別海町と根室市にまたがり、根室半島の付け根北側にある汽水性の海跡湖、風蓮湖(ふうれんこ)。その湖と根室湾とを分ける砂州「走古丹(はしりこたん)」をご存知でしょうか。
どこかにつながっている道路もなく、行き止まりであるため、わざわざ行く人はほとんどいないと思います。しかし、走古丹は海と湖と牧歌的風景に囲まれた、ドライブに最適なエリア。その先端を目指してみませんか?
2つの砂州で海と隔てられた風蓮湖
国内では13番目の広さを有する面積59.01平方キロ、最大水深11メートルの風蓮湖。湖岸総延長距離は入り組んでいるため96kmにも及び、道内で一番長いとされています。野付風蓮道立自然公園に指定、ラムサール条約登録湿地であるほか、根室十景のひとつとして観光名所にもなっています。
海とつながっていて、砂州(または砂嘴)が海との間を隔てているという点では、オホーツク管内にあるサロマ湖にも似ています。
根室湾(海)との水路は2箇所あり、北の走古丹と南の春国岱の間の水路、そして春国岱と本土との間。かつて北の水路は「トウフト」、南は「トウバエ」と呼ばれていて、その間の砂浜について『蝦夷日誌』第一編では「此処丹後の国天の橋立ニもよく似たり」と記録しています。
そもそも走古丹とは?
今回紹介するのは、北側の砂州、走古丹。走古丹とはどんな場所なのでしょうか。地図で見てみると、細長い地形の砂地であることがわかります。
アイヌ語のアシリコタン(新しい村)に由来。歴史を紐解くと、根室のアイヌ酋長だったチンペイが別海アイヌをここに移転させたことにちなみます。『行程記』では「アシリコタン人家漁小屋アリ」とあり、安政年間の1856年『観国録』では、ノツケ(野付半島)から舟でネモロ(根室)に行く途中、「ニシベツ(西別)次ニアジリコタン(走古丹)ヲ得ル」と記録されています。
明治初年の1868年に藤野四郎兵衛は、石川・岩手・青森から漁夫百数十人を募集し漁業を行いましたが、越冬はほとんどできなかったようです。1869年の時点で、走古丹の南端の遠太で雑漁業と渡船を営む人が住んでいました。
1876年9月に走古潭村が設置。1895年には204人が遠太を中心に住んでいて、人口の3分の2が寄留だったとされています。その後の不漁により、明治末期までに人口は118人と半減してしまいました。
根室とは渡船で結ばれていたことからも明らかなように、根室との結びつきが強かったようですが、1923年1月に野付郡に編入、4月に周辺5村と合併し野付郡別海村の一部になり、後に町制施行、現在に至っています。
インスタ映えスポット?「三匹の子ぶたの家」
走古丹へは、国道244号の西別川の橋あたりから道道475号線(風蓮湖公園線、総延長8.1km)に入ります。
▼西別川右岸を進む
通称「ハマナスロード」と呼ばれるこの道路は、根室地方でよく見かける背の低い低木を右手に、草地を左手に、ほぼ直線にのびています。
沿道には別海十景のひとつ「走古丹原生花園」が広がります。駐車場や撮影スポットが指定されているわけではありませんが、6月下旬にワタスゲが咲き、夏にはハマナスが多く咲くほか、ハナショウブやヒオウギアヤメなどが確認できます。
この原生花園の近く、左手の海側に、「三匹の子ぶたの家」と呼ばれる写真スポットがあります(国道の交点から約5.6km地点)。古い木造平屋・トタン屋根の建物が3軒、草原の向こうに並んでいるのです。
▼三匹の子ぶたの家が見えてくる
▼季節によって様々な表情
▼一匹目(左)
▼二匹目(中央)
▼三匹目(右)
これはかつて漁師が実際に使っていた番屋で、かなり古くなって住むのに適さなくなっていますが、仲良く並んでいます。建物の向こうは根室湾。晴れていれば、青い海の水平線、青い空、緑の草原にポツンと3軒の建物。おとぎ話しに出てきそうな場所で、インスタ映えするということで、近年知られるようになりました。
なお、老朽化のためいつなくなるかわからないので、早いうちに訪れておきましょう。
走古丹漁港と集落へ
道道をそのまま進むと、走古丹の集落と漁港に突き当たります。漁港とはいえ、ここはまだ湖の中です。波がほとんどない湖内の様子を見ることができます。なお、漁港はカレイ釣りのスポットだそうで、6月以降になると釣り人の姿が目立つようになります。
▼走古丹市街に突き当たる
▼漁港から対岸を見る(対岸は根室市)
走古丹の先端へGO!
さて、走古丹漁港と集落に至って道道475号線は終わりなのですが、走古丹の砂州はまだ終わりではありません。先端まで行ってみましょう。約1.8km引き返して分岐を曲がり、さらに先端を目指します。
▼入り江のようになっている。対岸の走古丹市街を望みながら進む
この道路は分岐から約6.2km。途中までは舗装されていて、コンクリート舗装と砂の道を繰り返しながら先端に進んでいきます。車で300メートルも進めば、両側が海と湖! 地理的にとっても細いところに入ったことになります。電柱もないので開放的な風景です。
▼両側が水!
車で行けるのは先端の50メートルほど手前まで。ここからは砂浜を歩いて先端を目指します。車が止まっていることもありますが、来る人のほとんどが釣り人たちです。カレイがよく釣れるそうです。
▼突き当りからは徒歩で先端を目指す
先端に到達すると、消波ブロックが直線的に置かれていることがわかります。流氷が押し寄せることもあるオホーツク海で、砂浜を削り取られないようにするため、このような対策は必須です。
▼消波ブロックに囲まれている
先端に立つと、対岸にもう一つの砂州、春国岱。距離にして約1kmあります。ここが根室湾と風蓮湖の間の水路の一つというわけです。
▼対岸は春国岱。天気が良ければ根室半島の付け根も見える
先端域には、沼のように周囲を閉ざされた水辺があったり、消波ブロックでせき止められた入り江のような空間があったりと、自然と人工物とが入り混じった不思議な場所でした。
【動画】走古丹のさきっちょに行ってみた