筆者は、本州の都市部から2014年の春に移住してきました。本州と北海道の違いはいろいろあって、その中のひとつが川のキレイなことでした。街の中を流れる川が澄んでいることに驚き、そこに足を浸けたりする人がいることにさらに驚きました(夏には泳いでいる子どもたちも!)。筆者が以前住んでいた街は、川が汚れていて、魚なんて住んでいないであろうし、川に触れるなんて恐ろしくてできないようなところだったので、街の中を流れる川なんてそんなもんだと思っていたのです。
そこで、札幌に住んでいる人に川がキレイだという話をすると、それが普通のことなので川の汚れなんて想像つかない、というような返答。そして「鮭が返ってくるんだよ」という話も聞くことができたのでした。そうか、なるほど。だから筆者が住む豊平川周辺では鮭をモチーフにした飾りがあちこちにあるんだ、と納得したものです。
▼幌平橋の上から見た豊平川
▼豊平川周辺で見かける鮭いろいろ
鮭のことなどすっかり忘れ、札幌生活を満喫していた10月のこと。幌平橋の上からぼーっと豊平川を眺めていると川の中で何かが動きました。よーく見てみると大きな魚が泳いでいるではないですか。鮭だ! そこで、すっかり忘れていた鮭が返ってくるという話を思い出したのでした。その年は幌平橋を通るたびに豊平川を眺め、鮭の数が増えたとか減ったとか言っていました。
【動画】幌平橋周辺で2014年10月に見た鮭
2015年はなにかと忙しく鮭のことなど思い出すことなく年を越したのですが、今年(2016年)、発寒琴似川のそばに仕事で行ったとき、発寒琴似川ってどんな川なんだろうと思って川を見に行きました。川べりに近づくと澄んだ川の中にまたしても鮭を発見。すっかり忘れていた一昨年のことを思い出したのでした。
思い出したら気になってしかたがない。気になりだしたらとにかく知りたいのが筆者の性分。ということで、鮭について少し調べてみることにしました。どこで調べようかと、いろいろと考えているときフッと思い出したのが札幌市南区真駒内にある科学館のこと。あそこって確か「さけ科学館」とか書いてあったよな~と思い出した筆者は、電話していろいろと聞いてみたのでした。
▼真駒内にある札幌市豊平川さけ科学館
▼いろいろ教えてくださった佐々木北斗氏
サケの産卵行動のピークは10~11月
豊平川には、サクラマスとサケ(※)が遡上してきます。サクラマスは春に川に戻ってきて夏を過ごした後、9月上旬~10月中旬ぐらいに上流に向かい産卵行動をし、サケは9月下旬ぐらいから1月ぐらいまで川に戻ってきて産卵行動をするとのこと。サケの産卵行動のピークは10月~11月ぐらい。
ちなみに札幌市豊平川さけ科学館(以降さけ科学館)では、メインの豊平川に加え、琴似発寒川、星置川、濁川の4つの川を調査していて、2週間に1度ぐらいの割合で歩いて鮭の遡上状況、産卵状況をチェックしていると教えてもらいました。調査の正式名称は「豊平川サケ産卵床調査」、興味津々の筆者はその調査に同行させてもらえるよう頼み込んだのでした。
豊平川サケ産卵床調査の日まで少し日があったので、その間にひとりで琴似発寒川、星置川を見に行ってきました。琴似発寒川はJRの高架下あたりから下流に向かって歩いて行くとすぐに発見。ただ、じっとしているサケが多く、探そうと思って見ないと見つからない感じでした。次に星置川です。星流橋の上から見るとすぐに見つけることができたので、川べりに下りて見てみました。
【動画】琴似発寒川と星置川でのサケ
豊平川サケ産卵床調査はこうやっている!
いよいよ豊平川サケ産卵床調査の日がやってきました。さけ科学館では、真駒内川の花園橋から豊平川の環状北大橋までを調査しているそうです。調査は4人で行い、ふたり1組になり、二手に別れて別々の場所を下流に向けて歩くという行程。この日、筆者のいるチームは、南大橋から環状北大橋までを調査しました。
▼豊平川サケ産卵床調査
死んでいるサケを見つけると回収。ある程度数がまとまったら川べりで計測します。計測するのは、サケの大きさ、雌雄のチェック、うろことアブラビレの採取など。うろこから年齢がわかり、アブラビレは外部機関でDNAを調べてもらうのだそう。
▼死んだサケを川べりに並べて計測中のスタッフ。ちなみに腐っているからニオイがすごい
死んだサケの回収、計測以外にすることは、生きたサケの確認、産卵床の確認です。産卵床のある場所はGPSを使って場所を記録します。
サケは、雌が川床を掘って産卵し、その上にまた石をかけます。石の中に流れがないと卵が死んでしまうので、川の流れがあり、川底から伏流水が出ているところに産卵する、とのこと。さらには、川底の石の色がキレイで少し盛り上がっているところが産卵床である可能性が高いのだとか。サケが掘ることで石に付いた苔が取れてキレイになるから、産卵床は意外に見つけやすい、というわけです。
▼これが産卵床。まわりに比べて石が小さくてキレイなのですぐに発見できるはず
▼産卵床を確認しているスタッフたち
いくつかの場所でサケが確認できました。産卵床を守っているサケ、産卵が終わって寿命を待つサケ(サケは産卵が終わるとオスもメスも死んでしまう)以外は、近づくとすぐに逃げてしまうのではっきり見ることは難しいですが、何匹かは実際に近くで見ることができました。
▼筆者に気づいて逃げていくサケ
▼力尽きて逃げられないサケ
▼産卵行動によりボロボロになったサケ
▼産卵行動中のサケ
調査は、9時ぐらいから13時ぐらいまで、4時間ずーっと川の中を歩きっぱなし。歩き慣れてない筆者は足がパンパンになってしまいました。歩いてみて感じたのは、思っていたより多くのサケがいるのだということ。街の中を流れている川なので、そう多くはないだろうと思っていた筆者なのですが、かなりの数のサケや産卵床を見ることができたのにちょっと驚きました。お聞きすると毎年1,000匹~2,000匹のサケが遡上するとのことです。
【動画】豊平川サケ産卵床調査同行
▼同行した日のサケや産卵床の地図データ(豊平川さけ科学館提供)
▼産卵床のGPSデータ(豊平川さけ科学館提供)
調査に同行させてもらってサケを見てきたことを、札幌にずっと住んでいる何人かの知り合いに話をしてみました。すると、ほとんどの人が「サケが遡上することは知っていたけど見たことない」と。生粋の道産子にとっては当たり前すぎて興味がわかないのかもしれませんが、身近に起こっていることを見ずにいるなんてもったいない! ぜひ自分の住んでいる街の川を少しのぞき込んでみてください。川に入らなくても、川岸や橋の上からサケの姿を確認できるところもあります。あまり近づきすぎると逃げてしまいますので、そーっと近づいて見てくださいね。
<協力>
札幌市豊平川さけ科学館
所在地:札幌市南区真駒内公園2-1
電話:011-582-7555
開館時間:9時15分~16時45分
休館日:毎週月曜日(月曜日が祝休日の場合は次の平日に移動)
入館料:無料
ウェブサイト
※2016年11月2日:「岩」→「石」など、適切な表現に一部修正いたしました。また、調査河川に濁川を追記いたしました。