札幌市を代表する観光名所といえば「さっぽろ羊ヶ丘展望台」を挙げる人も多いでしょう。日本離れした丘陵の風景、そこで草をはむ羊たち、そして札幌の歴史を語るにふさわしいクラーク像。そもそもこの羊ケ丘エリアは1900年代初頭、牧場として開拓されたことに始まります。
羊ヶ丘展望台の歴史
牧場適地だった羊ケ丘の丘陵
さっぽろ羊ヶ丘展望台は、緩やかな起伏が連なるローリングランド(波丘地)の上に位置します。欧米の牧場では、このような地形を牧場として活用することが多いようです。札幌農学校で学んだ道庁技師、岩波六郎はこの札幌郡豊平村羊ケ丘の丘陵地帯を牧場適地と見て、開拓者が切り開いていた敷地を接収し、農商務省月寒種牛牧場に転用しました。1906年(明治39年)のことでした。
農商務省から初代場長に任命された岩波はすぐに植林を行います。現在でも見られるポプラ並木やカラマツ並木はこの時に造成されたのです。
その後、名称は目まぐるしく変わります。1908年に「月寒種畜牧場」、1916年に「畜産試験場北海道支場」、1919年には「月寒種羊場」が併設され、1931年「農林省種羊場」に、1946年「農林省月寒種畜牧場」に変わり、跡地は1949年「北海道農業試験場」(1950年~畜産部)、2001年に「北海道農業研究センター」となって現在に至っています。
もともと羊ケ丘は、焼山(やけやま)と呼ぶ現在の西岡の一部でしたが、1919年に月寒種羊場が設置されたことにちなみ、1944年の豊平町における地番整理(地名変更)で旧月寒村を再編、行政字「羊ケ丘」が誕生しました。
注意点として、「ヶ」の部分は住所表記では大きい「ケ」、展望台の名称は小さい「ヶ」となっています。「羊ケ丘1番地」に羊ヶ丘展望台と札幌ドームが位置しており、それ以外は研究機関が管轄しているため一般人は立ち入ることができません。
羊ヶ丘展望台の誕生
戦前の「農林省月寒種羊場」時代からすでに著名人が訪れるなどして札幌の名勝地として知られていましたが、戦後になると見学者が急増。農林省北海道農業試験場畜産部の試験研究に支障をきたすほどになったため、1952年(昭和27年)、入場を一時制限する事態になりました。
しかし、観光名所として残すべきという声が高まり、札幌観光協会と豊平町は試験場と試験場を開放してほしい旨 協議を行い、1959年(昭和34年)に札幌観光協会などで構成する運営委員会が国有地の一角を借りて運営・管理し、福住側に入場口を新設することで、試験場の業務に支障をきたさないのであればということで試験場側と合意。同年9月18日に羊ヶ丘展望台が誕生したのです。
▼1961年当時の羊ヶ丘展望台周辺は住宅がなかった(国土地理院空撮写真)
1962年以降は羊ヶ丘展望台の整備が行われるようになりました。入場ゲートやトイレ、駐車場、造園、飲食と土産販売を行うテラス付きレストハウスはこの時に設置されました。1965年以降は札幌観光協会が運営管理を行っています。
▼現在のさっぽろ羊ヶ丘展望台周辺の地図
▼さっぽろ羊ヶ丘展望台の詳細図
【映像】動画で見るさっぽろ羊ヶ丘展望台(2010年)
ではここからは、さっぽろ羊ヶ丘展望台の見どころとスポットをご紹介しましょう。実にたくさんの見どころがあることがわかっていただけると思います。そして、建物は原則、白い壁と赤い屋根で統一されていることがわかると思います。
羊たちと丘の風景と「羊さんのお家」
まずはこれ。展望台をぐるっと囲む作の向こう側には、羊たちが放牧されています。かつて種羊場のときは数百頭の群れがいくつもできるほどあって、牧羊犬によって牧舎に戻ってくる風景も見られていたといいますが、今では羊ヶ丘展望台で飼育している12頭の羊たちが放牧されている様子を見ることができます。羊たちと触れ合うことはできません。
▼GWには毛刈りイベントも
春には毛刈り直後の羊たち、秋になればコスモスと羊と丘の風景が見られます。遠くには、2001年6月2日にオープンした札幌ドームの屋根が光って見えます。実はそこまで同じ住所「羊ケ丘1番地」なのです。
