北海道の遅い春、白い可憐な花を咲かせる「オオバナノエンレイソウ」をご存知でしょうか。オオバナノエンレイソウは、国内では北海道と東北の一部に分布するユリ科の多年草で、5月中旬から6月初旬にかけて白い花を咲かせます。
そのかわいらしい様子は「春の妖精(スプリング・エフェメラル)」とも言われるほど。妖精たちが一面に彩る日本最大の群生地が、十勝の広尾町にあると聞いてたずねてみました。
広尾町市街の入り口にあるシーサイドパーク広尾、国道336号からキャンプ場へ続く道の両側に林があります。トリムの森、シーサイドの森と名付けられた保安林の若い緑の中、白い花びらが風に揺れています。これがオオバナノエンレイソウの花畑です。その面積は27.9ha、林の奥の方までずっと白い花が見える大群落にため息が出るほどです。
これまでも野の花を撮影するカメラマンたちには知られていましたが、これだけの群生地は珍しいと注目されはじめ、人気上昇中のスポットです。
長い年月をかけて育ち、毎年花をつける、ひたむきな植物
3枚の葉に、3つのがく、3枚の白い花びらの可憐な姿を見せてくれるオオバナノエンレイソウ。実は花を咲かせるまでに10年以上もの長い年月を要します。春に花を咲かせ、夏に実が付き、種ができます。
地面に落ちた種は、発芽して1枚だけ葉を出します。葉はすぐ枯れてしまいますが、根は成長して翌年にまた葉を1枚出します。それを5~6年繰り返して少しずつ育っていきます。やがて3枚の葉を出します。そして同じように5~6年かけて大きくなります。そうやって10年程の年月をかけて、やっと花を咲かせるのです。
一度花を咲かせると、何年も大きな花を咲かせ続けることから「大花の延齢草」と呼ばれているのです。花が咲き続けているということは、オオバナノエンレイソウが好む、明るくて適度に湿った林の環境が、長い間安定的に守られているということ。広尾町の群生地はその素晴らしい林ということなのです。
北海道大学と広尾町を結ぶ、不思議な縁の花
オオバナノエンレイソウは、北海道大学(以下北大)の校章のモチーフにもなっています。北大の敷地内に自生していたものを図案化し、それを北大の未来へのイメージと重ね合わせてデザインしたそうです。
また、北大には、オオバナノエンレイソウを長年研究されている大原雅教授がいらっしゃいます。広尾町にも毎年訪れ、群生地の様子、個体の成長などをつぶさに研究されています。大原教授のゼミの学生も広尾町に滞在し、研究の傍ら町内の小中学生の環境学習を指導したり、夏休み中の補充学習等の講師を務めるなど、中学生が体験しながら学べる機会も作っています。
そうした学習を通じて自分の住む町を深く知るとともに、ふるさとの豊かな自然を未来につなげることの大切さを感じているのでしょう。オオバナノエンレイソウが結ぶ不思議な縁がゆっくり深く広がっています。
町をあげての保存活動と学習が美しい群落を守っています
広尾町では毎年ボランティアの方々が春を前に群生地と周辺のゴミを拾ったり、町内の中学生が環境学習の一環で種を植えたりと、保全・保護の活動を積極的に行っています。
昨年は台風に襲われ、オオバナノエンレイソウの林も倒木によるダメージを受けましたが、町と町民ボランティアが即座に対応。倒れた木を撤去し、強風で飛ばされてきた枝やゴミなどを拾って林を守りました。
一度大きく環境が変わると、群落があっという間に消えてしまい、花を咲かせるまでに10年以上、その回復には相当な時間がかかることを広尾町の人は知っているからです。
オオバナノエンレイソウの群生地は、広尾町の子供たちの学習の場であると同時に、町の自然の豊かさの象徴でもあるのでしょう。
今が見頃! 美しさを感じてみませんか?
先に記した保安林の道路に近い場所や、散策路で日当たりの良い場所では大きな花を咲かせたオオバナノエンレイソウを見ることができます。そしてその周囲にある緑の葉をよく見てみましょう。葉の大きさはさまざまですが、成長途中の葉だとわかります。どれもやがて花をつけるオオバナノエンレイソウなのです。ですから、踏みつけないように気をつけてください。
林の中には一緒にカタクリの紫の花が咲いているかも知れません。白と紫、そして若い葉の緑、美しいコントラストはこの時期ならではです。日高山脈のふもと、十勝では最も古い歴史のある広尾町。豊かな自然と人が守り育むオオバナノエンレイソウに会いに行ってみませんか?
広尾町字野塚989番地(国道336号からシーサイドパークキャンプ場への道路沿い、保安林一帯)
広尾町教育委員会
所在地:広尾町西4条7丁目
TEL:01558-2-0181
※写真提供:広尾町