ネットなどで様々な滝を調べていると、地形図に記載されていない滝があることに気づきます。国土地理院のウェブサイトに、滝の地図記号は「高さ5m以上でいつも水が流れている有名な滝や好目標となる滝」とあるとおり、高さが5m以上あっても記載されない滝があるということです。
今回取材する滝は平成の世になってから発見された、高さが70~80mもあるという、長万部町の「茶屋川の滝」です。長万部町役場産業振興課の方にお聞きしたところ、茶屋川の滝は1992年(平成4年)、八雲営林署(現 渡島森林管理署)の職員が国有林保安の作業中に発見し、北海道新聞の記事となりました。
その後、1993年(平成5年)に個人が滝の情報をネットで公開し、多くの人が知ることとなったようです。もともとは森の中から聞こえる水音などは確認されていたらしいのですが、深い原生林のために容易に近づくことができず「幻の滝」として囁かれていたようで、発見後は滝の所在住所から「茶屋川の滝」と呼ばれるようになったようです。
実際、地形図を見ても滝の記載はされておらず、ネットで情報を集めても滝までの詳細な情報は得られません。70~80m程の高さを誇る滝が、なぜ長きにわたり見つからなかったのか、非常に気になります。確実な情報としては、茶屋川の滝は内浦湾へと流れる国縫川の上流にあり、側を通る林道を使えば山の尾根から全景が観られるとのこと。それならば、国縫川の遡行をすれば辿り着けるはずですので、装備を整え実際に行ってみることにしました。
ルートと準備
国道5号線から国道230号線を、今金町方面へ向かい美利河峠の長万部町と今金町の町境付近から林道へ入ります。林道入り口にはゲートがあり、車両で入るには渡島森林管理署の許可が必要です。
収集した情報によると、林道を3kmほど登ると滝の全景が見える尾根の入口があるとのことで、まずは車で向かってみることにしました。しかし、ゲートから500mほど進んだ先に倒木があり通行不能。車でのアタックは早々にして終了となりました。
▼林道をふさぐ倒木
気を取り直して、沢登りの準備をします。今年はヒグマの目撃例が多いとのことで、いつもの鈴に加え音の鳴る玩具のピストル、さらには匂いで存在を知らせるための森林香、また地形図を見ると、滝を登ることができれば林道へ出ることも可能と考えられるので、ヘルメットも携帯します。
倒木の場所から林道をさらに300mほど進むと国縫川が見えてきます。しばらくは川へ入りやすい場所を探しながら、川沿いの林道を進みます。
原生林に囲まれた深い渓谷、国縫川
川へ降りた途端、ため息の出るほど美しい川底が目に入ります。粘土質のような岩盤が青色に輝き、時間を忘れて見とれてしまいます。すぐ隣の今金町というと瑪瑙(めのう)で有名ですから、石だけでなく地質全体が他とは違うのかもしれませんね。
歩を進めていくと意外に歩きやすく、今までの沢登りの経験の中で一番速いスピードで進んでいるように思われます。全体的に川底が岩盤で水量が少ないこと、さらには他の沢に比べて斜度が緩いためでしょう。しかし、進むにつれ、両岸の崖はどんどん高くなっていきます。かなり深い渓谷であることは地形図で確認済みですが、少し嫌な予感もします。
▼歩きやすい川底が続く
さらに進むと予感的中、目指す滝の前に別の滝が現れました。両側は崖、ルートとしては目の前の滝の向かって右側よりを、水を浴びながら直接登るか、滝壺を渡り左の崖を登るか。休憩を兼ねてしばらく考えた末、少し戻って崖の登りやすい場所から藪漕ぎをして迂回することにします。
▼高さ5m程の滝を前にルートを探す
その先は川幅も狭くなっていき、どんどん渓谷も深まり、ある地点から気配を感じます。前方に見えるカーブを曲がると、何かがいる気配です。近づいていくと、水が落ちる音が深い渓谷に反射して大きくなっていきます。
▼あのカープの先には何が
深い渓谷の中へと落ちてゆく茶屋川の滝
カーブを曲がると、小さな滝が見に入り、一瞬また別の滝か?と思わせますが、目線を上げるとそこには大きな滝、茶屋川の滝です。
滝を正面から見たいところですが、対面は崖のため直接滝に取り付き、一番上まで登りながら身体で滝を感じることにします。
▼一番下から見えている部分だけでも40m程だろうか、かなりの高さがある
滝の脇を上って行くと平らな棚へ出るのですが、そこからさらに上へと滝は続いています。
▼さらに40m程、上へ続いている
▼下を覗くと、先ほどまでいた場所へと水が落ちていくように目眩がする
さらに登ると、また棚があり、そこから振り返ると「奈落の底」という言葉が頭をよぎります。
▼真っ暗な渓谷の中へ吸い込まれるように落ちていく水
茶屋川の滝は岩肌を伝って流れ落ちる、以前取材した「重滝」に近い流れで、全体は三段からなる北海道内でも随一の規模を誇る滝ではないでしょうか。
【動画】茶屋川の滝
大きな滝をも包み隠す地形
滝の上へ出ると、深い渓谷から這い上がってきたという達成感に満たされますが、高さはないものの、まだ両岸は崖に囲まれています。ここからは林道を目指して、川から上がり藪漕ぎをして尾根を登っていきます。
尾根の高い位置までくると、遠くの景色が見ると同時に、今いる場所がかなり深い山の中だということを実感します。尾根の上から森の中を見下ろすと、木々の隙間から滝が見えるのですが、こうしてみると周囲は高い尾根に囲まれ、あまりにも深い原生林によって隠された滝だということがわかり、長い間発見できなかったということに納得です。
▼森の中に隠れるように流れる滝
その後は予定通り林道へ出て、山を下りました。確かに林道を使えば、楽に尾根の上から滝の全景は見ることができます。しかし林道は倒木や路肩が崩れたりしており、車両の通行は困難でしょう。また、滝が観られる尾根ですが、幅1m程で両側が崖となっていますので、足を踏み外さないよう注意が必要です。