命の尊さを伝えるジビエ専門店―北広島「シカ肉レストランあぷかの森」

ヨーロッパには「ジビエ」という食文化があります。フランス語で「狩猟で得た天然の野生鳥獣の食肉」を意味し、貴族の伝統料理として始まりました。

北広島市輪厚にある「シカ肉レストランあぷかの森」は、数少ないジビエの専門店です。美味しいものを食べられるだけでなく、食に対するメッセージを感じることができます。ハンターであり食肉処理や調理も行う湯峯社長に話を伺いました。

エゾシカと北海道

▼社長、ハンター、食肉処理、料理長と多彩な顔を持つ湯峯社長

湯峯社長は20歳で猟銃免許を取得し、建設会社を経営する傍ら、猟友会に所属してハンターとして活動しています。2010年から食育自然体験教室「こども農園」を開催。生命の尊さを伝えるとともに、エゾシカ肉の普及を行っています。

また、2014年には「シカ肉レストランあぷかの森」を札幌市清田区にオープン。2018年7月の「全国ジビエ認証制度」の開始により、今まで以上にエゾシカ肉需要が増加することを想定。多くの人にシカ肉を味わってもらうため、同年12月に北広島市輪厚に移転しました。

▼カナダの素朴なレストランをイメージした店内

長年エゾシカ猟が禁止されていたことや、解禁後もハンターの数が減少していることからエゾシカの数は増加しています。林野庁北海道森林管理局の発表によると、2011年の推定個体数は68万頭に到達し、それに比例して農林業被害や森林への影響の拡大が問題になりました。道は「北海道エゾシカ対策推進条例」を制定。捕獲等による個体数の管理や、食肉処理を計画的に進めています。

▼「あぷか」はアイヌ語でオスのシカの意味

(写真提供:シカ肉レストランあぷかの森)

湯峯社長は、定められた猟期に捕獲する一般狩猟のほか、自治体からの要請による害獣駆除、調査のための狩猟の3つを行っています。昨年12月には、長年の実績が認めら、北海道庁が設定した「エゾシカ肉処理施設認証制度」の認定を取得。厳しい基準による食肉処理と品質管理が行われています。

大地の恵みは低カロリー高たんぱく

▼左から内モモ、ロース、外モモ

「シカ肉レストランあぷかの森」では、さまざまなシカ料理が提供されています。カレーやピザ、ハンバーグなどもありますが、肉の旨味をダイレクトに楽しみたいなら、ステーキが一番。「おまかせ3種盛りステーキセット(税込1,650円)」がおすすめです。(おまかせ3種盛りステーキセットは、場合によっては内容が異なります。)

内モモは癖がなくあっさりとした食感。外モモは歯ごたえが強くワイルドな味。ロースはその中間という印象です。タンやハツ(心臓)も数量限定で提供されています。

▼驚くほど柔らかくて美味しいタン(200円)

▼ハツは数量が確保できない希少な部位(200円)

▼弾力感がものすごい低糖質の自家製パン

食べ物は生き物、生き物は食べ物

▼毎年5月末にエゾシカ祭りを開催

「シカ肉は臭みが強い」と思っている人が多いですが、卓越したシューティングスキルで仕留めているため、あぷかの森のシカ肉に臭みはありません。湯峯社長は「野生動物を撃つことに対して残酷という人もいるが、増えすぎたシカを駆除しなくては、農作物だけでなく森の植物も食べつくされ、結果として生き物が生活できない環境になる」と言います。

▼必要以上に近づかないことが共生の第一歩

「撃たなくてはならない状況を一般の人が作っていることも自覚してほしい」と理解を求めます。森の餌は乏しいため、バーベキューなどで捨てられた残飯もクマにとってはご馳走です。自ら危険を呼び込んでいることに気づかず、人を守ろうとするハンターが非難される。こんな矛盾はありません。「山菜取りや登山などで遭難した場合に、捜索隊を防衛することも多い」と続けます。共生とは、むやみにテリトリーに踏み入らないことであると考えさせられました。

▼私たちは毎日命をいただいている

アイヌ語でエゾシカは食べ物を意味する「ユㇰ」と呼ばれています。私たちはスーパーなどで豚や鶏、牛や羊を食料として目にしますが、家畜も養殖もエゾシカ同様に私たちが生きるために差し出された、かけがえのない命です。感謝を込めて「いただきます」と言い、食べ物を無駄にしない気持ちを忘れずに持ち続けたいものですね。

シカ肉レストランあぷかの森
所在地:北広島市輪厚607-28
電話:011-511-4855
営業時間:11時~15時(土、日、第4火曜のみ営業)
公式サイト

(2023年1月11日:店舗情報を更新しました。)