【羽幌町】世界的に貴重な海鳥の楽園として知られる天売島。ウトウ、ウミウ、ヒメウ、ウミネコ、ケイマフリ、オロロン鳥(ウミガラス)、ウミスズメ、オオセグロカモメといった8種100万羽の海鳥が飛来し繁殖します。中でも、観光客に人気なのが、毎年5~7月の日没後にしか見られないウトウの帰巣。何十万羽ものウトウが一斉に巣穴に戻ってくる帰巣シーンは感動的ですよ。
天売島はウトウの世界最大の繁殖地
ウトウ(Rhinoceros Auklets)は天売島に約80万羽が生息しているとされており、それぞれがつがいで生活しているので約40万ペアのウトウが天売島で繁殖していると推定されています。
ウトウだけでこれだけの個体数が確認されているのは世界でもここだけ。世界最大の繁殖地として紹介されています。ウトウは天売島に生息しているほかの海鳥たちと比較しても、群を抜いて個体数が多い海鳥です。(※羽幌町の北海道海鳥センターでも紹介されているように2002年北海道調べで約30万ペアでしたが、その後の調査で現在は約40万ペアとされています)
そもそもウトウとはどんな海鳥なのでしょうか。ウミスズメ科ウトウ属の鳥で、体長は38㎝ほど。黒っぽい羽毛で覆われますが、腹部は白です。大きめのくちばしはオレンジ色で、夏に限っては、くちばし付け根の上部に、上に突き出す突起物が出現します。
天売島西海岸の断崖に生息していますが、中でも西端にある赤岩展望台付近は最大のコロニーで巣穴も多く、最も迫力を感じられる場所です。展望台デッキを歩くと、地面に10~15㎝ほどの穴が無数にあいているのが確認できます。すべて使用されているわけではないようですが、それぞれのペアには決まった巣穴があります。近年はそれより北東にある千鳥ヶ浦園地の海鳥観察舎付近にも巣穴を作るペアが増えてきているそうで、園路脇に巣穴を確認できます。
▼赤岩展望台は断崖絶壁の上にある
▼赤岩展望台付近のコロニー。草むらの中に巣があることも
▼巣の中の仕組み。北海道海鳥センターで展示されている模型
ウトウの帰巣シーンを見るなら5~7月の日没後に
ウトウは通常、海上で生活していますが、繁殖期を迎えると天売島にやってきます。3月以降に島に飛来し、断崖の上の地面に深さ1m以上の穴を掘って巣を作り、産卵と抱卵を行います。その後、ひなが産まれる5月からひなが巣立ちを始める7月にかけて、島に滞在します。
5月にひなが産まれて以降は、親鳥は餌をとりに出かけるようになります。ウトウの親鳥は毎日 夜明け前に活動を始めます。日中は自分の餌をとったり海の上で休憩したりし、巣穴に戻ってくるのは夕方、日が沈んでから。イカナゴや漁獲量の多いカタクチイワシなどをくちばしに大量にくわえて、一斉に戻ってきます。暗くなってから戻るのは、オオセグロカモメやウミネコなどにせっかくの餌を狙われないためだそう。この5~7月にかけての日没後の時間こそが、バードウォッチャーや観光客に人気の「ウトウの帰巣シーン」が見られるピークとなります。
日没後に暗くなってくると、四方から無数のウトウが鳴きながら飛んできます。その飛行スピードは意外にも早く、時速約60㎞にもなるそうで、目の前をビューっと飛んで着陸していきます。イタドリの下に巣穴があるウトウは、草むらの中に猛スピードで突っ込んでいきます。とはいえ、陸地の上を歩くのは得意ではないようで、着地後よたよたと巣穴を目指して歩いていく姿はなんとも愛らしいです。
▼映像で見るウトウの帰巣シーン(天売島赤岩展望台、2015/7、19:40-20:00)
天売島に一泊しないと見られないウトウの帰巣シーン
ウトウの帰巣シーンを見るには、必ず天売島に一泊しなければなりません。その理由は、フェリーまたは高速船の最終便が夕方前のためです(ピーク時は15:50発または16:25発が最終便)。ウトウの帰巣は、日没により異なりますが、日が沈んで空がうす暗くなる19:30以降ですので、天売島で一泊することが必須となります。
そのため多くの観光客は天売島内の宿泊施設を利用することになります。とはいえ、赤岩展望台までは宿泊施設から距離があります。そこでぜひ利用したいのが、バスツアー(ウトウナイトウォッチング)。各宿泊施設で申し込むことができ、申し込むと宿泊施設前まで送迎してくれます(その関係で17:30頃の晩御飯となります)。あたりが真っ暗になる20:00過ぎくらいまで観察して宿泊施設に戻るという流れになります。
初夏とはいえ、夜間であることと、風が強いこと、その中で長時間滞在するため、厚手の羽織ものが必須です。撮影や収録は難しいのですが、やはり、その場に行って体感してもらうのが一番です。その数、スピード感、羽音、鳴き声を感じてください。見に行った者だけが感動できる圧巻の光景ですよ。
▼「ウトウが入りますので、ドアは必ず閉めてください」の表記がある、赤岩展望台駐車場のトイレは名物的存在