地球温暖化による海面上昇は世界的な大問題です。太平洋の小さな島国は海抜が低いため、高潮による被害が深刻です。世界的に21世紀中に最大82㎝上昇すると予測されていますし、日本においては1メートル海面上昇すると全国の砂浜の9割以上が消失すると推測されています。(※気候変動に関する政府間パネル(IPCC)「第5次評価報告書」、環境省地球温暖化問題検討委員会「「地球温暖化の日本への影響2001」。)
北海道において、その影響を大きく受けるのはどこなのでしょうか。海面上昇シミュレーションサイトFloodMapsを用いて、北海道エリアの海面上昇をシミュレーションしてみました。(※あくまで標高データに基づくシミュレーションであり、可能性を示すものです。標高は国土地理院参照。)
1メートル上昇で野付半島がほぼ消失?
まずはこちら、北海道の現在の姿。美しい北海道形です。先述の通り、1メートル上昇すると、多くの砂浜が消失します。1メートル上昇するだけでどうなる可能性があるのでしょうか。
まずは札幌周辺。札幌市の北部を石狩川が流れていますが、標高1~2メートル前後の石狩川河口、茨戸川、石狩湾新港(標高1メートル)周辺が水に浸かる可能性が出てきます。おたるドリームビーチや石狩浜海岸の海水浴場では海岸線が内陸に移動するでしょう。
道北ではサロベツ原野、稚内大沼周辺、宗谷管内浜頓別町市街周辺、枝幸町北見幌別川河口、オホーツク圏では小清水原生花園や斜里町市街、サロマ湖周辺、網走湖の南岸である大空町女満別地区で影響が生じるかもしれません。
根室管内では野付半島が大きな影響をうけます。トドワラは標高0.2~0.3メートル、龍神崎灯台は標高1メートルととても低いため、そのほとんどが海面下に沈むことでしょう。別海町と根室市の境界にある風蓮湖周辺でも走古丹や春国岱といった標高1メートル前後の砂州が一部沈みます。
釧路管内では浜中町の霧多布湿原、厚岸町の別寒辺牛湿原周辺、釧路湿原東側の釧路川流域が一部沈みます。十勝管内では、十勝川河口が沈むほか、太平洋岸にある湖沼群で湖沼の面積が拡大します。
北海道西部に目を向けると、苫小牧市勇払周辺で湖沼が発生。後志管内共和町の堀株川と発足川の河口付近で浸水が生じ、国道229号が寸断されます。
5メートル上昇で室蘭絵鞆半島が島に?
5メートル上昇すると、浸水エリアはかなり拡大します。札幌周辺では、丘珠空港滑走路(場所によって標高5メートル台)から北側の石狩川流域が海になる可能性があります。千歳川流域の江別市、北広島市、空知管内長沼町あたりで水辺が増えることになります。
北に目を移すと、留萌管内羽幌町市街など沿岸部の河口付近で浸水。サロベツ原野はほとんどが水浸しとなり新たな湖となります。宗谷管内幌延町市街、留萌管内天塩町市街は浸水の被害をうけます。稚内市では稚内大沼周辺が海とつながり、稚内空港(一部標高5メートル)も使用不可。宗谷管内猿払村や浜頓別町のクッチャロ湖周辺も海となります。
オホーツク圏では、サロマ湖がほとんど原形をとどめないレベルに。網走湖の拡大が続き、美幌町市街に接近します。小清水原生花園(一部標高5メートル)や斜里町市街は海の中です。
根室管内では風蓮湖が原形をとどめずに拡大し、海の中になります。浜中町は市街がある霧多布半島が、霧多布湿原の浸水により完全に孤立化。釧路市では中心部と釧路湿原のほとんどが海の中に入るようになります。恋問海岸周辺、釧路管内白糠町市街は海の中です。
十勝地方では、十勝川河口周辺は内陸まで海の水が入り込むようになります。日高管内でも、浦河町、新ひだか町静内、新冠町などで市街地が水没します。苫小牧市ではウトナイ湖周辺(道の駅ウトナイ湖は標高4.5メートル)が海水の影響を受けるようになります。室蘭市では、絵鞆半島が本土から分離され、室蘭駅(標高2メートル)周辺にも海水が入り込んで2つの島に分かれます。
道南では渡島管内長万部町、八雲町市街、森町市街、鹿部町市街が浸水。函館市では、函館駅(標高1.5メートル)やベイエリアが水没し、函館山と切り離されそうな状態に。北斗市上磯、七重浜周辺、木古内町市街、知内町市街、檜山管内では上ノ国町市街、厚沢部川河口付近、後志利別川河口付近のせたな町北檜山地区が海に沈みました。
後志管内では、寿都町の朱太川河口付近、蘭越町の尻別川河口付近流域、岩内町市街が水没。余市町市街、古平町市街が海の中に入ります。小樽市では小樽運河(標高2~3メートル)周辺まで海岸線が来ることになります。
9メートル上昇で石狩平野が大きな湾に?
