アイヌ民族に伝わる製法に基づいて復刻された「カムイトノト」が話題を呼んでいます。2015年に小樽市の「田中酒造株式会社」から発売され、翌年には北海道が主催する「北海道新技術・新製品開発賞」の食品部門において優秀賞を受賞しました。稗を原料とし、どぶろくにも似た濁りが特徴的なカムイトノト。その味や製法に迫りました。
ルイカ・プロジェクトからすべてが始まった
▼アイヌ民族の伝統を継承
アイヌ語で「カムイ」は神、「トノト」は「お酒」を意味していることから、カムイトノトは、神々や先祖への贈り物として、アイヌ民族の儀式に欠かせない伝統的なものだったと考えられています。
アイヌ民族博物館(白老町)は、2020年に「民族共生の象徴となる空間」開設に向けて、「今に生きるアイヌ民族が、自らアイヌ文化と〝つながる〝こと」をテーマに、各地域への連携に向けた橋渡しを進める「ルイカ・プロジェクト」を立ち上げ、さまざまな情報を発信しています。その一つとして、カムイトノトの復刻が企画されました。
▼亀甲蔵は、小樽市の「歴史的建造物」に指定されている
アイヌの人たちは、身の回りのさまざまなものに神が宿っていると考え、自然と共生する文化を築いていました。しかし文字を持たなかったため、その生活の多くが謎に包まれています。
カムイトノト復刻にあたり、アイヌ民族博物館提供の「アイヌ生活文化再現マニュアル」をもとに、北海道立総合研究機構食品加工研究センター田村部長のアドバイスを受けるなど、復刻に向けて試行錯誤が繰り返されました。
120年の歴史を誇る田中酒造
▼たくさんの種類の中から、お気に入りの一本を!
田中酒造は1899(明治32)年に初代 田中市太郎が創業し、現当主が4代目を受け継いでいる北海道有数の酒蔵です。酒造りには地下水をくみ上げた軟水が使われており、古き良き風情を残した店内で、代表銘柄「宝川」をはじめ、日本酒・リキュールなど常時約10種類を無料で試飲することができます。
▼年中無休で見学できる
本店と少し離れた亀甲蔵では製造場見学を実施しています。日本酒の醸造は寒い季節に行われるのが一般的ですが、亀甲蔵は全国的にも珍しい四季醸造のため、年中仕込みを見学することが可能です。
▼案内を担当してくれた小野春菜さん
10名以上で見学する場合は、田中酒造のWEBサイト予約フォームまたは電話にて事前に予約してください。10名以下で見学案内を希望する方は、当日店員に声をかけてください。自由に見学する場合は予約が不要です。(製造場見学は9:05~17:30。所要時間は10~15分、料金無料)
カムイトノト復刻
▼復刻を担当した高野篤生杜氏
▼麹の状態によって酒の味が大きく左右される
カムイトノトの復刻は、杜氏(とうじ)の高野篤生さんを中心に行われました。杜氏は日本酒の醸造工程を行う蔵人の監督者であり、酒蔵の最高製造責任者です。酒造りについて「日本酒は米を原料にしていますが、その年によって味が異なります。また酵母は微生物なので状況により変化するため、適切な状態を見極めるのが難しい」と言います。
▼アイヌ民族の着物の文様をイメージしたラベル
アイヌの伝統を守るため、カムイトノトには国産稗と道産米麹が使われています。甘味料の代わりに米麹で糖化させた稗を加え、独特の酸味と自然な甘さがバランス良く、現代の消費者に受け入れられる風味に仕上げられました。
これまで稗を扱ったことがなく、「ザルに入れて蒸しても蒸気が通りにくく、さらには大量に発生した油を取り除く作業も必要」など作業は容易ではなく、完成までに半年ほどかかりました。出来上がったカムイトノトを飲み、「昔の人はこんな豪快な酒を飲んでいたのか!」と驚いたそうです。
▼「カムイトノト」の試飲が可能
アイヌ民族に受け継がれてきた酒を、北海道の酒蔵が作る「カムイトノト」は、唯一無二の酒と呼べるでしょう。田中酒造本店・亀甲蔵、田中酒造オンラインショップ、小樽市内の運河プラザ、北一硝子、タルシエ、苫小牧市の道の駅ウトナイ湖などで販売しています。古(いにしえ)のアイヌ民族に思いをはせながら味わってみてください。
原材料:ひえ(国産)、米麹(北海道産米)
アルコール:10%
内容量:300㎖
小売価格:1,100円(税込み)