「工場萌え」。工場景観観賞を趣味とすることを指す言葉としてじわじわ広まりつつある言葉です。その中でも特に美しいとされ幅広い層で人気が高まっているのが「工場夜景」の分野です。函館夜景や小樽夜景、札幌夜景といったいわゆる市街地の夜景を楽しむものとは異なり、工場に的を絞って夜景を楽しむ人が増えています。今回は、その室蘭工場夜景の魅力に迫ります。
日本四大工場夜景のひとつとしての室蘭
国内には工場地帯が多くあります。太平洋ベルトといわれる京浜・東海・中京・阪神・瀬戸内・北九州といった工業地域・工業地帯が有名です。石油コンビナートや製鉄所などがあると目立つライトアップになり、それが工場夜景としての魅力を最大限に引き出します。
「日本四大工場夜景」はとりわけ際立った工場夜景として知られています。(1)京浜工業地帯(神奈川県川崎市)、(2)中京工業地帯(三重県四日市市)、(3)北九州工業地帯(福岡県北九州市)、そして北海道室蘭市です。それぞれ、製油所・石油コンビナート、製鉄工場、製鋼工場、造船所などが工場夜景を作りだしています。
室蘭工場夜景の特徴
港湾都市である室蘭市や苫小牧市は道内有数の工場地帯であり、道内最大の工場夜景の名所です。しかも歴史的にも北海道の工業を支えてきた一面もあります。室蘭には製油所、製鉄所、製鋼所、造船所が室蘭港にひしめき、特に製鉄業が明治時代から現代に至るまで続いていて、「鉄のまち」とも呼ばれるほどです。
室蘭工業地域は道外の工業地帯と比べるとこじんまりしている印象はありますが、天然の良港であり、対岸の工場群の夜景と湾に映り込んだ光を見渡せるのが特徴です。1998年に開通した白鳥大橋の美しいライトアップも、室蘭夜景を楽しむのに欠かせない存在となっています。
室蘭夜景の別の魅力は、海岸からすぐ山が形成されている、つまり湾を取り囲むように山が形成されており、高台から夜景を見下ろしやすいという特徴も兼ね備えているということ。標高は高くないものの、室蘭を見渡せる最適な高さである場合が少なくありません。平坦な地の苫小牧市では見られない特徴の一つです。
室蘭夜景では、特に目を引くJX日鉱日石エネルギー室蘭製油所の明かりを話題にしたりする人もいましたが、比較的最近までほとんど誰も注目することのなかった”資源”でした。そんな室蘭工場夜景を取り上げた室蘭市広報紙「広報室蘭」2009年9月号で夜景を特集したところ、大きな反響を呼びました。1961年8月28日以来開催されてきた夜景見学会もようやく盛況となり、室蘭や苫小牧の工場夜景バスツアーが開催されるまでの人気になりました。全国的な工場夜景ブームに乗って、いま、「室蘭工場夜景」がアツイ!というわけです。
室蘭夜景を彩る工場を知ろう!室蘭市内の各工場プロフィール
事前に知識を蓄えておくと、夜景観賞も楽しくなるはず。室蘭港にひしめく主な工場のこと、室蘭工場地帯の歴史をある程度学んでおきましょう。
室蘭はその特異な地形ゆえに、港としての役割を担ってきました。1600年頃に松前藩がアイヌとの交易をするため絵鞆場所・運上屋を設置し、室蘭の歴史が始まりました。1872年には崎守町に室蘭海関所を設置。函館から室蘭を経由して札幌に至る「札幌本道」の掘削や、室蘭~岩見沢間の炭鉱鉄道敷設といった陸上交通のほか、函館や青森を結ぶ海上交通の要所としても発展しました。
そんな室蘭が工業地帯としての歩みを始めるきっかけとなったのは、明治時代における製鉄所や製鋼所の開設。日本製鋼所室蘭製作所、新日本製鐵室蘭製鐵所が設立され、主に「鉄のまち」として発展を遂げてきました。戦時下は軍用生産でしたが、戦後に製鉄所・製鋼所のほか、函館どつくといった造船所、日鐵セメントやJX日鉱日石エネルギーといった近代工業も進出し、関連中小企業も合わせて道内屈指の工業地帯となって現代に至っています。
