2018年春に現役引退となる特急用ディーゼル車両「キハ183系初期型」のスラントノーズ型の先頭車両が、2019年春に安平町追分にオープンする道の駅に、蒸気機関車D51とともに常設展示されることが決まりました。
スラントノーズ型のキハ183系といえば、1979年の登場以来、特急「おおぞら」や「オホーツク」などで活躍してきた車両。引退後、なぜ安平町に保存展示することになったのでしょうか? 実は、安平町追分とキハ183系初期型車両には、深いかかわりがありました。この車両を保存するために支援を呼び掛けている北海道鉄道観光資源研究会(札幌市)の矢野友宏事務局次長に詳しい話を聞きました。
保存予定なし! スラントノーズ型キハ183系を国鉄色で残したい!
キハ183系気動車は、耐寒耐雪機能を備えた北海道専用車両として1979年に登場した車両です。特に、初期に製造されたキハ183系0番台は、くの字のスラントノーズが特徴。国鉄時代の伝統である逆三角形の特急シンボルマークを掲げ、北海道の長距離特急列車の代表的な顔として愛されてきました。
▼国鉄色(左)と現行色(右)のキハ183系「特急オホーツク」
車両の老朽化と新型特急車両の投入により世代交代が進み、スラントノーズ型キハ183系先頭車両は5両を残すのみ。近年は特急「オホーツク」「大雪」「旭山動物園号」として主に運用されてきましたが、ついに2018年春をもってすべてが現役を引退します(旭山動物園号は3月25日が最終運転日)。
北海道鉄道史にとって貴重な車両ではありますが、JR北海道には同車両の保存予定はなく、引退後に引き取り手がいなければ、全車両解体の危機に面していました。そこで、北海道鉄道観光資源研究会が呼びかけ人になって、2018年1月1日から、インターネットで出資を募るクラウドファンディングのプロジェクトを始動しました。1月29日に第1目標である610万円を達成して、1両の保存は決定。2両目を展示するべく、第2目標の1100万円に挑戦中です(クラウドファンディングは2018年3月30日まで)。
現在の色は、ライトグレーと薄紫色ですが、往年の国鉄特急色(クリーム色と赤色のツートンカラー)に復元をした上で現地に移送する予定です。これを懐かしいと感じる方もいるのではないでしょうか。
今回、JR北海道からの譲受が決定した1両目「キハ183-214」は、2019年春に安平町追分にオープンする「道の駅あびらD51ステーション」に屋外展示。2両目「キハ183-220」の保存も決定した際には、安平町鉄道資料館(旧追分機関区)に現在保存しているD51 320号機を道の駅に移設するのと入れ替えで、町の文化財として保存する計画です。
新旧が交錯した鉄道の町「追分」
今回、なぜキハ183系の車両を安平町で保存することになったのでしょうか。道の駅を新設する追分地区が、北海道の鉄道史において重要な意味を持っており、同車両ゆかりの地であることが関係しています。
追分駅は、空知や夕張の炭鉱から石炭を室蘭港に運ぶために敷かれた室蘭本線と夕張線が交わる場所で、追分の街は鉄道とともに発展しました。分岐駅としてだけでなく、石炭輸送にあたる機関車の基地「追分機関区」が存在し、蒸気機関車が出入りしていました。
その蒸気機関車も1976年3月、9600形3両の入換業務をもって、国鉄最後の運行を終えました。そう、追分は国鉄最後のSLが走った“聖地”なのです。50代後半から60代前半のSLファンの中には、この日もしくはその前に現地を訪れ、蒸気機関車最後の姿を目にしたという人も少なくありません。
▼D51 320号機と安平町追分SL保存協力会のメンバー
蒸気機関車なき今、SL最後の地の象徴ともいえるD51 320号機が、安平町鉄道資料館に大切に保存されています。追分機関区のOBで構成する「安平町追分SL保存協力会」が、我が子のように整備を行い、国内有数の保存状態を誇っています。
さて、国鉄最後のSLから約5年後の1981年10月。千歳線から分岐し、追分駅を経て新得に至る石勝線が開業。同路線の開業とともに華々しくデビューしたのが、キハ183系気動車の「特急おおぞら」(函館・札幌―釧路)でした。デビュー直後のスラントノーズ型キハ183系が、追分を走ったのです。
▼石勝線開業ポスターにもキハ183系が
▼石勝線開業日の追分駅
先述の「安平町追分SL保存協力会」のメンバーの中には、蒸気機関車引退後にデビュー間もないキハ183系を運転した人もおり、「キハ183系には愛着がある」との声も聞かれます。SL引退、そしてキハ183系気動車の登場――。昭和50年代は、めまぐるしく移りゆく、北海道鉄道史における重要な転換点であり、その中心にあったのが追分でした。
▼追分駅に停車するキハ183系初期型(0番台)と後期型(500番台)
道の駅開業後は鉄道情報発信拠点に
そんなスラントノーズ型キハ183系の引退後の保存先を求めて、様々な自治体と交渉を進めてきた北海道鉄道観光資源研究会。安平町に鉄道をテーマにした道の駅計画があることを知り、協議を進めた結果、町の全面協力を得ながら同車両を保存することが可能になりました。そして、クラウドファンディングで第1目標をクリア。数年違いで交わることのなかった昭和の北海道をまさに”牽引”してきた主役たちが、40年近い時を経て、鉄道の町・追分に初めて並ぶのです。
▼「道の駅あびらD51ステーション」完成予想図。D51の横にキハ183系が並ぶ予定
北海道鉄道観光資源研究会では、保存するキハ183系の維持・管理、そして車両を活用した集客活動を行う団体として、安平町民や道内外の鉄道ファンで構成される「キハ183系・特急おおぞら保存会」を設立する予定とのこと。
蒸気機関車D51 320号機を守り続ける「安平町追分SL保存協力会」のメンバーとの交流を図りながら、安平町追分を北海道の鉄道技術と文化の伝承と発信基地するための活動に取り組んでいく計画です。
SL最後の聖地である安平町追分には今も多くの鉄道ファンが訪れます。安平町の道の駅の担当者は、「キハ183系の保存というチャンスをくれた北海道鉄道観光資源研究会と連携し、この道の駅が道内鉄道遺産の周遊ルートの出発点・情報発信基地になる可能性も探りたい」としています。
矢野さんは、「安平町が全面的に協力してくれているので、出資者と保存会とで三位一体の展開をしていきたいと考えています。SLとキハ183系、鉄道の過去と現在、未来を追分で語り、伝える活動を行い、安平町の知名度も高めていけたら」と展望を語ります。そして、スラントノーズ型キハ183系車両を2両残し、第二の人生を安平町で送れるようにするため、クラウドファンディングへの支援を幅広く呼び掛けています。
クラウドファンディング挑戦中!
2018年3月30日(金)まで
第1目標:610万円(達成=1両保存展示決定)
第2目標:1100万円(2両目保存へ挑戦中)
クラウドファンディングURL
※写真提供:北海道鉄道観光資源研究会