【江差町】江差町の家庭で古くから作られてきた、お米を使った郷土菓子「追分こうれん」をご存知でしょうか。お米の風味が詰まった素朴なお菓子です。「こうれん」という不思議な名前の由来、作り方、優れた保存性の秘密などを、追分こうれんを次の世代に引き継いでいこうと活動し続ける方々に伺ってきました。
※上写真:生のこうれん。直径12~13㎝
「こうれん」とは?
お話を伺ったのは、「JA新はこだて女性部江差支店江差支部」の方々です。元々は「粳(うるち)米」を粉にしてもち米を混ぜて練って作っていたことから「粳練(こうれん)」と呼ばれるようになったお菓子。現在は、もち米のみで作られています。
地元産のもち米をふかし、加えるのは砂糖・塩・黒ゴマのみ。練って丸め、のし棒で円形に薄く伸ばし、2日間天日干しにします。添加物や保存料を一切使っていませんが、じっくり天日干することで3年以上も常温保存できるそうです。
▼JA新はこだて女性部部長 笠原幸子さん
毎年6~7月の期間にしか作れないお菓子
このこうれんを作ることができる期間は、毎年6~7月だけです。なぜでしょうか?
こうれんを作っている方々は、農家の皆さん。田植えが終わり、じゃがいもの収穫時期が始まるまでの約1ヵ月ほどを利用して、集中してこうれん作りに取り組みます。この時期は、日照時間が1年で一番長い時期。十分な日照時間で天日干しでき、農家の方が作業に携われる期間は、6~7月だけなのです。取材をしたのは2014年7月上旬ですが、この年は6月の日照時間が記録的に少なかったため、天日干しの時間が限られて苦労したそうです。毎年1箱200枚入りで60箱分を作り、3分の2以上を女性部の方々が作っています。
少なくとも60年以上前から、一般家庭でこの時期に作られてきたそうですが、最近は、家庭で作られる光景はかなり減ったそうです。最も大きな理由は、作り手の高齢化。複数の家庭で協力し合っていた作業が難しくなったり、力の要る生地を伸ばす作業が、歳を重ねるごとに腕や腰などにこたえるようになり遠ざかってしまう人が多いことなどが影響しています。
米の美味しさが詰まった素朴なお菓子
さて、お味は? 女性部の方が、こうれんを油で揚げたものを持ってきてくださいました。揚げる時は、200℃に熱した油の中で、裏表返しながら1分間程度が目安だそうです。サクッとした食感。口に入れた時にはかなり薄めの味に感じますが、口の中でとろける際に、優しい甘みがゴマの香ばしさとともにジュワッと広がっていきます。これは、止まらなくなる味わい……。炭火で焼くのもおすすめだそうです。
▼油でキツネ色に揚げたこうれん
アイスを載せて食べる子どもたちもいるし、せんべい汁にしても美味しいと伺い、両方試してみました。こうれんでアイスを挟んで食べるのはウエハースのような感覚ですが、ウエハースよりも硬いこうれんが、冷たいアイスによって口の中で溶けていく食感が新鮮です。こうれん自体がほのかな甘みなので、アイスと一緒に食べてもしつこくなりません。
▼バニラアイスをこうれんでサンド
そして、こうれんを使ったせんべい汁。今回は、昆布とかつおで取っただし汁に、炒めた鶏肉とネギを入れたコクのある汁に。香ばしいこうれんが汁の旨みを吸って、口の中でシュッと溶けていきます。素朴な甘みが、幅広い味と合うので、アレンジも色々楽しめそうです。
▼こうれんを使ったせんべい汁
郷土菓子をなくさないために
一般家庭で作られることが減り、後継の担い手も少なくなってきた江差の郷土菓子。女性部ではその伝統を引き継いでいきたいと願い、それぞれの家庭の農作業の合間を縫って、年間約12000枚のこうれんを手作りし続け、小学校でのこうれん作り出前講座なども行っています。お米の旨みを味わえる健康的なお菓子。ぜひ、そのまま食べたりアレンジしたりして、江差の素朴な味を感じていただきたいです。
江差の追分こうれん(1袋10枚入り700円、税別)は、「道の駅あっさぶ」や「道の駅江差」、「れすとらん江差家」(江差町中歌町193)、「江差旅庭 群来」(江差町姥神町1-5)で販売しています(農協での直売は行っていません)。
▼新函館農業協同組合
北海道檜山郡江差町水堀町51
TEL:0139-53-6131