それでは早速、各工場群を紹介しましょう。
日本製鋼所室蘭製作所
株式会社日本製鋼所室蘭製作所は、茶津町14番地にある敷地面積約113ヘクタールの製作所。歴史的にみれば、1907年に海軍影響下で北海道炭礦汽船株式會社とイギリスのアームストロング・ウイットウォース會社とビッカース會社の3社が共同出資して設立、国内でも二番目に古い製鋼所です。
世界最大級の14000トンプレスである熱間自由鍛造水圧プレス、エレクトロスラグ再熔解装置等を有し、電力・原子力・船舶・石油化学等で使用する大型部材製造や特殊材料の精錬が可能で、一方で鍛刀所も現存しています。これまで、日本初の航空機用エンジン「室0号」製造(1918年)、風力発電事業(2006年)等を行ってきた実績もあり、世界的にも高い評価を得ています。
新日本製鐵室蘭製鐵所
新日本製鐵株式会社棒線事業部室蘭製鐵所は、仲町12番地にある新日鉄の製鉄所。敷地面積約417ヘクタール。1909年に噴火湾周辺の砂鉄、虻田鉄鉱石、道内炭を原料に道内初の近代的製鉄法で操業した国内3番目に古い製鉄所です。北海道炭礦汽船輪西製鐵場として設立されたため、1951年に現在の名称に変更されるまで「輪西製鐵場」と呼ばれていました。高炉・転炉・電気炉・鋼材圧延設備を有し、鉄鉱石から製品まで一貫して生産しています。
JX日鉱日石エネルギー室蘭製油所
室蘭工場夜景の中でもとりわけ異彩を放つ工場がここ、JX日鉱日石エネルギー株式会社室蘭製油所プラントです。白鳥大橋のたもとに位置し、長万部方面から国道37号線で室蘭に来ると最初に見下ろす、まるで宝石を散らしたような特徴的な工場夜景の一つとなっています。室蘭夜景を見るのに欠かせない工場の一つで、必ず訪れておきたいスポットです。
住所は室蘭市陣屋町一丁目172番地。敷地面積約101ヘクタール。1956年12月に竣工・操業し、1973年10月に道内最大の近代的製油所に。現在は1日あたり180000バレルの原油を処理する能力を有し、LPG、ナフサ、ガソリン、ジェット燃料、灯油、経由、重油などを製造。13000という非常に多くの保安灯が建造物を取り囲むように灯されているため、存在感があります。赤と水色の煙突の高さは180mあります。
日鐵セメント
日鐵セメント株式会社は仲町64番地にある新日鉄グループのセメント製造会社。新日鉄室蘭製鐵所に隣接した敷地面積約23ヘクタール。ポルトランドセメントや高炉セメントを製造・販売する富士セメント株式会社として1954年6月に設立されました。1970年に現在の社名になり、現在はセメント、モルタル、スラグ粉末などを製造、北海道と東北地方で販売する国内8位の会社です。
函館どつく室蘭製作所
函館どつく株式会社室蘭製作は1937年に設立され、2008年に楢崎造船株式会社と合併、敷地面積約14ヘクタールを有します。白鳥大橋のたもと、祝津町1丁目128番地に位置しています。
白鳥大橋
工場ではありませんが、室蘭夜景に欠かせない存在であるので、少しご紹介。陣屋~祝津間を結ぶ大橋です。長さ1380m、二本の主塔は海面上から高さ140m、基礎からの高さは陣屋側で127.9m、祝津側で131mあり、この主塔間の長さ(中央径間)は東日本最大の720mあります。
アンカレイジというメインケーブルを支えるコンクリート塊は縦33m×横43m×高さ47m、メインケーブルは1620m、直径47cmです。多くの船は通れますが、高さ約60mまで。風の強い室蘭なので、通常ありえない風速67mまで耐えられる設計だとか。
二本の主塔のライトアップ用投光機は、全部で88基つき、400ワットと1000ワットの2種類あります。二本のメインケーブルを渡る作業用手すりにも直径23cm×高さ32cm、13kgの無電極放電灯228個が取り付けられています。いまや室蘭になくてはならない存在になった白鳥大橋は、日本夜景遺産に選ばれています。
