気は、原始の迫力を感じます。登別温泉は日和山の噴火と共に誕生したとされ、地獄谷は直径約450メートルもある爆裂火口群なのです。

▼地獄谷にある間欠泉

地獄谷には間欠泉もあり、約80℃のお湯が不定期にゴボゴボと泡を立てて湧き上がります。生きている自然をさらに身近に感じられるはず。

▼どこか幻想的でもある大湯沼

地獄谷からさらに遊歩道を30分ほど歩くと、大湯沼に到着します。ここもまた地獄谷と同じく火口跡で、沼からは湯気と共に強烈な硫黄のかおりが立ち上ってきます。沼底からは、今も130℃の硫黄泉が吹き出しているそうです。地獄谷や大湯沼を訪れると、登別温泉がいかに豊かな温泉資源を持っているか、よく分かります。

▼温泉街にも間欠泉が

そんな登別温泉ですが、どのような泉質でどのような効能があるのでしょうか。実は、登別温泉には9つの泉質があって、効能もそれぞれ異なります。日本には10の泉質があると言われていて、そのうちの9つが登別温泉で揃うというのだから、温泉のデパートと呼ばれる所以も納得です。

▼第一滝本館の大浴場(写真提供:第一滝本館)

第一滝本館だけでも、5つの泉質を揃えているというから驚きです。登別温泉を訪れた際は、ぜひどの浴場がどんな泉質か調べた上で、湯浴みを楽しみたいものです。

江戸の大工職人だった滝本金蔵がこの地に移住し、妻のために奔走したことが、現代に生きる私たちを喜ばせる温泉のデパートへと繋がっていくのだという不思議なロマン。これから先も登別温泉の歩みと伴に、語り継がれていくことでしょう。

北洋銀行登別支店

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