希少価値の高い動植物や原生的性質ゆえに、知床は高い評価を得ており、今回の世界自然遺産登録へ踏み切りました。一言で言うとそれは「食物連鎖」によるもので、冬の流氷襲来によって栄養のよいプランクトンなどが育ち、サケなど海の魚たちがそれを食べ、ヒグマ・オオワシ・シマフクロウなどがそれを食べる……。こういった海の生態系と陸の生態系との複合的な相互関係は大変珍しいものなんだそうです。
さて、知床世界自然遺産登録地の概略を少し紹介します。世界自然遺産登録地・知床国立公園面積は71100ヘクタールです。当初56100ヘクタールでしたが、国際自然保護連合(IUCN)により、海洋域が足りない、広げるようにと勧告され、沿岸から1kmだったのを沿岸3kmとすることになり、面積も増えています。核心地域、つまり特に保護が必要な地域として34000ヘクタールが定められています。
世界自然遺産とは?
(写真)フレペの滝
ところで、国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)の世界遺産のひとつの分野である「世界自然遺産」というのはどういうものなのでしょうか。世界遺産には3つの分野があり、まず一つ目は文化遺産で、日本でいうと姫路城などが該当します。2つ目は自然遺産で、日本でいうと白神山地があげられます。3つ目は自然+文化で、複合遺産です。
世界自然遺産に登録されるためには、いくつかの条件があります。以下に概略を箇条書きで失礼。
2.十分な規模、要素が兼ね備えられていること。
3.法的に十分に保護されていること。
4.以下の4つの評価基準のいずれかに該当すること。
・生命や地球の歴史を証する重要な地形であること。
・きわめて特徴的な生態系であること。
・際立って美しい自然景観や自然現象であること。
・絶滅危惧種の生息していること。
知床世界自然遺産の特徴は?
独自性がある生態系で、評価が高いのは冒頭に述べたとおりです。3番の保護する法的措置についても申し分なく、まず1964年6月1日には国立公園となりました。1990年4月には知床森林生態系保護地域の指定を受けていたり、車の乗り入れ規制も行いました。2001年11月には国指定鳥獣保護区と特別保護地区に指定されました。ほかにも1980年2月には遠音別岳原生自然環境保全地域として指定を受けています。
4番について、知床はどれが該当するかというと、2番目と4番目、つまり独自性・特徴のある生態系、生物の多様性という点です。知床には絶滅危惧種や、知床にしか生育しないシレトコスミレなどもたくさん生息しています。
(写真)プユニ岬
また、知床は、サケ・マス・イルカ・トドなど海の生物たち、さらに、ここで越冬しかつ繁殖する世界的に貴重な海鳥たち、それぞれの重要な地域であるということも評価されています(当初自然景観という点も含めて推薦しましたがその項目は却下されました)。それだけでなく、知床連山の硫黄山は、世界的にも珍しい火山で、高純度で溶融硫黄を噴出しているんだそうです。
ちなみに、知床世界自然遺産は以下の特徴ゆえに登録されました。以下、2005年7月登録時のユネスコ世界遺産センターの登録に関する文章を引用しています。
2.知床は多くの海洋性及び陸上性の種にとって特に重要である。これらの中にはシマフクロウ、シレトコスミレなどの多くの希少種を含んでいる。本地域は多くのサケ科魚類にとって世界的に重要であるとともに、トドや多く鯨類を含む海棲哺乳類にとっても世界的に重要である。本地域は世界的に希少な海鳥類の生息地として重要であるとともに、渡り鳥類にとって世界的に重要な地域である。
本当に厳しい審査を受けて登録される世界自然遺産なんです。日本でも「屋久島」「白神山地」がそろって1993年に登録されたのみです。それに加えて、日本3番目の世界自然遺産登録&日本13番目の世界遺産登録なるかということで、特に北海道では盛り上がっていたわけですね。
今後は、「北海道の知床」から「日本の知床」を一気に通り越して「世界の知床」になるわけで、観光客がどっと押し寄せることになります(登録3年後の2008年現在、観光客数は減少傾向ですが、2008年のJTB調査行ってみたい世界遺産では全国4位にランクインしました)。それでますます環境保護対策をしていかなければなりませんね。行政レベルでの取り組みも必要ではありますが、訪れる人の配慮も当然必要になってきます。