漁港と言えば、漁業用船舶が防波堤の間を縫って出入港する様子をイメージするでしょう。しかし中には、トンネルをくぐらないと漁港にたどり着けない「トンネル漁港」という、世界的にも珍しい漁港があります。
北海道は道南、檜山管内上ノ国町の石崎漁港にある石崎漁港トンネルがそれ。完成当時は、北海道、日本はもとより、東洋で唯一の存在でした。どのような漁港トンネルだったのでしょうか。役割を終えたとはいえ、今も残る漁港トンネルを訪ねました。
岬の下にくり抜かれた石崎漁港トンネル
石崎漁港は江差町市街から南へ車で約45分。石崎地区に入ると、石崎漁港の入口に大きく突き出した岬、そして、その手前に広がる漁港が見えてきます。
ここは、石崎の古名である比石館(ひいしたて)跡として知られる岬。1441年に下北からやってきた厚谷右近将監重政氏が築いた道南12館のひとつで、1457年のコシャマインの戦いで陥落したとされています(諸説あり)。石崎川河口に突き出し、三方を高さ25メートルの断崖で取り囲むため、古くから要所として使われていたようです。
この岬が防波堤のような役割を果たし、北西の風や南西の風を防いでいました。石崎川河口という位置関係上、川と港とを分ける堤防が設けられると、トンネルをくり抜いて船の通航路を確保する必要性が生じました。
▼東防波堤から石崎川のほうを見る
北海道庁中村廉次港湾課長設計のもと、この岬の下をくり抜いてトンネルが完成したのは、着工から2年後の1934(昭和9)年6月20日のこと。半円形のコンクリートブロック造り(入口等は石材使用)のトンネルは、長さ45メートル、幅9メートルでした。
トンネルの中は外海の影響をほとんど受けず、近隣の漁港の船の避難先としても使われていたことが、当時の上ノ国町村史に記されています。
▼石崎漁港トンネル
漁船の大型化に伴い閉鎖されるも国指定登録有形文化財に
当時は防波堤が岬につながっていて、トンネルを通らないと漁港を出入港できないようになっていました。しかし、問題がなかったわけではありません。石崎川河口に位置しているため、河川氾濫のたびに土砂が流れ込んでトンネルを船が通れなくなることもしばしばだったとか。そのたびに補修などを行っていたようです。
昭和中期には漁船が大型化。トンネルは通れないので、漁港を拡張し、岬の外側を漁船が通れるように東防波堤と北防波堤が整備され、1983(昭和58)年3月末に漁港トンネルは閉鎖されました。
今では物揚場が港側の入り口を塞ぐように作られています。トンネルの前まで近づくことが可能で、波打つ音がトンネルの中に響きます。トンネルは確かに小さな漁船が通れる程度で、大きな漁船はとても通れないサイズであることがわかります。
▼北防波堤から見る、トンネルの向こう側の入口
現在は、トンネルの向こう側(海側)にも西防波堤があり、漁船は岬の北を迂回し、くねくねと曲がりながら漁港を出入港していきます。堤防上には釣り人を見かけることも。
▼北防波堤から見る西防波堤。右手に出入港口がある
日本でも珍しいトンネル漁港。その貴重性から、2003(平成15)年1月末に、国の登録有形文化財に登録されたほか、2006(平成18)年2月には「未来に残したい漁業漁村の歴史文化財産百選」に認定されています。通る機会があればぜひ見に行ってみてください(崩落危険のため近くに近寄らないようにとの注意があります)。