▼羊さんのお家
「羊さんのお家」という名の二階建ての木造建築物(面積約70㎡)が、展望台敷地の一角に佇んでいます。夏期間(5~10月)の天気の良い日は放牧、冬季(11~4月)の天気の良い日は日光浴と運動を兼ねて羊たちを外に出しているそうですが、それ以外はこの建物の中で生活しています。
放牧されていないと思ったら、こちらの建物を訪ねると良いでしょう。窓越しに羊たち(コリデール)を見ることができます。GWは例年、羊たちの毛刈りショーが行われています。
【映像】動画で見るさっぽろ羊ヶ丘展望台の羊たち
「丘の上のクラーク」像
クラーク像の歴史
さっぽろ羊ヶ丘展望台を象徴するものといえばこれ。丘を背にして立ち、右腕を伸ばしているクラーク博士の全身像はあまりにも有名です。右手は「遥か彼方にある永遠の真理」を指し示しており、そこに向かって大志を抱けとの思いが込められているそうです。(2005年にクラーク博士を解説するプレートが設置)
このクラーク像はオープン当初は存在しておらず、札幌農学校あらため北海道大学開基100年およびアメリカ合衆国建国200年祭を記念して(クラーク博士来道100年でもある)、展望台誕生から17年後の1976年(昭和51年)4月16日に建立されたものです。しかし、裏ストーリーとしては、当時北海道大学構内に建つクラーク像(胸像)に団体観光客が押し寄せて観光バスの入構が禁止されたことから、それに代わるクラーク像として建立されたという経緯があります。
クラーク像には一応名称がついていて「丘の上のクラーク」。高さ2.85mのブロンズ製で、札幌在住の彫刻家、坂坦道(さかたんどう)の作品です。なお、台座を含めると高さ4.95mになります。
台座には、「Boys, Be Ambitious(青年よ、大志を抱け)」と刻まれていますが、これはクラーク博士が1977年4月16日に教え子たちとの別れに際して告げた言葉とされています。ちょうどその日(4月16日)に、羊ヶ丘展望台にクラーク像が建立されました。ただし、実際には北広島市島松駅逓所で語ったとされており、北広島市のカントリーサインはこの右腕を伸ばしたクラーク像が描かれています。
同じポーズで記念撮影!誓いを投函できる?!
羊ヶ丘展望台のこのクラーク像前では、カメラマンが待機していることが多く、クラーク像とともに記念撮影してもらうことができます。やはりここに来たからには、クラーク像と同じポーズで写真に収まりたいところです。
また、クラーク像の台座には投函口があるのをご存知でしたか? 自分の夢や希望を「大志の誓い」という用紙を展望台事務所で1枚100円で購入して記入し、台座の投函口に入れるだけ。展望台事務所が保管しているので、再訪した際に過去の自分の誓いと対面することもできます。
札幌冬季オリンピックで使われた「オーストリア館」
現在残っている建物の中で、最も古い部類に入るのが事務所が入る「オーストリア館」です。1972年札幌冬季オリンピックでオーストリアの選手村、スキー産業PRや札幌市民との交流等を目的に建造した建物であることからそう名付けられました。オリンピック終了後、解体予定だった建物を保存すべくオーストリアから寄贈を受け、さっぽろ羊ヶ丘展望台に移築されました。
建物はスキー王国オーストリアをイメージさせる山小屋風。オーストリアの頭文字「A」を模した三角屋根が特徴的です。1階には羊ヶ丘ソフト(ソフトクリーム)の販売、ラムまんやジンギスカン弁当などが味わえるフードイートインコート、札幌ひつじ堂のオリジナルおやき「札幌ひつじ焼き」といった食品の販売が行われています。2階は土産店となっていて、クラーク博士に関するグッズはこちらで手に入ります。
▼2階の土産売り場
▼1階のカフェ&テイクアウトコーナー