室蘭工場夜景を観賞しよう! その鑑賞ポイントをご紹介
室蘭工場夜景を見る方法は大きく2つに大別できます。(1)陸地から見る方法と、(2)海上から見る方法です。陸地から見る場合、室蘭湾の各所から見ることができますが、(1)展望台など高台から見下ろす方法、(2)比較的標高の低い展望台から見渡す方法の2つがあります。海上から見る場合ナイトクルージングがあり、湾内の主要な工場すべての夜景を楽しむことができます。
保安灯として点灯している工場のライトは、24時間稼働しているところでは1日中夜景を楽しめます。夜景を楽しむアクセントとして、船の明かりや、製油所・製鉄所の煙突から噴き出す水蒸気や、1日に数回噴き出すフレアスタック(青・オレンジの炎)も、見るタイミングが合えば感動モノ。
移動には車が必須といえます。特に白鳥大橋を経由すると大変便利ですが、自動車専用道路です。また、各スポットを一晩でスムーズに回れる公共交通機関はありませんので、多くのスポットを巡りたい場合は車移動がオススメということになります。
覚えておきたい点は、展望台など高台では風が強いということ。夜間ということもあり、春・秋などは冷たい風が吹きつけますので、防寒具の用意を忘れずに。デジカメ・一眼レフで撮影する場合は、三脚が必須です。風が強いので強度のあるものがオススメです。
そして夜景を一通り楽しんだ後は、ちょっと暖まって美味しい室蘭名物でも楽しみたいもの。せっかく室蘭に来たのであれば、室蘭焼き鳥やカレーラーメンといった室蘭ご当地グルメはオススメですよ。
測量山展望台
読み方は「そくりょうざん」。室蘭港すべてを一望できる日本夜景遺産に選ばれている夜景スポット。標高約200mの山頂からは白鳥大橋、その向こうにJX日鉱日石エネルギー室蘭製油所、函館どつく室蘭製作所、日本製鋼所室蘭製鋼所、新日本製鐡室蘭製鐡所も見ることができます。天気が良ければ伊達市市街地の明かりも見られるかも?
目印は緑・青・オレンジにライトアップされたカラフルな各社テレビ送信塔群。日没から深夜0時までライトアップされています。このテレビ塔がある山頂が展望台になっています。駐車場までは狭い急な坂を上ります。駐車場から階段を上っていき、さらにSTVアナログテレビ送信塔の展望台に登れば、室蘭港を一望できるというわけです。
JR室蘭駅から約4km、車で約10分。無料駐車場あり。
見られる主な工場:白鳥大橋、JX日鉱日石エネルギー室蘭製油所、函館どつく室蘭製作所、日本製鋼所室蘭製鋼所、新日本製鐡室蘭製鐡所、ほか
祝津公園展望台
室蘭湾入口、そして奥に室蘭岳を望みます。それほど標高の高い場所ではありませんが、すぐ目の前、手が届きそうな場所に白鳥大橋とたもとの祝津ランプ(ループ)があります。左には大黒島も。日中でもきれいですが、見事な曲線と大型つり橋のライトアップは素晴らしい。
祝津公園展望台へは夜ですと分かりにくいですが、看板に従い、狭い曲がりくねった坂道をひたすら登っていきます。山頂部の駐車場に止め、人気の展望広場で夜景を楽しみましょう。
JR室蘭駅から約4.6km、車で約15分。無料駐車場あり。
見られる主な工場:白鳥大橋、JX日鉱日石エネルギー室蘭製油所、函館どつく室蘭製作所
白鳥湾展望台
国道37号線沿い、JX日鉱日石エネルギー室蘭製油所近くにある高台。白鳥大橋を横から眺め、その手前にあるJX日鉱日石エネルギー室蘭製油所の一部を見ることができます。この工場群の保安灯や発電設備から出る水蒸気の煙がよいアクセントとなっています。
