北海道を旅する

100年の歴史と美術の融合・100年後を創る新しい文化の拠点―小樽芸術村

北海道の中心的な商都としての古い歴史を有する小樽には、当時の銀行や商社などの建造物、倉庫が多く残り、その貴重な古い街並みは運河とともに小樽の観光地の中でも人気のスポットです。

しかし、元の所有者たちがそのまま使用している建物はあまりなく、規模が大きいものほど、その保存や補修に莫大な費用がかかるため、取り壊しに至ることも少なくありません。

歴史的建造物群の中でも旧日本銀行小樽支店と並ぶ、ランドマーク的な存在、旧三井銀行小樽支店は日本建築有数の曾禰中條建築事務所が設計、1927(昭和2)年に竣工、2002(平成14)年まで現役の銀行として稼働していました。

その後、別の会社が所有し、建物内は公開せずに外観のライトアップなどを行っていました。2016(平成28)年、北海道生まれのホームファニシング事業を全国展開する株式会社ニトリが所有者となり外装、内装の全面改修を行い、旧三井銀行小樽支店に再び灯りがともることとなりました。

小樽芸術村

▼小樽芸術村の全体図(提供:株式会社ニトリパブリック)
100年の歴史と美術の融合・100年後を創る新しい文化の拠点―小樽芸術村

ニトリが運営母体となり、2017(平成29)年9月1日に旧北海道拓殖銀行小樽支店を修繕した「似鳥美術館」の開館とともにグランドオープンした小樽芸術村は、テーマを"20世紀初頭の日本の近代化と発展″とし「アールヌーヴォー・アールデコグラスギャラリー」(似鳥美術館地下1階)「旧三井銀行小樽支店」「ステンドグラス美術館」の3館にその前後の建築と美術品の展示を行っています。

「世界が近代化を躍進的に進めた100年前に思いを馳せ、当時に思いをめぐらせ、エネルギーを感じ、次の100年を作って行きたい」。それが小樽芸術村です。

今や世界的な企業のニトリですが、元々札幌に本社を置く道内の企業のため、お世話になった北海道の方々に何かの形で貢献したいという思いや、かつて北海道一の港都だった小樽の繁栄の証、価値ある歴史を持つ近代建築の建造物の保存活用と、その頃の活気の再燃を願い、芸術に触れることで、豊かな気持ちと感動する心を育み、小樽から世界へ発信する場所にしたいというニトリホールディングス似鳥昭雄会長の熱い願いが小樽芸術村開設へ至ったそうです。

小樽芸術村の所蔵美術品は、そのスケールのダイナミックさで、短時間ではとても回り切れません。観光途中に訪れた観光客の方からも、「今回は時間がなかったので、次は小樽に宿泊してこちらを目的にゆっくり訪れます」といった声も度々聞かれるそうです。

入館は3館共通チケットで、1館ごとの認証なので3館とも別の日に行くことも可能で、自分のペースでゆったりと空間を堪能できます。(チケットの価格、詳細については、文末に記載。)

次の章では、それぞれの館の展示、所蔵品等をご紹介します。

似鳥美術館

▼似鳥美術館外観(提供:株式会社ニトリパブリック)
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建物は1923(大正12)年建造の旧拓殖銀行小樽支店。小樽出身のプロレタリア作家、小林多喜二が働いていたことでも知られ、1969(昭和44)年に銀行としての用途を終えた後、美術館やホテルとして利用されていました。

2017(平成29)年9月1日に開館した「似鳥美術館」は、度肝を抜かれるほどの迫力ある展示の数々に、「美術館疲れ」してしまう来場者も少なくないとか。

エレベーターで昇った4階のフロアに降り立つと、目に飛び込んでくるのは、横山大観、川合玉堂、片山球子、平山郁夫、東山魁夷など日本屈指の日本画家たちの代表作の数々。

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美術館などで開催される「~展」や、教科書、美術書に登場する著名な画家たちの名作がワンフロアにこんなにもたくさん並んでいるのは、驚きの光景。

3階は日本、海外の洋画が展示されています。話を伺った小樽芸術村学芸員の山田菜穂さんの一押しは岸田劉生。

作品があることは知られていながら50年余りの間、消息不明で幻の作品と言われた「黒き土の上に立てる女」は、発見された後に似鳥会長の元へ。そして今、似鳥美術館で人々の目に触れることとなった作品です。岸田劉生は早逝の画家のため多くの作品を遺していませんが、中でも似鳥美術館で展示されているものは彼の画家成熟期と言われる時代の作品で、その気迫あるパワーが見るものたちに伝わります。

100年の歴史と美術の融合・100年後を創る新しい文化の拠点―小樽芸術村
(提供:株式会社ニトリパブリック)

2階では高村光雲とその弟子たちの木彫、棟方志功などの展示もあり、どこのフロア、作品も全てひとつひとつが見劣りすることのない主役です。

100年の歴史と美術の融合・100年後を創る新しい文化の拠点―小樽芸術村
(提供:株式会社ニトリパブリック)

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1階で無料の音声ガイダンスの貸し出しも行っており、作品の背景を聴きながら鑑賞することができます。

100年の歴史と美術の融合・100年後を創る新しい文化の拠点―小樽芸術村

また、山田さんによると、こちらの美術館にはニトリに因んだ様な「2つの鳥」をモチーフにした作品が自然と集まってくるそうで、それを探してみるのも別の楽しみ方です。

館内の作品は、不定期で2~3カ月に一度ぐらい新しい作品がお目見えしており、何度訪れても新鮮さを感じられます。

アールヌーヴォー・アールデコグラスギャラリー(似鳥美術館地下1階)