2019年11月には、クラーク像近くにあった北海道日本ハムファイターズ誕生記念プレートが、傷みを抑えるためオーストリア館1階の屋内に移転しました。2004年にファイターズが札幌移転したのを機に札幌ドームを望む展望台に設置された記念碑。北海道日本ハムファイターズになって最初の開幕戦にベンチ入りした選手・コーチ・監督の手形のほか、サイン40枚が掲出されています。
▼展望台近くにあった時の北海道日本ハムファイターズ誕生記念プレート
ジンギスカン食べるなら「羊ヶ丘レストハウス」
オーストリア館に隣接して建つのが、1985年(昭和60年)に建てられた新「羊ヶ丘レストハウス」です。自然景観に合うように3階建ての洋風レストランとして建設されました。
1階は最大収容220席の団体用レストランですが、一般の来訪者は2階にある最大収容180席のレストランでジンギスカンを頂くことができます。ジンギスカン食べ放題や食べ飲み放題のメニューが人気です。
なお、3階はキッズルームとイベント用の「クラークイベントホール」として活用されています。
実はチャペルウェディングも可能「札幌ブランバーチ・チャペル」
▼最初に建設された初代羊ヶ丘ウェディングパレス「クラークチャペル」
1984年(昭和59年)2月には、北海道の牧歌的な風景の中で結婚式を上げたいというニーズに対応し、当時国内でも数少ないチャペルウェディングが可能な施設「羊ヶ丘ウェディングパレス(初代)」を建設しました(現在のさっぽろ雪まつり資料館横のクラークチャペル)。札幌北一条教会を1/2スケールで復元したもので、同教会を設計した建築家・田上義也が建築しました。
この塔屋にある鐘は、1922年(大正11年)岡本正行技師がアメリカで教会用の鐘から選んで購入したもので、月寒種羊場、国立北海道農業試験場に引き継がれ、1967年まで「月寒の鐘」として半世紀に渡って羊ヶ丘に時を知らせてきました。
1948年(昭和23年)には劇作家菊田一夫氏が取材で訪れ、夕焼けに染まったポプラ並木と羊の群れと鐘の音に魅せられ、「ラジオドラマ「鐘の鳴る丘」のモデルになりました。毎日10時、正午、15時に鐘の音が響き渡ります。この事に関する説明板がクラークチャペル前に掲げられています。
▼クラークチャペル(左)とさっぽろ雪まつり資料館(右)が仲良く並ぶ
その後、平成に入って挙式数が急増したために初代羊ヶ丘ウェディングパレス本館(現在のクラークチャペル)のお隣に新築した別館が、現在の「さっぽろ雪まつり資料館」。こちらでも結婚式が行われていました。
▼1999年に新築された大型新館と噴水広場
展望台40周年リニューアル事業として1999年12月21日、洋風3階建ての大型の新館「羊ヶ丘ウェディングパレス」を新築しました(これに伴い初代パレス本館を「クラークチャペル」に改称)。
大型新館には、ロンドンから輸入したパイプオルガンが設置されたほか、館内にステンドグラスが施され、3階の屋上に一般開放の展望スペース、前庭には噴水広場が整備されています。現在は、フランス語の「白」と英語の「樺」をあわせた造語で「白樺」を意味する「札幌ブランバーチ・チャペル」という名称で使用されています。
▼春にはこのような風景も
あの雪まつりのすべてがわかる!「さっぽろ雪まつり資料館」
初代チャペル「クラークチャペル」の横に仲良く並ぶ建物は2001年(平成13年)に開館した「さっぽろ雪まつり資料館」です。平成に入って新築されたこの建物もパレス新館として結婚式場として活用されていたので、館内はとてもおしゃれで豪華です。建物の素晴らしさも一緒に楽しめるのが魅力です。
世界的に知られる「さっぽろ雪まつり」は札幌市中央区大通公園で毎年2月に開催されていますが、会期終了とともに跡形もなく消え去ります。そのため、年中「さっぽろ雪まつり」のことを学べるのはここだけです。
▼1階にはポスター、パンフレットやグッズなど展示