9メートル上昇すると、相当深刻な状況になります。札幌市は札樽自動車道(標高8.5メートル)から北側は水没することになります。石狩平野は大きな湾のようになって、北は美唄市の宮島沼(標高12メートル)近く、東は岩見沢市栗沢近く、南は千歳市根志越あたりまでが海になります。
ただ、江別市の江別駅(標高9.5メートル)周辺までの野幌丘陵は水没を免れ、半島のようになるでしょう。また、札幌市東区唯一の山「モエレ山」(モエレ沼公園、高さ52m、標高62m)は島のようになって残るでしょう。
道北では、天塩川流域がサロベツ原野とつながって大きな湾のようになります。オホーツク海沿岸部でも海岸線のセットバックが進み、能取岬がオホーツク海に突き出たように感じます。
根室管内では、根釧台地に水が入り込みます。釧路市では釧路湿原の奥深くまで水が入り込み、大きな湾のようになります。同様のことが、十勝管内の十勝川にも生じます。池田町市街近くまで細長い海岸線が続くことになります。
胆振管内では室蘭市東室蘭から登別市、白老町、苫小牧市、むかわ町まで、海岸の市街地が水没。室蘭で孤島となった“島”は本土との距離がさらに広がります。
函館市では函館山が本土から切り離されます。五稜郭駅から北斗市の平野部までが水没します。後志管内では尻別川中流域の蘭越町市街にまで浸水エリアが到達します。
13メートル上昇で岩見沢・北広島・当別が海岸の町に?
13メートル上昇すると、札幌市では桑園駅(標高13メートル)や苗穂駅(標高15メートル)、厚別駅(標高15メートル)近くまで海水が入り込みます。北広島市市街は東側が水没することになります。また千歳駅(標高14メートル)の北側まで海岸線が到達するほか、石狩市市街、空知管内南幌町市街、長沼町市街も水没します。江別市では江別駅がついに水没します。
石狩平野の北部を見ると、石狩管内新篠津村全域が水没。空知管内月形町市街が水没し、岩見沢駅(標高19メートル)近くまで水没します。石狩管内当別町市街はかろうじて海岸の町として存続します。
オホーツク管内では、湧別町湧別エリアや美幌町市街がついに水没。オホーツク紋別空港(標高15メートル)や小清水町市街手前まで海水が迫ります。能取湖と網走湖はついにつながり、能取半島が島となります。釧路管内では厚岸町市街が水没しました。
道南では、檜山管内今金町市街近くまで海水が迫ります。厚沢部町市街も海水が到達。函館市では五稜郭(標高14メートル)近くまで浸水するため、“島”となった函館山との距離は広がる一方です。
後志管内では仁木町市街まで海水が広がり、余市町市街だったところと合わせて大きな湾を形成します。
20メートル上昇で札幌駅周辺が水没?
20メートル上昇すると、北海道本土が東西に分割される可能性が高まってきます。石狩平野に海水が入り込んで大きな湾になっていましたが、苫小牧・勇払原野の浸水による湾とくっつきそうになるのです。この段階になると新千歳空港(滑走路は一部標高20メートルを切る)が浸水。このあたりでかろうじて北海道西部と東部がくっついているようですが、ぎりぎりです。
札幌市では札幌駅(標高18メートル)周辺、北海道庁(標高18メートル)、北海道神宮のある円山公園の円山公園駅(標高18メートル)近く、厚別区大谷地(一部標高19メートル)や新札幌駅(標高19メートル)まで海岸線が到達。札幌市中央区役所や大通駅が標高20メートル、札幌市電すすきの電停が23メートルですので、大通からすすきのエリアも危うい状況です。
石狩管内当別町市街や空知管内月形町市街は完全に水没しました。空知管内浦臼町市街や砂川市市街、奈井江町市街、美唄市市街、栗山町市街、恵庭市市街は海岸の町となる一方、岩見沢市市街は半分が水没します。空知管内南幌町は全域が海の中になりました。
道北では、天塩川流域で海岸線が内陸に入り込み、ついには宗谷管内豊富町、上川管内中川町市街を飲み込みました。稚内市市街地は水没し、内陸の沼川地区まで海水が入り込みます。内陸の宗谷管内中頓別町市街地も危うい状況になります。内陸の枝幸町歌登地区は浸水しました。
オホーツク圏では、雄武町、興部町、紋別市の各市街は水没していますが、オホーツク紋別空港がついに海水の中へ。女満別空港(一部標高33メートル)はぎりぎり陸地にありますが、海岸線に面する空港になりました。内陸の清里町は海岸の町になります。
根室管内では、内陸の中標津町にまで海水が到達しようとしています。もはや海岸の街と言ってもよいでしょう。釧路管内では内陸の標茶町市街まで海水が到達しました。また、十勝管内では池田町市街、幕別町市街、豊頃町市街、浦幌町市街が既に水没。
胆振管内では安平町市街、厚真町市街といった内陸部まで海水が入ります。道南では今金町市街が水没したほか、函館市では五稜郭も水没。函館空港(一部標高31メートル)の高台が海に突き出した格好です。
後志管内では内陸の黒松内町市街が危うい状況になります。共和町市街は水没してしまいました。小樽市では南小樽駅(標高19メートル)あたりが水没する他、小樽駅(標高22メートル)近くまで海水が忍び寄ります。
30メートル上昇で北海道が東西二つに分断される?