100年の歴史と美術の融合・100年後を創る新しい文化の拠点―小樽芸術村

美しい文様や彫刻が浮かび上がるアールヌーヴォー・アールデコグラス。

中央の「ランプの森」は、1900年のパリ万博に思いを馳せた灯りの森が静かに輝きを放ちます。ガレ、ドーム兄弟、ラリックなどのアールヌーヴォー・アールデコグラスが一堂に集まる様子は、絵画とはまた違う優美な空間を楽しめます。

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旧三井銀行小樽支店

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他の展示館とは違い、こちらは建物そのものを見学します。

曾禰中條建築事務所が設計、1927(昭和2)年に竣工したこの建物は、当時の繁栄を象徴するような重厚な石積のルネサンス様式の外観、石膏飾りの天井が高く吹き抜け、回廊がめぐる内装など、どこを切り取っても歴史の重みを感じます。

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支店長室、会議室の壁紙、電燈などもぜひじっくりとご覧ください。

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銀行だった証としての大きな金庫、地階の貸金庫スペースなどは、普段でもなかなか見る機会がない場所ではないでしょうか。天井には1日に数回、プロジェクションマッピングも投影されています。

また、こちらでは歴史を知る勉強会や、小樽雪あかりの路の期間にカフェや雑貨イベントも開催されるなど、市民や観光客に愛され、身近に歴史を感じられる空間になっています。

ステンドグラス美術館

▼ステンドグラス美術館外観(提供:株式会社ニトリパブリック)
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1923(大正12)年に建造された旧高橋倉庫。物流が栄えていた頃、大豆の倉庫として使われていた建物です。

壁全面のステンドグラスの荘厳な光のシャワーに迎えられる空間は、まるで異世界。イギリスの色々な教会の窓に飾られていた約140点は、時折来られる現地の方々も驚かれるほどの数です。

100年の歴史と美術の融合・100年後を創る新しい文化の拠点―小樽芸術村

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小樽芸術村学芸部の渡邉洋子さんに見所をお聞きしたところ、一旦は衰退し途絶えてしまったステンドグラス工房の技術が、19世紀にビクトリア女王の庇護のもと、職人をヨーロッパ諸国へ派遣し、技法を再習得。イギリスで再びステンドグラス作りが行われ、その一時の繁栄は爆発的で、まさにイギリス帝国黄金期のエネルギーと先駆的精神に満ちた当時の人々を体現するものだったそうです。

それが、この小樽の再活用されている倉庫内に展示されていることは、どちらも黄金期の象徴であり、当時のノスタルジーと重ねてみると他の場所から移動してきた伝統をアレンジしたもの、また継承されていないという点も似ており、その2つを今出会わせてシンクロニシティから新たな視点を導くのがニトリのチャレンジでもあるそうです。

ちょっと気軽な楽しみ方として、ステンドグラスに描かれる聖人の表情や顔つきも様々なので「押しメン」探しもいかがでしょうか、とのことでした。

企画展もすごい

初の企画展「小樽芸術村 浮世絵展」が4月21日(土)から旧三井銀行小樽支店で開催されています。歌川国貞、歌川国芳、歌川広重、葛飾北斎などなど、江戸の人気絵師の錦絵、画帖など200点余りが3期に分けて展示されます。

  • 第1期 4月21日(土)~6月12日(火)
  • 第2期 6月14日(木)~7月31日(火)
  • 第3期 8月2日(木)~9月17日(月祝)
浮世絵展
入場券:一般500円、学生300円(旧三井銀行小樽支店も合わせて観覧可)
開館時間:[11月~4月]10時~16時、[5月~10月]9時30分~17時(※いずれも入館は閉館30分前まで)
休館日:[11月~4月]毎週水曜日(4月25日は開館)、[5月~10月]無休(※6月13日、8月1日は作品入れ替えのため旧三井銀行小樽支店別棟のみ休館)
関連企画「伝統の技 摺師実演」
日時:6月16日(土) ①午前10時 ②午後2時
実演・解説:三田村努氏(江戸伝承浮世絵手摺木版画摺師)
参加無料(浮世絵展のチケットが必要です)
「ギャラリートーク」担当学芸員による展示のご案内
日時:4月21日(土)、6月23日(土)、8月4日(土)各日とも①午前10時 ②午後2時
参加無料(浮世絵展のチケットが必要です)
※詳細は小樽芸術村ウェブサイトにてご確認ください。
小樽芸術村
開館時間:[11月~4月]10時~16時、[5月~10月]9時30分~17時(※いずれも入館は閉館30分前まで)
休館日:[11月~4月]毎週水曜日※祝日の場合はその翌日、[5月~10月]無休(※企画展の開催・展示替えなどによる、臨時休館や休館日変更の場合あり)
入館料:一般1500円、学生1100円(※似鳥美術館、ステンドグラス美術館、旧三井銀行小樽支店共通のチケット。※中学生以下無料 ※ミュージアムショップは入場無料)
年間パスポート:一般4000円(友の会3200円)、学生2000円(友の会1600円)※発行日より1年間有効
小樽芸術村友の会:入会金・年会費無料、会員特典のご案内、入館料20%OFF
公式サイト
問い合わせ先:似鳥美術館(小樽市色内1丁目3-1、TEL 0134-31-1033)

筆者について

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Eriko.N

歴史と自然が織りなす小樽の風景や出来事を切り取ります。毎日違う色や表情を見せてくれる海、山、街並み。そこに重なる人々の熱さ、優しさ。そして、美味しさ溢れる安心の海の幸、山の幸の宝庫。何かが見つかる小樽情報、覗いてください。