展望台は国道沿いにあり分かりやすいです。駐車場からは長い階段を上り、展望施設の階段も登っていきます。屋根もあるので雨天時も大丈夫です。ちなみに、この展望台よりも室蘭市街地よりの国道沿いにもベストビュースポットがあります。この製油所を間近に見降ろす迫力の最高スポットなのですが、交通量が多く駐車場も特にないため観覧時は要注意です。
さらにJX日鉱日石エネルギー室蘭製油所を間近で見るには、白鳥大橋のたもとの分岐から「崎守方面」へ。専用貨物線線路の踏切付近で、白鳥湾展望台から見れる製油所の工場施設群を間近で見ることができます。
JR東室蘭駅から約9.7km、車で約15分。無料駐車場あり。
見られる主な工場:JX日鉱日石エネルギー室蘭製油所
白鳥大橋展望台
白鳥大橋を最も間近で見られる人気夜景スポットの一つです。イルミネーションに彩られた美しい東日本最大の吊り橋がメインになりがちですが、その奥の対岸にはJX日鉱日石エネルギー室蘭製油所の明かりもはっきり見られます。時々橋の下を船も通るので、子供たちもワクワク。
この展望台に行くには、まず祝津ランプ(ループ)の真下の駐車場に駐車し、そこからひたすら長い階段を上っていきます。体力的にきついと感じる方は休み休みどうぞ。展望台につくと、目の前は海です。一通り見て駐車場に戻ったら、祝津ランプを見上げて写真を撮るのもよいかもしれません。
JR室蘭駅から約3.6km、車で約10分。無料駐車場あり。
見られる主な工場:JX日鉱日石エネルギー室蘭製油所、白鳥大橋
潮見公園展望台
鉄のまち室蘭を象徴する製鉄所である「新日本製鐡室蘭製鐡所」の工場群を見ることができる最高のビュースポットです。潮見公園は標高は高くありませんが、輪西の街並みの先に明かりを灯した工場群を見ることができます。製鉄所の煙突からは水蒸気が噴き出ています。1日に数回は、製鉄の過程で生じるガスを燃焼させ無外にしてから放出するフレアスタックという青やオレンジの炎が見られます。
工場群の向こうには白鳥大橋をちょうど横から見る形で横たわっています。そのちょうど真ん中あたりには、製鉄所のガントリークレーンがあります。船から鉄鉱石を積み下ろしする際に使うクレーンですが、夜はひときわ目立つオレンジ色に灯されているので、見つけてみましょう。
JR東室蘭駅から約2.8km、車で約10分。無料駐車場あり。
見られる主な工場:新日本製鐡室蘭製鐡所、白鳥大橋
室蘭夜景ナイトクルージング
室蘭港をクルーザーで巡る夜景観光専門のクルージング。祝津ランプ(ループ)たもと、白鳥大橋展望台近くが発着地です。大人3000円、小人1000円、3歳以下無料で、通常1日1便運航。5~8月は19:00発、10~2月は17:30発、それ以外は18:00や18:30発と日没時間に合わせた運航になります。
コースは室蘭湾内一周。白鳥大橋、JX日鉱日石エネルギー室蘭製油所、函館どつく室蘭製作所、日本製鋼所室蘭製鋼所、新日本製鐡室蘭製鐡所、日鐡セメント等、各工場を普段なかなか見られない海から見ることができるのがこのナイトクルージングの魅力です。金銭的に、時間的に余裕のある方は利用をオススメします。
JR室蘭駅から約3.6km、車で約10分。無料駐車場あり。
見られる主な工場:白鳥大橋、JX日鉱日石エネルギー室蘭製油所、函館どつく室蘭製作所、日本製鋼所室蘭製鋼所、新日本製鐡室蘭製鐡所、日鐡セメント、ほか
モデルルート
時間は目安です。2時間~3時間程度あれば、室蘭湾を一周して夜景スポットを巡ることができます。ぜひご参考にしていただき、室蘭夜景観賞をお楽しみください!
→(約20分)→
2.「白鳥湾展望台」
→(約10分)→
3.「JX日鉱日石エネルギー室蘭製油所」
→(約10分)→
4.「白鳥大橋展望台」
→(約5分)→
5.道の駅みたら室蘭で小休止
→(約5分)→
6.「祝津公園展望台」
→(約20分)→
7.「測量山展望台」
→(約20分)→
8.「潮見公園展望台」
→ 室蘭市内で夕食を!