出会えたらラッキー!? 幻の「どんじゃ海苔」を追って島牧村を奔走!

つい最近のことですが、コンビニのおにぎりを食べていて思い出した事があります。そういえば子供の頃に母が握ってくれた、アルミホイルに包まれたおにぎり。開けるとしっとりしていて、海苔の香りと味がしっかりとあって、食べた後には唇や歯にほぐれた海苔がついていたっけ……。

あれ? あの時食べていた海苔って今食べている海苔とは違うような……。
そうだ、全然違う。別物だ! 子供の頃にはそんな違いなど気にもしていませんでしたが、思い返すとあの時食べていた海苔は「岩のり」ってやつではないだろうか。だとしたら、なんて贅沢な!

早速、当時食べていた海苔のことを調べていくと、現在は「どんじゃ海苔」と呼ばれている島牧村産の海苔である事が判明しました。いてもたってもいられなくなり、「どんじゃ海苔」を求めて行動を起こすのですが……。

現在はなかなか手に入らない幻の海苔?

調べてみると「どんじゃ海苔」を買い求めるには12月~3月と時期が限定されているようです。しかし、島牧の道の駅「よってけ!島牧」では「どんじゃ海苔」が入っている蕎麦があるとの事。食べられるだけでもありがたいので、早速島牧へ向かうことにしました。

日本海沿いを走る国道229号線、トンネルを抜けるとすぐ右手にある道の駅「よってけ!島牧」。
食堂カウンターでメニューを確認しますが、どこにも目当ての「どんじゃ海苔」が見当たりません。
係りの方に聞いてみると、現在は販売していないという残念な回答。
さすがにここまで来たからには、何かしら収穫がないことには収まりがつきません。

色々と聞いてみると、まず時期が冬場12月~3月でないと「どんじゃ海苔」の原料である岩のり自体が無いということ、また、現在では岩のりを収穫する人が高齢化し収穫量が少なくなっていて、冬場の時期でも買うことはもちろん、この食堂でも提供できないことが多いとの事でした。

このままでは数年後には「どんじゃ海苔」は本当に幻となってしまう、今のうちになんとしても手に入れなければ。こうなったら、収穫している方に直接聞いてみよう、あわよくば「どんじゃ海苔」があるかもしれない。そんな淡い期待をもって尋ねてみると、一軒だけ「どんじゃ海苔」を収穫している漁師さんがいると教えていただきました。

親子で繋がる食文化、安保水産

教えていただいたのは、道の駅よりさらに南へ行った元町にある「安保水産」。ご家族で経営されている会社で、「生風味えびのあまづけ」、「生風味粒うに」、「生炊きしらす佃煮」など、数々の賞を獲得している商品を知る方も多いと思います。

特に商品に貼られたラベルの似顔絵、ご主人の安保力雄さんの飲み友達でもあり、隣町の寿都町出身の漫画家、本庄敬さんが描いた力雄さんの顔はインパクトもあり見覚えがあるのでは無いでしょうか。本庄さん作画の漫画『ハルの肴』4巻にも、安保さんご家族が登場しています。

お邪魔すると、さすがに「どんじゃ海苔」は無いものの、ご主人の安保力雄さんと奥様にお話を聞くことができました。時期は12月~3月、凍りつくような、いや実際に凍りついている岩場の中を収穫に向かうため、かなりの危険が伴うこと、そして時期が限られているためそこまでしてもメリットが無いこと等から、実際岩のりを獲りに行く人は現在ではほとんどいなくなっているとの事です。冷たい風、凍って滑る岩場、場所によっては落ちたら命の危険さえある場所へ行くわけですから当然でしょう。

しかしそんな中、収穫へ向かうわけですから、大変貴重な海苔だということを理解すると共に感動を覚えます。安保さんの息子さん娘さんに至っては、力雄さんが「まさか」と思う状況でも率先して収穫へ向かうと笑いながら答えてくれました。なんと、まだまだ幻なんかじゃありません、「どんじゃ海苔」の文化は繋がっています。


「どんじゃ海苔」は、収穫後細かく刻まれ天日干しされますが、1枚が106cm x 67cm、たたみ一畳の3分の1よりちょっと大きいくらい。さすがに大量に獲れるわけではないので数に限りがありますが、早めに予約すると手に入るようで、安保水産では今からでも予約を受けているとの事でした。

値段は3,000円~4,000円くらいで一般的な海苔の数倍しますが、全行程手作業で全くの別物ですから、比べるものではありませんし、逆にその手間と味を考えると安いかもしれません。このようなお話を聞くと余計に食べたくなってきます。

何十年ぶりかのご対面

今回「どんじゃ海苔」を求めて色々聞きまわったところ、少しの在庫があるとの事で、なんとか道の駅の食堂で「どんじゃ海苔」を乗せた蕎麦をいただくことができました。貴重な海苔を提供していただき、ご協力いただいた皆さまには本当に感謝いたします。

「磯海苔蕎麦」という名前で、提供されているそうですが、現在は食べることができません。冬場に出る季節物ということと、獲れる量もその時にならないとわからないため、「磯海苔蕎麦」の提供時期も値段も現在は決まっていないようです。


何十年ぶりになるでしょうか、あの黒々とした厚い海苔。蕎麦の出汁に浸すと、ほぐれて瑞々しくなります。味というか食感になるでしょうか、厚みがあって細かい海苔の繊維がひと噛み毎にしっかりと意識でき、海の香りを口の中いっぱいに広げます。この風味、味、昔と変わらず一度味わうとやめられません。この冬は是非手に入れたいものです。

「どんじゃ海苔」だけじゃない、本物の海の味を提供

お話を伺った安保水産では、様々な海の幸を販売していますが、商品にはこだわりがあります。
「どんじゃ海苔」はもちろん、ウニなども天然ものをそのままの風味で味わえるよう、独自の製法で瓶詰めしながら、その中身は折り詰めにされているウニと同等のものを使用しているとの事です。7月にはウニが解禁のようですのでこちらも楽しみです。近頃高級魚となっているホッケも、大きなものが揃っています。

また、定期便などの海の幸が詰まったセットも魅力満点。5,000円のセットにはクジがついていて、毎年年末にくじ引きが行われ、これまた豪華景品が当たるという、なんとも素敵な詰め合わせになっているようです。贈り物にも喜ばれそうですね。

日々漁に出ているから慣れているとはいえ、特に岩のり漁の冬場、十分気をつけて今後も貴重な食文化を残していってほしいと思います。

安保水産
所在地:島牧郡島牧村字元町40番地1
TEL:0136-74-5436
facebookページ
※一部写真提供

道の駅「よってけ!島牧」
所在地:島牧郡島牧村字千走11-1(国道229号沿い)
TEL:0136-74-5183
道の駅情報ページ