30メートル上昇すると、札幌市では札幌駅(標高18メートル)を含めJR全線が水没します。札幌市中央区の中心部はそのほとんどが水没することになります。新札幌駅は水没し、豊平区では八紘学園近くまで海岸線が拡大します。江別市では野幌駅(標高26メートル)が水没。野幌森林公園と大麻・文京台エリアが半島のように湾に突き出します。恵庭市市街は半分浸水し、千歳市市街はほとんどが海の中。
そして新千歳空港ターミナルビル(標高24メートル)までもが水没しました。これにより太平洋の勇払側の湾と、日本海側の石狩湾がくっつき、北海道は東西に完全に分断されることになりました。
空知管内では滝川市市街、砂川市市街、奈井江町市街、美唄市市街、岩見沢市市街、栗山町市街を完全に飲み込み、雨竜町市街近く、三笠市市街近く、由仁町市街近くまで海岸線が広がります。空知地方の樺戸山地は湾にせり出す半島のようになります。
宗谷管内では、稚内市が二つに分断されます。稚内市街やノシャップ岬、抜海がある側が、本土から切り離されて島になりました。内陸の中頓別町は完全に海水に沈みました。
オホーツク管内では内陸の佐呂間町市街、北見市端野近くまで海水が到達。斜里町市街や標津町市街が水没したことで、知床半島がいつもより長く見えます。内陸の根室管内別海町市街は水没、中標津町市街は一部が水没しました。根室市は市街のほとんどが水没したほか、根室半島が完全に分断され、島になりました。
十勝管内では、十勝川流域の湾がさらに拡大し、内陸の帯広市市街や音更町木野市街にまで到達。帯広市が海岸の町になりました。日高管内では沙流川流域への海水流入により、内陸の平取町市街が入り江の海岸の町になります。
道南では、函館空港がついに浸水。大野平野が海水に浸ったことにより渡島管内七飯町市街が海岸の町になり、道の駅なないろ・ななえ(標高26メートル)周辺まで海岸線が到達します。後志管内では黒松内町市街が、小樽市では小樽駅がついに水没しました。
50メートル上昇で根室半島水没か?
このあと50メートル上昇にもなれば、根室半島は完全水没するほか、釧路管内釧路町が大きな半島になり、浜中町や厚岸町には幾つもの島々が誕生。釧路空港や矢臼別演習場が海岸線に位置するようになり、北見市市街が深く入り込んだ入り江の海岸の町になります。道北では稚内エリアに島々が誕生するほか、上川管内音威子府村市街が水没。
道央では、深く入り込んだ石狩湾は、北端が空知管内北部の深川市市街や沼田町市街、さらには赤平市市街にまで到達します。江別市市街、恵庭市市街、空知管内では三笠市市街、秩父別町市街、妹背牛町市街、雨竜町市街、北竜町市街、由仁町市街は水没。
市街地のほとんどが水没した札幌市では、中央区の豊平川の扇状地にそって海岸線が形成され、円山や藻岩山のすそ野が海岸線を形成します。豊平区では、旧HTB本社横の平岸高台公園(標高59メートル)や札幌ドーム(標高60メートル以上)付近までが海岸線となるでしょう。
北海道のどこが低地帯かがわかる
ここまでで、海面上昇によって北海道の地図はどう変わるのか、シミュレーションしてきました。こうならないことを希望しますが、海面上昇が進めば、大都市も大きなダメージを受けます。
一方で、このシミュレーションによって、北海道のどこが低地帯なのかがわかります。特に、石狩平野、勇払原野、道南の大野平野、宗谷やサロベツ、原生花園や湖沼群のあるオホーツク海岸、十勝川下流域、釧路地方の湿原帯、根室地方の根釧台地は、海面上昇の影響を大きく受けることになるでしょう。