雪解けと春の訪れを知らせる植物。その一つに水芭蕉があります。4月中旬から下旬になると、道内各地の湿原では、たくさんの水芭蕉(ミズバショウ)が、訪れる人たちを楽しませています。
札幌近郊では、石狩市郊外にある道内有数の水芭蕉群生地「マクンベツ湿原」が有名です。マクンベツ湿原とはどんな場所なのか、またその楽しみ方をご紹介します。
北海道三大湿原の一つ「石狩湿原」の名残
北海道の大きな湿原といえば、釧路湿原、サロベツ原野を思い浮かべますが、かつて道内三大湿原として石狩湿原もその一つに数えられていました。都市開発、稲作への転用が進んだことや、石狩川下流域の河川直線化によってそのほとんどが失われてしまいましたが、わずかに残っている部分の一つが石狩市のマクンベツ湿原(面積約130ヘクタール・低層湿地)というわけです。
マクンベツ湿原はアイヌ語で「山際を流れる川」の意味で、石狩川河口に近い左岸、生振(おやふる)築堤北部に広がっています。今では治水工事によって石狩川が真っ直ぐになっていますが、三日月湖である茨戸川(下流は真勲別(マクンベツ)川)が示すように、かつてはぐにゃぐにゃと大きく蛇行していました。このような川だと、雪解け時や豪雨時に何度も氾濫を起こすということで、1917年以降の工事で石狩川を直線化してしまいました。
その後も大規模な洪水が起こったため、さらに堤防を強化するべく丘陵堤が造成されることになりました。工事により、水芭蕉群生地が10~15%消失することが判明したため、1990年に約3ヘクタールの約1000株の水芭蕉を湿原内の2箇所(および札幌市内の公園)に移植されました。
この移植事業は一部では成功したものの、大部分は繁茂するヨシに埋もれてしまったそう。かつての規模よりも小さくなってしまったものの、今でも道内有数の群生地として知られています。
400メートルの木道沿いに水芭蕉がいっぱい!
では、マクンベツ湿原に行ってみましょう。道道508号線沿いに駐車帯が3箇所設置されていますが、石狩川下流側にある駐車帯に車をとめるのがおすすめです。ここからはマクンベツ湿原を見ることはできません。前述の通り、近年造成された丘陵堤が視界を塞いでいるためです。まずはこの丘陵堤を超える必要があります。
▼堤防を越えるマクンベツ湿原
▼マクンベツ湿原木道入口
堤防を越えると、マクンベツ湿原が広がっています。湿原内を歩けるのは、400メートルにわたり直線上に整備されている木道のみ。水芭蕉はこの木道から観察します。
▼直線400メートルに及ぶ木道
木道入口は高さ10~15メートルに及ぶハンノキ林が広がり、水芭蕉が高密度に生育するのもこのエリア。奥の奥まで水芭蕉が群生しています。融雪期から5月中旬まで冠水状態になり、ハンノキが茂ることで水芭蕉を乾燥から守っています。
▼水芭蕉アップ
▼奥の奥までびっしり!
▼水芭蕉と木道
しばらく木道を進むと、ヨシ群落エリアに入ります。このエリアには木々がなく、水芭蕉の生育には適していないため水芭蕉はいません、そのまま進みましょう。そうすると再び木々の生い茂るエリアに入ります(ヤナギ林)。このエリアにも水芭蕉群生地が広がっています。
▼ヨシ群落エリアと、その先に再び水芭蕉群生地
▼第二の水芭蕉群生地
▼ここはここで良き。ぜひここまで歩いてきたい
水芭蕉を観察しながら木道を進むと、突き当りになります。マクンベツ湿原の端にあたるということです。この先は北海道最大の河川、石狩川が広がります。石狩川をこれだけ間近で見られる機会もそう多くないのではないでしょうか。
▼突き当りに達する
▼その先は石狩川。雪解け時期なので水量も多い
夏はホタルも?
マクンベツ湿原は水芭蕉群生地で有名ですが、絶滅危惧種のカキツバタ、ミクリ、タヌキモ、ゴキヅル、ヒメガマなど83種類の植物が確認されています。鳥類ではオオワシ、オジロワシなどの猛禽類のほか、渡り鳥のオオジシギが確認されています。昆虫についてはヘイケボタルもわずかに生息しており、夏には光を見ることができるそうです。
行ったことのない方は、まずは4月に水芭蕉を見に行ってみてください。30分あれば往復できますので、湿原の歴史を念頭に、豊かな自然を観察してみることをおすすめいたします。
【動画】動画で見るマクンベツ湿原の水芭蕉群生地
参考文献:石狩市環境課等発行『石狩川マクンベツ湿原ガイド』、石狩市教育委員会発行『石狩ファイル(ミズバショウ、マクンベツ湿原と美登位湿原)』