2020年11月、十勝管内池田町で独自に品種開発されたブドウ「山幸(Yamasachi)」が国際ブドウ・ワイン機構(OIV)のリストに登録されました。国内では3例目となる快挙です。品種登録にあたり池田町ブドウ・ブドウ酒研究所(池田ワイン城)は12月1日に記者会見を行い、安井美裕池田町長、佐野寛所長や開発・製造担当者が出席しました。(トップ写真提供:池田町ブドウ・ブドウ酒研究所)
冬に強い赤ワイン用品種「山幸」の軌跡
池田町は、1963年に国内初の自治体経営によるワイン醸造を開始しました。寒さの厳しい北海道十勝は、最初からハンデがあります。冬季、特に2月は最低気温がマイナス20度に達するため、ブドウの木は何らかの対策をしないと露地では越冬できないという課題を抱えていました。生育期間の短い早生品種が必要でした。
町では、耐寒性や収量性を目的にフランス産「セイベル13053」をクローン選抜し、1969年に醸造用赤品種「清見」を誕生させました。しかし「清見」であっても越冬対策が必要でした。そこで、1972年から海外導入品種と山ぶどうを交配した品種を開発してきました。こうして生まれたのが「IK-567(清舞)」と「IK-3197(山幸)」という二つの品種です。
「IK-3197(山幸)」は「清見」×「山ぶどう6号園20オス」で、1978年に交配、開発に着手しました。マイナス31度まで耐えられる耐寒性や耐凍性に優れ、冬に枯死防止のための対策を講じる必要がなく、栽培農家の労力を軽減できる有望な品種として注目されました。
味わいでいえば、母系の「清見」は色合いが薄く渋みが少ない特徴がある一方、「IK-3197(山幸)」は野趣あふれる山ぶどうの特徴を受け継いで色合いが濃く、渋み、ボディー感が加わっています。1990年代に醸造試験を本格的に開始、1995年に280本の瓶詰を行い、1999年にファーストビンテージとして製品化しました。
現在「山幸」は、直営15ヘクタールと契約農家10ヘクタール合わせて25ヘクタールで110トンを生産しています。スティルワイン、アイスワイン、国内初の瓶内二次発酵製法を取り入れたブルームなどのほか、ケーキ、ゼリー、カレーなどにも活用されています。
十勝の山幸から世界の山幸へ
「山幸」と命名されたIK-3197は、2006年8月22日に農林水産省に品種登録されました。2017~2018年度にかけては、国際ブドウ・ワイン機構(OIV=フランス)での品種登録に向けて研究所一丸となって取り組みました。そして2020年11月9日、独立行政法人酒類総合研究所(広島県)を通しての申請が認められ、OIVの「国際ブドウ品種及び同義語リスト」「世界のブドウ品種についての記述」にて「Yamasachi」として掲載・品種登録されました。
OIVに登録されている日本国内のワイン用ブドウ品種は「甲州」「マスカット・ベーリーA」だけであり、「山幸」の登録は国内3番目・道内初となります。また、GI北海道(地理的表示北海道)の中の独自品種では初めての登録品種になります。
OIV登録の最大のメリットは、EUで販売する場合に「日本産赤ワイン」とではなく、品種名「山幸(Yamasachi)」を名乗ることができるという点です。東アジアでの小規模な展開にとどまっている中で、EU進出への条件が整うことになります。
佐野寛所長は今後の展開について「EU圏の高品質なワインとの戦いになる。輸出には720ml瓶から750ml瓶への変更が必要。品質向上、設備更新に取り組んでいく」と話します。
EU圏への輸出の他にも、栽培・醸造事業者と連携した国際レベルの品質向上への取り組みが可能になります。ブランデーやマールなど山幸を利用した商品作り、搾りかすの有効活用などを目指しているといいます。研究開発担当者は「独自路線だった品種が国際品種になることで、栽培を行っている人たちが国際品種を扱っているとの自信を持っていただける」と良い影響について語ります。
池田町ブドウ・ブドウ酒研究所長を歴任した安井美裕池田町長は、「グローバルなお酒だからこそ、おいしさとともに個性や地域性が求められると思っている。十勝の山幸から世界の山幸へ、焦らず一歩ずつ歩んでいきたい。わたしたちに幸を与えてくれたので、今後は山のような幸を皆さんに与えていく番だと思っている」と感謝の思いを語りました。
道内初のワイナリーが苦労の末に生み出したオリジナルワイン用品種が国際品種となった今、道産ワインの地位向上のほか、道内のワイナリーをけん引していきます。