【名寄市】「キマロキ編成」をご存知でしょうか。今も完全な姿で展示保存されているものとしては、全国で名寄市だけにしかない列車とされています。2015年に展示開始から40周年を迎える「キマロキ編成」とは一体何なのでしょうか。かつて雪国北海道の交通を陰で支えた列車に迫ります。
頭文字をとって「キマロキ編成」。北海道で開発された画期的な編成
「キマロキ編成」は、名寄市北国博物館前に保存展示されています。[地図] 蒸気機関車(SL)が2両あるのがわかりますが、その間に見慣れぬ車両が2両挟まれて連結されています。その2両とは、マックレー車とロータリー車です。そして最後尾に車掌車がついて、全部で5両編成、全長75mにもなります。機関車の「キ」、マックレー車の「マ」、ロータリー車の「ロ」、機関車の「キ」をとって「キマロキ編成」と呼ばれるようになりました。「キマロキ」の4両で十分に作業はできますが、実際の運用では最後の車掌車を含めた5両編成が完全な姿でした(編成によって例外あり)。
正式には「SLキマロキ編成排雪列車」と呼ぶ編成は、札幌鉄道局苗穂工場の羽島金三郎氏が1926年に欧米視察に行った結果考案したもの。1928年に苗穂工場でマックレー車の製作に国内で初めて成功、ロータリー車と組み合わせた編成を生み出しました。まさに北海道産の編成列車だったわけで、当時は画期的な除雪方式だと世界的に話題になったそうです。
4両が協調することで完遂する排雪作業
線路の除雪というと、ラッセル車で雪を両側に押しのけるのが一般的ですが、豪雪地帯ではそれを続けていくうちに線路の両側に雪がたまって高い雪壁となり、ラッセル車では対応できなくなってしまいます。そこで北海道内陸部や東北、北陸地方といった豪雪地帯に登場したのが、排雪用の「キマロキ編成」でした。この編成に機関区員や保線区員など十数名が分乗しました。
作業時には「キマ」と「ロキ」に分割することが多かったというキマロキ。先頭機関車がマックレー車を牽引し、4両目の機関車がロータリー車を後押しして進みました。つまり4両それぞれが協調関係にあってはじめて排雪作業が成り立ったのです。
作業の流れとしては、まず、2両目に連結されたマックレー車が車両後部の大きな羽根を広げて両側の雪壁を崩してかき集め、後方に送ります。次に3両目のロータリー車が車両先頭についた大型回転羽根で雪を遠くに飛ばします。時速10㎞ほどと低速だったこともあり、一回で1週間~10日ほどかけて作業を行いました。
準鉄道記念物に指定された名寄のキマロキ編成
現在国内で唯一完全な形で保存展示されている名寄市北国博物館前のキマロキ編成は、名寄に配置され北海道北部の冬の交通を支えた列車です。管理も良くされており、保存状態も良好です。ヘッドライトやテールランプを点灯させることもあります。
マックレー車とロータリー車が引退して1年後の1976年10月末、当時の国鉄から無償貸与を受けて、名寄公園北側の高台にレールを敷いて展示を始めました。1989年に名寄本線が廃止されると、跡地を活用した名寄公園拡張と市立博物館建設計画が持ち上がりました。1993年6月に旧名寄本線のレールの一部を残し、その線路上にキマロキ編成を移設、現在に至っています。2010年にはJR北海道が準鉄道記念物に指定しました。
それでは展示されているキマロキ編成を、先頭車両から順にご紹介していきましょう。
9600型蒸気機関車:SL59601号機
1921年11月3日に川崎造船所で製造されたSLで、編成の中で唯一の大正生まれです。同年12月28日に富良野機関区に配備されてから1972年10月26日に引退するまで約51年間(名寄機関区としては約50年間)、主に道北地方で活躍しました。全長16.751m、最大牽引力800t、最高時速65㎞、総走行距離2,608,745㎞。
マックレー車(かき寄せ式雪かき車):キ911号機
1938年10月20日に国鉄苗穂工場で産声を上げ、1940年1月1日に岩見沢客貨車区に配備、旭川工場での改造を経て、1963年5月31日から名寄客貨車区に配備されました。1975年10月18日まで約36年間、ロータリー車とともに排雪作業を行いました。全長8.470m(最大11.198m)、雪の最大かき寄せ幅7.75m、総運転距離27,560㎞。
ロータリー車(回転式雪かき車):キ604号機
1939年11月20日に国鉄苗穂工場で産声を上げ、1940年1月1日に岩見沢機関区、1963年5月31日から名寄機関区に配備されました。初配備から引退した1975年10月18日まで約36年間、連結されたマックレー車と共に排雪作業を行ってきました。全長19.025m、雪を飛ばす距離は横に30m、上に20m、羽根の回転数は毎分70~80回転、総走行距離は26,762㎞。蒸気機関ボイラーがありましたが、これは羽根を回転させて雪を飛ばすためだけの動力で、自走できませんでした。大型回転羽根部分は赤く塗装されています。
D51型蒸気機関車:SL D51398号機
1940年1月24日日本車輛製作所で製造され、同年2月9日に岩見沢機関区に配備。その後、追分、旭川、北見を経て、1972年3月15にから名寄機関区に配備されました。翌1973年9月10日に引退するまで約34年間活躍しました。全長19.730m、最大牽引力は1,200t、最高速度85㎞、総走行距離2,372,301㎞。
ヨ3500型車掌車(緩急車):ヨ4456号車
1954年に川崎車輛が製造したもので、保存開始当初はなく、釧路から取り寄せて1988年6月16日から連結展示しました。全長7.830m。
なお、2015年6月27・28日には、保存展示開始から40周年を迎えることにちなみ、記念イベントが開催されます。夜間ライトアップ、ミニSL乗車体験、フォトライター記念講演会などが行われる予定です。