基本的には過去の「さっぽろ雪まつり」に関する資料が展示されているのが特徴です。第1回(1950年)開催から現在までのポスター、パンフレット、グッズ、貴重な写真パネル、雪像模型など500点以上を展示しています。
▼2階には雪像模型が所狭しと並ぶ
中でも楽しいのが、2階に展示されている雪像模型。毎回大雪像を建設する前にお披露目される雪像模型は最終的にここに展示されることになっています。各雪像の名称、幅・奥行き・高さのデータ、第何回の雪像かが記録されています。例えば、2016年の第67回では北海道新幹線車両を実物大で再現した大雪像が大通会場8丁目に登場しました。そのサイズは高さ約10m、幅20m、奥行き17mで、1,300tの雪が使われました。
また、過去のアーカイブとして白黒写真も超貴重。初期のさっぽろ雪まつりの様子を垣間見ることができます。雪像ができるまでの工程が解説されていたり、前年度の雪まつり会場の様子を映像で見ることもできます。
【映像】動画で見るさっぽろ雪まつり資料館(2010年)
疲れたら一休み「羊ヶ丘ほっと足湯」
2005年12月10日、クラーク像とクラークチャペルの間の木陰に、足湯の建物が開設されました。北海道産カラマツ・トドマツの木材を使用した浴槽ユニットに、ぐるりと着席できるようになっており、定員は12名。
足湯は、ホタテ貝殻の抗菌作用を活用した循環ろ過式の沸かし湯です。利用料無料で、冬季でも利用可能です。ガラス窓なので、足湯に浸かりながら丘の風景を楽しむことができます。
「恋の町札幌」石原裕次郎記念碑
クラーク像の近くに建つ歌碑は、故石原裕次郎の大ヒット曲「恋の町札幌」を記念したもので、1991年(平成3年)6月6日に建立されました。譜面と歌詞が刻まれていて、上端両脇には2人の銅像が掲げられています。一人は当然、故石原裕次郎。ではもうひとりは?作詞作曲を担当した故浜口庫之助だそうです。
鳴らしてみよう「旅立ちの鐘」
クラークチャペルの塔屋の鐘は決まった時刻に自動的に鳴りますが、自分で鐘を鳴らすこともできます。それが、「札幌ブランバーチ・チャペル」側の角に建つ「旅立ちの鐘」。
高さ約5メートルの赤いトンガリ屋根が目印のこの鐘は、自分で鳴らすことも可能です。でも実は、先述した「大志の誓い」を書いた後にクラーク像の台座に投函する前に立ち寄って紐を引っ張るのが正しいそうで。
実は裏手の芝生が穴場。ラベンダー畑も誕生
実はあまり知られていませんが、レストハウス裏手には芝生広場が広がっています。2005年(平成17年)、ここにおかむらさき種1,500株を植えたラベンダー畑が造成されています。7月にはラベンダーも見ることができるんですよ。
冬もイベント開催
さっぽろ羊ヶ丘展望台は冬もお楽しみポイントがあります。「羊ヶ丘スノーパーク」と題する冬季アクティビティイベントが開催されています。チューブそりすべり、かまくら、ミニ雪だるま制作、歩くスキーなどが体験できます。
さっぽろ羊ヶ丘展望台へのアクセス
羊ヶ丘展望台は365日、9時~17時で営業しています(各施設は異なる場合あり)。入場料は530円、小中学生300円(いずれも税込み)、未就学児無料。2007年にスタートした年間パスポートは1,000円(税込み、+レストランのジンギスカンが10%OFF)なので、年間2回以上訪れる際はこれがお得です。
▼展望台ゲート
羊ヶ丘展望台へは徒歩でも自家用車でも、道道に面する入場ゲートで入場料の徴収があります。その後、カーブの続く道を数百メートル進み、駐車場に至ります。
▼路線バス降車専用バス停と詰所
路線バス(北海道中央バス)は札幌駅、福住駅などから羊ヶ丘展望台行きの路線が存在します。路線バスは展望台駐車場まで入りますので、終点の降車専用バス停にある詰所で入場料を支払うことになっています(以前は入場ゲートにスタッフが乗り込んで各々が支払いをしていた)。
見どころいっぱいのさっぽろ羊ヶ丘展望台。道外の方は北海道離れした風景を楽しみ、道民や札幌市民は地元の観光地を改めて知るべく訪れてみるのはいかがですか?