江戸時代に幕府に献上されていたという石狩の高級品「寒塩引(かんしおびき)」。2015年、伝統の寒塩引が200年の時を経て復活し、ツウを唸らせています。完成まで半年、手間をかけて作り上げるという寒塩引とはいったいなんなのでしょうか。どのように作られているのでしょうか。その歴史と復活の経緯とは? 石狩市でその謎に迫りました。
まだまだ謎多き「寒塩引」の全貌
「寒塩引」とは、石狩で水揚げされる鮭を塩漬けしてから塩抜きし、屋外に吊るして寒風にさらしたり屋内で干したりして仕上げる昔ながらの保存食です。完成までは約半年。大変手間と時間がかかりますが、旨みが凝縮され、やわらかくしっとりした身に仕上がるのが特徴です(ただし時間を置くと固くなってくる)。
石狩の寒塩引についての記録は多くなく、その全貌はいまだに謎に包まれています。寒塩引について長年調べているという「いしかり砂丘の風資料館」の学芸員によると、現段階で見つかっている最も古い文献は、余市町の古文書で、江戸時代末期の天保年間(1830~1844年)にその名を見つけられる程度だそう。
寒塩引は塩漬けを基本とする保存食。しかし北海道で塩は取れないため、北前船で本州から塩を手に入れ、アイヌとの交易で手に入れた鮭を塩漬けしていたと考えられています。手間暇かけて作られた味わい深い寒塩引は、江戸時代には石狩市本町地区の石狩川河口から江戸幕府に献上されたことがあるといいます(ただし、はっきりした根拠はなく、幕府の役人にプレゼントとして渡されたという説も)。
明治時代になると道内各地で寒塩引が作られていた記録が散見されるようになりますが、石狩で作られていた数は記録がないため不明。それでも、大量生産に向いておらず各家庭が自分たちで食べる分だけを作っていたため、数は少なかったのではないかと考えられます。資料館学芸員によれば、当たり前すぎて記録するほどではなかったのではないかと理由について話します。
それでも1877年(明治10年)には、石狩地方の場所請負人だった村山家が黒田清隆の指示で記した『北海道海産物製法手続』に、寒塩引の詳しい製法が記録されました。1880年(明治13年)4月には、ドイツ・ベルリンで行われた国際漁業博覧会に出品するため、石狩の寒塩引を開拓使が買い上げたとの記録が残っています。
このような経緯から、道内各地で寒塩引が作られていたとはいえ、その代表地は石狩、しかも高級品、という認識は昔からあったようです。石狩では昭和40年(1965年)代まで各家庭で作られており、その後姿を消しました。
伝統の「寒塩引」を復刻せよ!
寒塩引が作られなくなって、当然味わうこともできなくなったわけですが、近年になって市内の佐藤水産が寒塩引を独自の製法で作り始めました。さらに、石狩市長が寒塩引を復活させようと一声あげたことで、2013年に地元水産加工会社や観光協会役員が中心となって研究会を発足。先述した村山家の製法で伝統の寒塩引を復活させることになりました。
村山家が記録した明治時代の寒塩引の製法には、鮭漁シーズン後期の10月に獲れた鮭の中でも4㎏以上のオスであることや、塩の量などが定められていました。研究会では現在その記録に基づいて、次の製法で作られています。
(2)塩抜き作業。大寒の1月20日頃になってから、1日2回朝夕、水を取り換え、冷たい水に浸しながら塩抜きする作業を10日間続ける。
(3)屋外で乾燥。1本1本、日に当たらないよう軒に吊るし、1~2週間かけて潮風を含む寒風の中で水切り、乾燥させる。
(4)室内で乾燥。1本1本、室内に吊るし、約2ヶ月半かけて干して仕上げる。
(5)漁獲から約6ヶ月後、4月中旬頃に完成。乾燥によって半分の重量になる。
▼軒に吊るす
▼室内で吊るす
▼石狩市公式動画チャンネルいしかりお宝探訪より製造工程
合計すると完成まで約半年。非常に手間と時間のかかる作業、そして寒風の中であったり、冷たい水で塩抜き作業をするなど、過酷な中での作業になることがわかります。(ちなみに、いろりの煙でいぶすなど、各家庭によって製法に微妙な違いはあったと考えられています。)
研究会ではこの明治時代の製法に従って2013年秋に30本を試験製造。2014年秋に100本仕込み、2015年春に初めて復刻版の寒塩引が完成しました。初年度は即完売という人気ぶりだったため、2年目となる2015年秋は数を増やし200本を仕込みました。また、今回から、かつて塩が北前船で北海道に運ばれていた事実を踏まえ、市の友好都市である石川県輪島市の塩を使用。うまみ成分が増した奥深い味わいを楽しみことができるようになります。
購入予約は石狩観光協会ショッピングサイトから、1本15,000円(税別)、発送は4月中旬以降。主に札幌近郊、道内の比較的高齢の方が購入されるケースが多いとのこと。日本酒やウイスキーとともにそのままむしって食べるのもよし、調理に使ってもよいそう。
研究会のメンバーで石狩観光協会の吉田保雄専務理事は、「魚離れを何とか止めたいとの思いで寒塩引を開発してきた。手間暇かけた伝統の味を様々な年代の方に味わってもらいたい」と話しています。
取材協力:石狩市/石狩観光協会/いしかり砂丘の風資料館
写真提供(一部):石狩市
問い合わせ:石狩観光協会(TEL:0133-62-4611)