日本人はチーズが大好き。特に、北海道の生乳を使ったチーズと聞けば、もうそれだけで垂涎ものです。北海道の中でも、勇払郡安平町ははじめてチーズ工場が誕生した場所。今なお上質なチーズづくりが盛んな安平町に、カマンベールにとことんこだわった工房があるということで、訪ねてみました。チーズづくりの工程も、一緒にご紹介しましょう。
→安平町のチーズづくりの歴史についてはこちらの記事もご覧ください。
女王と称されるカマンベールチーズの専門工房
▼派手な屋根が出迎えてくれる
訪れたのは、国道234号線沿いにある「チーズ工房角谷」です。鮮やかな青い屋根に「角谷さんのカマンベール」の文字、そして牛の絵が描かれているので見つけやすいはず。もともとチーズ職人として大手メーカーでキャリアを積んでいた角谷誠さんが、1994年に自身のチーズ工房を開きました。現在は、角谷さんは一線から退き、娘婿の大井剛さんがあとを継いでいます。
▼角谷さんの技術をしっかり受け継いだ大井さん
チーズ工房角谷で扱っているのは、カマンベールチーズのみ。その白く美しい姿ととろけるようなクリーミーな味わいから、本場フランスでは「チーズの女王」と称されています。そんなカマンベールチーズに魅せられて、さらにはチーズづくりの面白さの虜となって、角谷さんは実直にその道を突き進んできました。
▼この深緑色のパッケージが目印
現在では札幌市のスーパーマーケットなどでも取り扱っているところがあり、深緑色のパッケージに見覚えのある人も多いかもしれません。このカマンベールは珍しく缶詰になっていて、長持ちするのが特徴です。
▼この断面を見ただけでおいしさが伝わる
そして何より、北海道産の生乳100パーセントにこだわったおいしさは言わずもがな。とろりと舌の上で溶けてしまいそうな柔らかさと、クリーミーな味わい。カマンベール特有の濃厚なコクを残しながらも、日本人の味覚に合うように作られているということで、日本全国に多くのファンを持っているのもうなずけます。
現在は、この缶タイプと、品質保持期限が21日と短めの生タイプ、そしてバジルとパセリが香るハーブ&ペッパーの、併せて3種類を販売しています。工房でも直接購入可能ですし、公式サイトから購入することもできます。
繊細なカマンベールチーズづくりの工程とは
さて、角谷さんによれば、チーズづくりにははっきりした決まりごとがなく、職人が自らのスタイルで製造していくといいます。何しろ扱っているのは牛乳で、季節によって味や成分も異なってくるのですから、まさに生きもの相手の仕事です。そんなチーズづくりの現場にお邪魔して、工程を見せてもらいました。
▼スターターとカビ添加(写真提供:チーズ工房角谷)
まずは牛乳の脂肪球をくだいて均質化し、殺菌した後、スターター(乳酸菌)と白カビを加えます。レンネット(乳を凝固させる酵素)を入れ、ゆっくりと全体をかき混ぜます。
▼チーズをカッティング(写真提供:チーズ工房角谷)
豆腐状態になったチーズをサイコロ状にカッティングしていきます。この時、ホエーと呼ばれる水分が出てきます。
▼ホエー排除、マッティング(写真提供:チーズ工房角谷)
熱湯を入れて撹拌し、さらにホエーを出します。ホエーを程よく抜いた状態のものがそこにマット状に残るため、この工程をマッティングといいます。
▼モールドに型詰め(写真提供:チーズ工房角谷)
モールドというステンレス製の筒型の型に、詰めていきます。このモールドの円の直径が、チーズの大きさとなるわけです。
▼すべて手作業で、丁寧に行われる(写真提供:チーズ工房角谷)
作業はひとつひとつ手作業で、丁寧に行われていきます。詰めた後は、ひと晩かけてモールドの穴から水分が抜けていきます。この時も、片寄らないように数回反転させなければいけません。その後、製品1個ずつの大きさに切り分け、塩水に浸け、ラックに並べて予備熟成させます。もちろん放置しておくわけではなく、中の水分が均一になるように毎日上下を反転させます。
▼予備熟成よりさらに低温で寝かせる(写真提供:チーズ工房角谷)
一週間ほどでチーズの表面が白カビで覆われてきたら、1個ずつ透明フィルムで包装し、本熟成に入ります。15~20日ほどで中心が柔らかくなってきたら、カマンベールチーズのできあがりです。
チーズづくりが、いかに人の手を必要とし、温度管理などいかに繊細な作業によって進められているのか、少しだけ理解できたような気がします。これだけ大切に育てられたチーズが、おいしくないわけありません。チーズ工房角谷のカマンベールチーズ、クセのありすぎるチーズは苦手という人も、ワインとチーズには目がないという人も、一度味わってみてください。丁寧な仕事に裏付けされたおいしさで、きっと満足できるはずです。