昨今の報道でJR北海道の経営難がクローズアップされる中、2000年の運行開始から今年で18年目を迎えた「SL冬の湿原号」が、今シーズンも釧路~標茶(しべちゃ)間で運行されているのは、鉄道ファンはもとより、地元住民にとっても大変嬉しいニュースだ。
白く長い煙を上げながら冬の釧路湿原を疾走するSLは、その躍動感とともに、昭和のノスタルジーを思い出させる年代の方も多いのではないだろうか。
今回はそんなSLを、なんと「釣り」をしながら間近でウォッチ出来るという、珍しい場所をご紹介しよう。
鉄道ファンの「撮り鉄」や「乗り鉄」は有名だが、「釣り鉄」というのは初めてのジャンルかも知れない。
釧路町を流れる別保(べっぽ)川では、氷の張る1月から3月上旬まで、ワカサギやチカが釣れる近場のポイントとして地元の釣り人で賑わっており、そのすぐそばの鉄橋を「SL冬の湿原号」が通過する。
筆者が別保川に向かったのは、運行2日目。当日は快晴無風で釣り日和、いや絶好のSL日和だ。
ワカサギ釣り好きの友人とともに、SLが通過する1時間前にソリを引いて、厚く氷の張った別保川に到着した。
さっそくアイスドリルで氷に穴を開け釣り糸を垂らすが、1匹のワカサギを釣り上げるも後が続かない。
通りかかった地元の常連に聞くと、「昨日まではこの場所が良かったが、今日はもっと上流で釣れているはず」とのこと。別保川は海に近いため潮の満ち引きがあり、潮の加減や時期によって、海から遡上したワカサギの群れが大きく移動するのだ。
SLが通る瞬間にタイミングよくワカサギを釣り上げて、列車の乗客に見せたい!と目論んでいたのだが、そうそう都合よくは釣れないよなぁ。そんなことを考えていると、東釧路駅の方向からボォーッと汽笛が鳴った!
いよいよ「SL冬の湿原号」の登場だ。
シュッシュとリズミカルなドラフト音を出しながら、真っ黒なC11形蒸気機関車が近づいてくる。
やがて列車が鉄橋に差し掛かるとゴウゴウと轟音が鳴り響き、白い煙とあいまってなかなかの迫力だ。
通過する列車に手を振ってみると機関士さんを始め、多くの乗客が手を振って応えてくれた。思わずこちらも笑顔になる。
列車が過ぎ去ると氷上には静寂が戻ったが、さすがにワカサギ1匹では寂しすぎる、と次は上流へ移動。
テントが立ち並ぶポイントで釣り糸を垂らすと、今度はたちまち12センチ前後の大型ワカサギがダブルでヒット!
その後も入れ食いが続き、気づけば2人で100匹弱の釣果に。寒さを忘れて外遊びを楽しめた1日となった。
もちろん釣れたワカサギはその日の晩ごはんで天ぷらに。釣りたての美味しさは釣り人だけの特権だろう。
純白の雪と氷、抜けるような青空、そこを駆け抜けるSL列車を見上げながら氷上でワカサギ釣り、そして自宅で釣りたてを天ぷらに、という欲張りな「釣り鉄」。全国を探してもこんなシチュエーションはなかなか無いだろう。
興味のある方は氷の安全に配慮しつつ、チャレンジしてみてはいかがだろうか。
2017年運転案内
運転区間:JR釧網線 釧路~標茶(しべちゃ)間
別保川通過時刻:上り/午前11時16分ころ、下り/午後3時20分ころ(天候などの影響で、遅れや運休の場合あり)
運転期間や各駅の発車時刻、料金などは、上記リンク先で確認のこと
所在地:釧路町別保原野南25線付近
釣り期間:例年1月~3月上旬
対象魚:ワカサギ、チカなど
料金:自然河川のため無料
用意:ワカサギ釣り道具、防寒長靴、防寒着、手袋など
別保川の水深は1メートル強と比較的浅いが、潮位の変動があるため、岸際の氷がひび割れて不安定な箇所が多い。地元の釣り有志が例年、釧路東部消防組合裏など上流の川岸に木製ハシゴをかけている場所が幾つかあるので、雪の踏み跡を辿って氷上へ慎重に渡ろう。子供連れなどは転ばないよう、細心の注意が必要だ。
雪や水で濡れやすいため、長靴は必須アイテム。また、JR釧網線の鉄橋より下流は例年氷が薄く、近づかない方が無難。
お手軽なのは、旧国道44号線の橋南幹線通りに架かる別保橋だろう。橋の歩道から東の方角にSL列車とワカサギ釣りのテントを眺めることが出来るので、ぜひオススメしたい。